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第37話 いつもの二人のワンシーン

 本当に、いなくなったんだな……。


 朝。蓮見達紀(はすみ/たつき)は学校にいた。

 校舎の昇降口の下駄箱、教室の席。

 そこには桜井茜(さくらい/あかね)に関するモノはすべてなくなっていた。


 空虚な感じがするものの、時間が経つにつれ、あまり気にしなくなっていたのだ。

 教室の人らも、茜に関する話をしなくなっていたというのも理由の一つだろう。


 達紀は教室に到着すると自身の席に座り、窓からの景色を眺める。

 校門から校舎側へ歩いてくる人らの姿が視界に入るのだ。


 以前と同じ光景だが、どこかが違って見えた。


 ……それより、美術の先生に提出する絵を考えないと。


 達紀は、この前からどんな絵を描こうかと模索している最中だった。


 自宅にいる時はイラスト関連の本や動画を見て、色々と空想を広げて試行錯誤しているが、これといってしっくりとくるアイデアは思い浮かんでこなかった。


 描くとして何がいいものか。

 達紀は席に座ったまま、頬杖をつきながら考え込む。

 前回は、学校から見える山や街中を題材に描いていたのだ。

 あの時は深く考えずに行動へと移せていたからこそ、完成度の高い作品を作成できたのかもしれない。


 逆に楽観的に考えた方が、良いのだろうか?


 色々と迷走しながらも悩み考え込んでいたが、結論が出る前に、朝のHRが始まるのだった。




「お兄ちゃん、さっきから難しい顔をしてどうしたの?」


 昼休み。

 達紀は購買部でパンと紙パックの飲み物を購入した後、校舎一階の廊下で妹の一夏(いちか)と出会った。


「ちょっと、悩んでて」

「そうなの? でも、休み時間なんだし、気楽に考えるようにしたら?」

「んー、そうかもな。でもなぁ……」


 ずっと考え込んでいるのも無駄に疲れてしまう要因となる。

 けれど、自分の中でしっくりとは来なかったのだ


「そういえば、唯花は?」

「唯花はね、もう中庭に行ってるはずだよ」

「そうなんだ」

「いつも通り、一緒に食べよ!」


 一夏と共に廊下を歩き始めた。


「一つ聞きたい事があるんだけどさ。俺、どんな絵を描いた方がいいかな?」


 達紀は歩きながら話しかける。


「どんな絵って、それはお兄ちゃんが決める事じゃない? お兄ちゃん、絵のコンテストで佳作を取ったんだし。もっと自分の考えに自信を持ちなよ」

「ありがと。でもさ、どんな絵にすればいいかハッキリと決められなくて。何かアイデアとかない?」

「そうだねぇ、じゃあ、私と唯花を描いたら? 普段から一緒にいるし。その方がいいかも」


 一夏は自身を指さしていた。


「二人の絵か。それもありだな。ずっと考え込んでいるより、一先ず題材を決めずに描いてみるか」


 愛嬌の良い笑みを見せる一夏から後押しされ、少し活動的なった達紀。

 色々な絵を描いて、最後に提出する作品を一つに絞ればいいのだ。考える事も大切だが、一先ずは行動に移してみようと思うのだった。




「なんか、まじまじと見られると、少し恥ずかしいです」

「でも、これはお兄ちゃんの今後の為だからね。唯花、自然体なままね」

「う、うん」


 達紀と一夏は、中庭にいた津城唯花と合流した。

 一夏と唯花には隣同士でベンチに座ってもらい、達紀は少し離れたところに立ち、スケッチブックを手に二人を描き始めていた。


 一夏はパンを手に。唯花は箸を右手に持ち、左手には弁当箱を持っている状態だ。


 人を描くのが、そこまで得意ではないという事もあって、なかなか鉛筆が進まない。

 背景は静止しているからまだマシに感じるが、人を描く場合はある程度動きのあるものを見て描写する必要性があるのだ。

 まずは体の輪郭を意識する事が重要である。

 人がどこにいて、背景はどんな感じか。

 骨格を意識した線を書き、それに肉付けをしていくように立体的に描き出していくのだ。


 現在、ベンチに座って、二人の女の子が食事を取っているワンシーンを描き出す必要性があった。

 ベンチの後ろには、大きな木がある。

 周りにモノがあれば外にいる事を配慮し、陰になっているところを意識しながら、鉛筆を走らせながら描き分けていく。


「お兄ちゃん、そろそろ終わりそう?」

「この態勢を続けるのは結構大変なので……」


 一夏も、唯花も手元が震えていたのだ。

 スケッチブックに描き始めてから、五分ほど経過したと思う。


 達紀は大まかな部分を把握し、それぞれのサイズ感を意識したラフ画を済ませていた。


 こんな感じかな……?


 今は、ラフの段階であり、最終的にどんな仕上がりになるかまではわからない。


「お兄ちゃん?」

「あ、ああ。もう大丈夫だと思う」


 達紀はスケッチブックから目を離し、ベンチに座っている二人に話しかけた。

 彼女らはホッと胸を撫で下ろした感じに、手にしていたパンや弁当を食べ始めていたのだ。


 ここからだな。

 このラフをどういう風に表現していくかだけど。


 達紀は再びスケッチブックへと視線を移し、長考する。


 現状のラフ画を元に、後で下描きをしていくのだ。


 達紀はスマホのメモ帳機能を使い、後で付け足したい情報を箇条書き感覚で打ち込む事にした。


 まあ、こんなもんでいいか。


 時間がある時に、清書しようと思った。


 達紀はスケッチブックを閉じ、二人がいるベンチへと向かう。


 達紀はベンチに置かれた自身のパンとジュースを手に取り、一夏の隣に座るのだった。


「お兄ちゃん、さっきのスケッチブックを見せて」

「ラフ的な感じだからよくわからないと思うよ」

「でも、一応見たい!」

「じゃ、これね。汚さないようにね」


 達紀は妹に渡す。


 一夏は食事する手を止め、左隣に座っている唯花と共に、そのスケッチブックの中身を見ていた。


「ラフって、こんな感じなんだ」

「ちゃんと背景もあるし、結構リアルな感じですね」

「でも、さっきって私、唯花ともう少し距離が近かったよね」

「そうだね。友達同士だから、距離感を近くしてもいいかも」


 一夏と唯花は、達紀のラフ画を元に、色々と話し合っていた。


「えっとさ、お兄ちゃん?」

「なに?」


 達紀はパンを食べている時だった。

 しっかりと咀嚼した後で、一夏が見せてきたスケッチブックを覗き込んでみる。


「要望なんだけど、私と唯花の距離をもう少し縮めてほしいの。それと二人が楽しそうにしている感じで」

「わかった。その要点を踏まえて調整してみるよ」

「後ね。描き終わってからでいいから、その絵が欲しいなって」

「じゃあ、コピーになるけどいい? 印刷するから」

「いいよ。唯花も分もお願いね」

「わかった。二人分のコピーな。完成次第、渡すから」

「お願いしますね、達紀先輩」


 箸を手にしている唯花からも頼み込まれるのだ。


 一夏と唯花に渡す事になるならば、二人の記念に残るような絵にしたいと思い、パンを食べながら再び長考し始める。

 まずは一作品だけど完成させようと思うのだった。


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