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第29話 夜の準備をしよ!

「達紀先輩が私と同じ部活に入ってくれて嬉しいです!」


 調理室の後片付けを終え、夜の七時頃までには皆、学校から立ち去っていたのだ。


 蓮見達紀(はすみ/たつき)らも学校を後に、夜の景色に溶けこむように岐路についていた。

 辺りの道は、電灯の明かりで照らされている。

 車道近くの歩道を歩いていると、車が通過する時だけ三人の姿を大きく照らすのだ。


「お兄ちゃんには期待してるからね!」


 右隣にいる妹の一夏(いちか)からも期待されていた。


 達紀は一応、ファミレスのバイトをしている事もあり、料理経験はあるのだ。

 今いる三人の中では実力が高い方だろう。


「ん? ……そうか」


 達紀は道を歩いている際、何かに気づいたかのようにハッとした顔を浮かべた。


「どうしたんですか、先輩?」


 左隣にいる津城唯花(つしろ/ゆいか)が、突然の事に少々驚いていた。


「俺、バイトをしているわけだから毎日は参加できないんだった」

「じゃあ、バイトを辞めるとかは?」


 一夏から提案される。


「んー、それもな。でも、すぐには辞められないんだよな」


 シフト的な問題もあり、店長に対し、すぐに辞めるとは言い出せないのだ。

 達紀は、二人に挟まれたまま歩き、悩んでいた。

 バイトを続けていたとしても、現状、芹那とシフトがかぶる事はないと思う。

 いっその事、辞めてもいいのだが、状況が変われば、また芹那と同じ時間帯のシフトになる場合もあり得るのだ。


 バイトに関しては、状況を見て判断しようと思うのだった。


「それで、達紀先輩はどれくらい料理が出来るんですか? 私、先輩が料理をしているところを見たことがないので直接見てみたいです」


 隣にいる唯花が、達紀の事を尊敬するような眼差しで見つめていたのだ。


「そうだったな、唯花には見せた事が無かったな」


 達紀はファミレスでバイトをしているわけだが、料理のプロというわけではない。

 ただ、野菜を切ったり、事前に仕込まれたモノを温めたり、デザートを盛り付けたりと、比較簡単なことしかやっていないのだ。

 唯花が想像しているような料理人とは全く違う。


「唯花、そこまで期待しないでほしいんだけどね」

「でも、私よりも経験があると思うので、頼りにはしてますね」

「あ、ああ……」


 思ったより、唯花の期待度が高いみたいだ。

 本格的な料理が出来ないと言いたくても状況的に難しかったのである。

 達紀は冷や汗をかいていた。


「そういえば、明日ってハンバーグの日じゃなかった?」

「そうだね」


 一夏と唯花は、達紀を間に挟んだまま、明日の部活の内容について話していたのだ。


 ハンバーグか……。

 バイトでハンバーグを焼いた事はあるんだけど、作り方がわからないんだよな。

 後で調べておくか。


 達紀は二人の会話を聞き、家に帰ったら明日のための勉強でもしておこうと、悩ましい顔を浮かべ、思うのだった。




「ん? そういえば、唯花の家ってこっちだったっけ?」


 達紀が夜道を歩いていると、ふと思う。


「いいえ、違いますよ。私の家は、さっきの信号機を渡った先です」


 唯花は振り向いて、さっき通り過ぎた横断歩道の方を指さしていた。


「だよな。このままだと遠回りになるんじゃないか?」


 達紀は背後を見やる。

 今いる場所から、信号機がある場所まで大分離れているのだ。


「お兄ちゃん。唯花は私らの家に泊るんだよ」

「え? そうなのか?」


 右側にいる一夏から説明してもらう。


「唯花のお姉さんは、今週中は大学の方が忙しくて家に帰れないんだって。だから、家に泊るって。ね、そうだよね、唯花」

「うん、そういうこと」

「そうか、ならいいんだけど」


 達紀は少し首を傾げていた。

 この前の休みの日に、芹那から来週は大学が忙しくなるなんて聞いていなかったからだ。


 唯花を預けるなら、この前の土曜日に言ってくるはずである。

 ただ、唯花が嘘をつくような子ではない為、変に疑うのも違う気がした。


 達紀は、左側にいる唯花を見る。

 彼女は笑顔を返してくるだけであり、やはり、変に考えすぎだと思うようにしたのだ。


「お兄ちゃん、家の近くにあるコンビニに寄って行かない? ほら、そこにあるでしょ!」


 暗い場所を歩いていると、眩い明かりを放つ場所があった。

 それは達紀らの視線の先に存在する建物であり、基本的なモノが売っているコンビニだ。


「私も寄って行きたいです」


 唯花も行く気満々であった。


「唯花もか。じゃあ、しょうがないし、寄って行くか」


 達紀は二人と共にコンビニへ向かう。


 入店すると、いらっしゃいませという声が店内から聞こえ、一夏と唯花はお菓子が売っているコーナーへ足を進ませ、達紀は二人を追うように歩く。


「チョコもあるね」


 唯花は、チョコレート商品の並びにある板チョコへ手を伸ばしていた。


「またチョコを食べるの?」


 唯花の隣にいる一夏の瞳がジト目になっていた。

 今日の部活で作ったのもチョコが入ったクッキーだったからだ。


「いいじゃん、一夏も食べよ。チョコは美味しんだからね!」

「別にいいけど。んー、チョコは甘すぎるし、私はこっちのポテチがいいかな」

「それもいいね。どっちも買お」

「そうだね。でも、お菓子ばかりだとよくないし、弁当も買って行こ。今から夕食も作れないし」

「うん」


 二人が会話していると、なにかと賑やかになる。

 でも、そこまで煩い感じではなく、彼女らからは楽しい雰囲気を感じられたのだ。

 女子高生らしい楽しみ方をしていると思う。

 本当の意味で青春をできるのは高校生の内しかできないのだ。


 達紀は彼女らの保護者のように背後から眺めていたのだった。




「お兄ちゃんはこれでいい?」


 一夏が振り返り、達紀に見せてきた弁当は三色ご飯弁当だった。

 そぼろと、タマゴと、ホウレン草。

 その下にギッシリとご飯が敷き詰められている感じだ。


 そこまで好きな弁当ではなかったものの、一夏から勧められた事で、成り行きでそれにする事にした。

 達紀は三色ご飯弁当を妹から受け取る。


「唯花はそれなの?」

「うん。私は、生姜焼き弁当が好きかな」


 唯花が持っている弁当には、生姜焼きのタレが多量にかけられたお肉が、白米の上に乗せられてある。

 見た目からして美味しそうだった。

 達紀もそっちの方が食べたいと思ってしまう。


「じゃあ、私は、カレーライス弁当にしようかな。あと、レジ横のホットショーケースの中にあるチキンを買えば、丁度いい量になるかも。お兄ちゃんは他にいる?」

「俺はもう少し考えるよ」

「じゃあ、私たちは会計しよ。唯花もお兄ちゃんも個別に支払ってね」


 弁当コーナーのところに佇んでいた二人はレジへと向かって行く。


 達紀は自身の目で弁当コーナーを眺めた後、やはり、三色ご飯弁当にしようと心に決めるのだった。


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