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第23話 武尊の失態

 土曜日のことだ。

 二人は会場に訪れていた。


 スポーツ関連のイベントだけあって、蓮見達紀(はすみ/たつき)とは全然違うタイプの人ばかりである。

 辺りにいる人らが派手な格好をしている中、今の達紀は違和感なく溶け込めていた。


 普段の達紀なら浮いていたと思うが、芹那から身だしなみを整えてもらい、今ではスポーツでもやってそうな容姿になっていた。

 今風のスタイルであり、動画映えしそうなビジュアルだ。


 その隣には、黒色のテールコートを身に纏った芹那がいる。

 津城芹那(つしろ/せりな)は男性風のメイクをしており、傍から見れば身だしなみに拘り過ぎている男性にしか思えなかった。

 テールコートと言えども、カジュアル寄りの衣装であり、一般的な視点から見ても違和感はなかった。


 プライベートな日に芹那と一緒にいるなら、それはもうデートと言えるだろう。

 今日はいつもと違う恰好同士ではあるが、一緒の時間を過ごせる事に楽しさが勝っていたのだ。


 それと今日は、妹の一夏と唯花は、この場には不在だった。

 土曜日の今日は料理部としての歓迎会があるらしく、そちらに参加しないといけないらしい。

 唯花は先週、武尊から嫌がらせを受けていた。

 今日に限っては都合がいいと思う。

 唯花には辛い現状と向き合ってほしくないからだ。


「バレてないですよね?」


 達紀は隣を歩いている彼女に言う。


「そうね、問題ないと思うわ。周りの人らも、こちらに意識が向いていないようだし。殆ど人が、私らのいつもの姿なんて知らないわけだし。そこまで気にする必要もないはずよ。今は、変に疑われないように会場内を回って歩きましょ」

「そうですね。わかりました」


 達紀は頷き、見た目を意識した言動を心がけようと思った。




 二人がいる会場は物凄く広い。

 街中でもかなり大きい会場を手配したようで、大勢のスポーツ関係の企業が集まっている。

 野球やサッカー、ゴルフや卓球など多岐に渡るのだ。


 それぞれのブースには、企業としての経歴やスポーツの実績がパネルなどに掲載されている。中には世界で活躍するほどの選手を排出した企業までもが参加していた。

 ブースごとにレイアウトが違ったりして、見て回っているだけでも楽しめる感じだ。


 午前の時間帯なのだが、意外と多くの人が集まっている印象がある。


 達紀はそこまでスポーツが得意というわけではなく、凄いという感想しか抱けていなかった。


「あっちを見てみなよ。有名なプロ野球選手がいるよ」


 芹那の指さす方を見やると、そこには海外で活躍した事のある選手がユニホーム姿で佇んでいる。

 この会場ではスポーツ関係の有名人と直接会話できたり、アドバイスを貰ったりと実践的な技術を学べる内容となっているのだ。

 プロを目指すなら、絶対に参加したいイベントであった。


 そんな中、サッカーのブースを見てみると、見知った顔が達紀の視界に映る。

 そこにいたのは、まさしく津城武尊本人だった。


 芹那が言っていた情報通りに、彼は現れたのである。




「君は、確か津城武尊くんだね」

「はい」

「君の実績は私も把握しているよ。先週の大会でも順調に結果を残せたみたいだね」


 武尊は、プロのサッカー選手とブース前で向き合うように立ち、会話していたのだ。


「君のような実力を持ってるなら、いつでもプロとしてでもやっていけるよ。まずはプロとして契約をしたいから、来月に私が在籍しているチームに来てほしい。そこで正式な入団テストを受けてほしいんだけど。それでいいかな」

「はい。よろしくお願いします」


 武尊は笑顔で、その選手と順調なやり取りを行っていた。


「では、まずこちらの用紙に、アンケートを欲しいんだけどいいかな」

「わかりました。俺なら、すぐにでもチームに貢献できると思うので任せてください!」


 武尊は自信ありげな発言をすると、そのアンケート用紙とボールペンを受け取り、それに書き込んでいたのだ。


「ねえ、あんたさ。いつになったら終わるの?」

「あとちょっとだから」

「えー、私、そろそろ帰りたいんだけど」

「まだ来て、十五分くらいしか経ってないだろ。あと少しな」


 武尊と一緒に会場へと訪れていたのは、いつもの女性だった。

 その彼女は、そこまで会場のイベントには興味がないようで、不満げな顔を浮かべ、早く帰りたいという趣旨を告げていたのだ。




「どうしますか? そろそろ行動に移しますか?」

「んー、そうね……」


 芹那は、武尊らの存在を把握した状況で唸るように悩み込んでいた。


「まだね。もう少し様子を見ましょ。話はその後よ」

「わかりました」

「でも、気を抜かないようにね」

「はい」


 達紀は芹那の近くに佇み、頷いた。


 そんな時だった――


「すいません、今いいですか?」


 会場関係のスタッフから声をかけられたのだ。


「お二人さんはスポーツにご関心はありますかね? できれば、私たちのブースに来てほしいのですが、よろしいですか?」


 スーツ姿の男性は、二人の事を交互に正面から見ている。


「え?」

「私らは用事があって」


 達紀は驚き。

 芹那は頑張って断ろうとしていた。


「どうしても難しいでしょうか? そちらの方は、スポーツが好きそうな雰囲気がありましたのでお声かけしたのですが。どのスポーツがお好きだという要望はありますかね?」


 スーツ姿の男性は少々強引な形で話を進めてくる。

 彼は、営業の数字をあげるために必死なのだろう。


 達紀の今日の見た目がチャラそうだった事もあり、変なところでイベントスタッフから目立ってしまっているようだ。

 ある意味、成功なような失敗なような複雑な状況であった。


「今は少し、その人らの意見に従っておこうか」


 達紀は、隣にいる芹那から小声で言われる。


「なんでですか?」


 達紀も小声で返答する。


「ここで余計に目だったら意味がないでしょ」

「そうですけど」

「武尊の方にもすぐに変化はないでしょうし。今は従っておこうよ」

「わかりました」


 達紀は芹那のいう通りに従う意思を見せるのだった。


 達紀らはイベントスタッフに案内され、ブース内に置かれてあったゴルフのスティックを触り、見学していると、辺りが次第に騒がしくなっていたのだ。


「何かあったのかしらね?」


 芹那が辺りを気にするように呟く。

 達紀も大声がする方へ視線を向け、首を傾げていた。


 現状、人が多く、今いる場所からは、遠くの場所で何が起きているかまでは確認できなかったのだ。


「ねえ、行ってみる?」

「そうした方がいいですよね」

「すいません、私たち用事が出来て。また来ますね」


 芹那は当たり障りのないセリフをイベントスタッフに告げ、達紀はゴルフの道具を返し、その場を立ち去る。


 声する方角へと向かうと、そこは先ほど武尊がいたブースの近くであった。

 しかも、聞き覚えのある女の子の声も聞こえる。

 まさかとは思う。が、予想が正しければ、その声の持ち主は茜かもしれない。


 そんな心当たりを感じながらも、二人はその現場へ近づいて行く。


 案の上、そこにいたのは桜井茜だった。


 今、武尊は、普段からいる女性と茜の二人に睨まれているのだ。

 いわゆる修羅場を迎えていたのである。


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