04 上手に嘘をついて生きていこうと約束した。
「ブリック、この後の予定はどうなっている?」
「時間があるようなら、ユリアお嬢様がお茶でもご一緒できないかしら?と仰っていましたが・・・」
「ユリアか・・・」
「そんなに嫌がらなくてもいいのではありませんか?」
「あいつは私の結婚話に目がないのだぞ。相手が居るなら答えようもあるが、相手が居ないのだから、何を聞かれても答えられないだろう?!」
「ユリアお嬢様は・・・ただ面白がっているだけですよ。何か言われましたら、ユリアお嬢様が婚約者になってくださいと仰ってみてはいかがです?」
「なるほど。それはいい案かもしれないな」
「お茶をご一緒になさるなら、そろそろ待ち合わせの場所に向かいませんと・・・」
「何だ、勝手に約束していたのか?」
「誘われて都合の付かない時以外断られたことがないので、聞くまでもないと思っただけです」
「有能な秘書でありがたくて涙が出るな」
「いいえ、どういたしまして」
「褒めたつもりはなかったんだがなっ!」
「最大級のお褒めの言葉を頂いたとばかり思っておりました」
「もういい!どこで待ち合わせなのだ?!」
「先ごろユリアお嬢様が、お気に入りのクロワッサンサンドが美味しいパン屋が始めたイートインです」
「そうか。小腹も空いたしちょうどいいな。お前も座って食べるといい」
「ありがとうございます」
「ブリック、座って食べるといいと言ったのは一緒の席でという意味だったのだが?」
「いえいえ、お邪魔しては申し訳ありませんので・・・」
「別に邪魔じゃないっ!!」
「って、ユリア!なんでブリックの方に座るんだ!?」
「だって、約束したのはブリックとだもの」
「はぁ〜〜」
私は席を立って、ユリアとブリックが座っている席へと移動した。
「あっ・・・もしかして私はおじゃま虫だったか?!すまんすまん。気が付かなくて。ブリック!!帰り際、たまごサンドとベーコンサンドを買ってきてくれ。本当に済まなかったな」
俺は大笑いして二人の元を去ることに成功した。
立場は違うが、私、ユリア、ブリックは幼い頃からいつも一緒に居た。本当はユリアの姉、ルリスもいつも一緒にいたのだが、ルリスが事故にあい、たいした怪我はしなかったのだが、ルリスはそれから外出を酷く嫌がるようになってしまっていた。
ちょうど時間も空いたことだし、久しぶりにルリスのところにでも顔を出すとするか。
「ルリス、久しぶり、元気にしてるか?」
「あれ?ユリアと一緒じゃないの?」
「ブリックと約束していると言って、私を邪魔者扱いしたので、お暇してきたんだ。それで久しぶりにルリスの顔でも見るかと思い出したんだ」
「ふ〜ん・・・そうなんだ」
「何だその含みのある言い方は」
「ケイラン、そろそろ婚約話は出ていないの?」
「いきなりだな」
「色々出てきてはいるな。そろそろ本格的に決まるころだろう」
「なんだか他人事ね。相手は決まっているの?」
「三〜四人くらいには絞られていると思う。どうせ、政略結婚だろうしな。私の意志などあって無きがごとしだよ」
「ケイランに選ぶ権利はないの?」
「まぁ、そうだな。そのへんはルリスもユリアも似たようなものだろう?家同士の結びつきに本人たちの思いは関係ない」
「親父様も勿体つけずにさっさと決めてくれたら楽でいいのに、自分の婚約者を探しているのか?って聞きたくなるくらい、楽しんで決めているようだ」
「そうなの・・・」
「何だ?私が婚約すると寂しいのか?」
ほんの気まぐれで聞いてみただけだった。
「そうよ!ケイランの相手は、私達にずっと関わり合う人なんだから!!」
「ならルリスが私と婚約するか?」
ルリスが息を呑んで、俺の後方を見ている。
なんだ?と思って後ろを振り向くとユリアとブリックが立っていた。
「早かったんだな。もっとゆっくりしてくればよかったのに」
「お姉ちゃんを口説くために、私達が邪魔だった?!」
「別に気にしたりしないよ」
「私のことはどうでもいいってこと?」
「なんだ?嫌に絡むな。まぁ、いつものことか。ユリアはよっぽど私が気に入らないんだなぁ・・・ちょっとショックだよ」
私は笑って「そろそろお邪魔になるし、帰るとするよ。ルリス、またな」頭に一つ口づけを落として、ユリアには、頭を撫でようと手を上げかけて、触ってこれ以上嫌がられても困るなと思って「ユリアもまたな」と言って、私は二人と別れた。
「ケイラン・・・あなたはルリスお嬢様を選ぶのですか?」
「何の話だ?」
「婚約者の話です」
「お前が言ったんじゃないか?」
「何をです?」
「婚約者のことでからかわれたら、だったらルリスはどうか?と言ってごまかしただけだ」
「よりにもよって、どうしてルリスお嬢様なのですか?」
「嫌にこだわってくるな。ブリック、私には婚約者を選ぶ権利はない。どうせ政略結婚になる。好きだとか、恋しいとか思ったから、どうなるっていうんだ?」
「すみません・・・ですが、ユリアお嬢様は、ケイラン様の事が・・・」
「聞いてもどうにもならないことを聞きたくはない。ルリスもユリアも選ばれることはないんだよ。私の結婚相手として価値がないんだから」
「申し訳ありませんでした」
「できたら、その手の話はもうやめてくれ。それと、私との約束は十回に一度位にまで落としてくれ」
「・・・かしこまりました」
家に帰ると上機嫌な親父殿が出迎えた。
「ケイラン、君の婚約者候補を二人にまでに絞ったよ」
「そうですか」
「誰か聞かないのかい?」
「誰なのですか?・・・ウーオリアス公爵家の三女のシューティア嬢か、ベルロット公爵家の次女のアナスタシア嬢辺りですか?」
「何だ想像ついてたんだ?」
「まぁ、四人にまで絞った時に釣り書を見ていたので」
「どちらがどういう利益があるんですか?」
「どちらも同じくらい利益はある、だが、ベルロット家とのつながりが欲しい」
「解りました。一度お会いしてみてからになりますね。あちらにも好みというものがあるでしょうから」
「好きな相手と結婚させてやれなくてすまないね」
「そんな相手は居ませんからお気になさらず」
「そうかい?」
「はい」
ベルロット家のアナスタシア嬢とお会いしてみて、中々の好感触だった。
双方とも、話を進める気になり、父親同士で話して、婚約が決まった。
婚約指輪を二人で選びに行き、アナスタシア嬢の気に入るものがあったので、購入を決めた。
小柄なアナスタシア嬢は指のサイズも小さくて、サイズ直しに一週間かかると言われた。
婚約したばかりだが、もう結婚式の話になっていて、驚くが、何かと準備に時間がかかるのは理解できるので、どんどん話を進んで行くのについていくのがやっとだ。
アナスタシア嬢と二人で話し合った。
今まで好きになった人のこと、思い出にしなければならないこと、これからの二人のこと。
互いに尊重しあって、上手に嘘をついて生きていこうと約束した。
婚約指輪ができたので取りに行き、アナスタシア嬢の左薬指に私自らはめた。
一つ覚悟が決まった。
ルリスとユリアにもアナスタシア嬢を婚約者として紹介した。
アナスタシアには、ブリックと四人で、子供の頃は仲良かったのだが、最近はからかわれてばかりで、困っているんだと話した。
私は上手な嘘を吐けているか少し心配になった。