03 無邪気に好きと言っていいのは何歳までなの?
幼馴染の一話完結型の物語です。
前の話とは全く関係のない話です。
「チュア!!大好き!!」
何も気にせずそう言えていたのは一体何歳までだったろう?
六歳の頃には既に周りの子に渋い顔をされたような気がする。
なのに、他の男の子と二人きりになると「リュイが好き!!」と言われる。
私はチュア以外から好きと言われても嬉しいと思えなくて、小さな声で「ありがとう」としか答えられなかった。
チュアに男の子と二人きりになると、好きだと言われると伝えると、チュアは怒って、大きく足踏みをした。
「あいつら、リュイを泣かせてばかりにいるくせにっ!!」
そう、私に好きと言ってくる男の子たちは、いつも私の嫌がることばかりして、最後には泣かされる。
棒に刺した虫の死骸を顔にくっつけようとしたり、チュアの側に行こうとしたら通せんぼをしたりする。
やめてと言っても聞いてくれなくて、チュアに助けを求めると、もっと酷い意地悪をしようとする。
なのに二人っきりになったら私のことが好きと言う。
「きっとそれもリュイの嫌がることをしているんだよっ!!」
チュアにそう言われて、思わず納得してしまった。
「じゃぁ、私がありがとうって言うのは間違っているんだね?!」
「嫌いなやつには嫌いと言った方がいいと思うぞ」
チュアにそう言われて私は納得して、意地悪する男の子たちには「大っ嫌いっ!!」と答えるようになってからは、意地悪をあまりされなくなった。
チュアに報告すると、チュアは私の頭を撫でてくれて良く頑張った。と褒めてくれた。
チュアも私も侯爵家の子供らしい。
両親が仲が良かったので、子供の私達も仲良くなった。
チュイは本当に優しくて、格好良くて私の王子様だった。
両親達は二人が仲が良いのならと、婚約させようとお酒を飲んだ席で盛り上がって、酔った勢いで婚約の書類を作成した。
提出は執事が止めて、できなかったけれど、酔いが醒めて、冷静になってから、また話し合い、もう少し大きくなったら提出しようと、婚約の書類は大事に仕舞われた。
そんなことはリュイとチュアには関係なく、仲のいいまま大きくなっていった。
チュアは思春期に突入した時に少し素っ気なくなったけど、いつも私の背後に居て、私を守っていてくれた。
女の子ばかりの授業になると「いい加減チュア様を自由にしてあげてはいかがですの?!」と嫌味を言う子に囲まれてしまうが、子供の頃のようにか弱いリュイではなくなっていた。
「チュアが私を嫌なら私が何をしても離れていくわ。離れていかないってことは私と居て、満足しているってことよ!!あなた達こそチュアに認識もされていないのに、チュアに隠れて私に嫌味を言うのをやめてっ!!」
その騒ぎを聞きつけ、教師が仲介して、席を離され、授業が再開される。
これが毎回のことだった。
私はもう、いい加減嫌になってきていたので、チュアと馬車で二人きりになった時にチュアに質問した。
「チュア!!」
「んぁっ?」
「私、今でもチュアが好きだわ。それも特別な好きよ!!」
少々怒りをにじませた雰囲気でそう言ってしまった。
「内容と口調が合っていない」
「ごめんなさい!でも、私、もういい加減、チュアの特別になりたいわっ!!」
私は、勢いが落ちて「チュアは私が特別になるのは嫌?」
チュアの手が後頭部に回されて、引き寄せられる。
鼻と鼻がぶつかって「俺を選んで後悔しないか?」
「私、チュア以外を選んだことないでしょう?!でもチュアは私に素っ気なくなってしまったもの。私のことが嫌いになったのかと思って、悲しいんだからね」
唇と唇が触れ合って「本当に俺でいいんだな?」
「うん。チュアが好き」
「リュイが好きだ」
もう一度唇が触れ合って、チュアは目元にもキスをした。
いつもはチュアは私を送っていった後、すぐに帰ってしまうのだけど、今日は馬車から降りて、私をエスコートしてくれた。
執事のスールに両親に会いたいと伝え、両親が来るのを二人で待った。
「リュイと気持ちを確かめあいました。婚約話を進めて欲しいと思います」
両親は笑顔で、金庫から書類を取り出し、チュアに渡す。
「これは君たちが六〜七歳の時に作った書類だ。リュイとチュアが望むのならこの話を進めようと決めたんだ。やっと婚約だね。十年は長かったよ」
「今から私の両親のところにリュイを連れて行っても良いですか?」
「勿論だとも!!書類は、明日、私に時間があるから、提出してくるよ」
「ありがとうございます。父の意向を伺ってからお願いするかもしれません」
「さぁ、早く行っておいで」
「お父様、お母様、ありがとう!!」
「まだ嫁にはやらんからなっ!!」
チュアは苦笑して「では行ってきます」と立ち上がった。
チュアの家に着くと、おば様が迎えに出てくれた。
「二人で帰ってくるなんて珍しいわね」
チュアは書類を見せ「親父とも話を・・・」
チュアが言い終わる前に、おば様が「あなた!!あなた!!急いで!!ねぇ!!早くっ!!」と叫んでいた。
おじ様が「なんだい?大きな声を出して」と言って私達のところにやってくると、チュアはまた書類を目の前に広げて見せた。
「チュア良くやった!!やっと、やっとこの時が来たんだね!!」とおば様とおじ様は大喜びしてくれた。
「リュイ本当にチュアで良いのかい?他にもいい男はいるだろう?」
「余計なことは言うな。リュイのおじさんが明日提出してくれるって言ってるんだけど・・・」
「善は急げだよ!!今から出しに行こう!!きっと間に合うさ」
おじ様、おば様、チュア、私の四人は馬車に乗って急いで届け出を出しに行った。
ぎりぎり間に合って、受け付けてもらえて、二枚の受領書が渡されて、私達は婚約者になった。
チュアは帰り道で宝飾店に寄って、私の指に合う婚約指輪を注文してくれた。
私が気に入った指輪はサイズがなくて、翌日になると言われた。
受領書を持って帰ると「先を越された」と父が悔しがり、母は「おめでとう」と言ってくれた。
翌朝、いつものように迎えに来てくれたけど、昨日までとは違い、馬車から降りて、迎えに来てくれた。
エスコートをしてくれて、馬車に乗る。
二人になるとキスをされた。
「チュアは婚約者になるとこんなに甘くなるのね」
私が笑うと「幼馴染と婚約者ではしても良いことが違うだろうが」と言いながらキスをしていた。
馬車から降りる時もエスコートされ、昨日とは違うのだと胸を張る。
女子だけの授業が始まると、またチュアが好きな女の子たちが寄ってきて文句を言うが、私に怖いものはもうない。
「私が私の婚約者とどう過ごそうが、あなた達には関係ないわ」
「婚約?!」
「とうとう妄想でもするようになりましたの?!指輪の一つもせずに婚約者を名乗るなど・・・」
「なんとでも言えばいいわ。私とチュアは婚約したから、あなた達の助言は結構です。チュアも今の関係に満足しています」
私の気分は爽快だった。
帰り道、宝飾店に寄って、サイズ確認をして、指輪をチュアがはめてくれた。
私は昨日、目をつけていた腕時計をチュアにプレゼントした。
婚約者がいる女の子は婚約指輪を。
婚約者がいる男の子は腕時計を。
もう、誰にも何も言わせない。
「チュア!!大好き!!」