18 一足遅かった
「勝己と麗奈が結婚したって聞いた?」
「え?嘘!あの二人めっちゃ仲悪かったじゃない」
「それが実は好きの裏返しだったらしいよ」
「えーーっそんなことってあるの?!」
「素直になれなかったんだって」
「素直・・・素直か〜〜〜私も素直になれたらなぁ〜」
「なに?素直になったらどうなるっていうのよ?」
「実はさぁ〜祥太朗のことが子供の頃から好きなんだよね〜」
「それは知ってる」
「えっなんで?」
「バレバレだよ?阿佐谷(あさがや)君も解ってるんじゃない?」
「うそ・・・」
「嘘じゃないよ。本当。前に阿佐谷君に聞いたことあるんだ」
「ちょっと、何を聞いたのよ?!」
「亜胡のことどう思っているのかって」
「ほんとに聞いたの?」
「聞いたよ。でね・・・」
「教えないで!!聞きたくない!!」
「聞いたほうがいいと思うけど?」
「良い答えでも悪い答えでも人から聞きたくないっ!!」
「なるほど。なら阿佐谷君に告白しておいで」
「それは無理」
「なんで?」
「祥太朗は生まれたときから側に居るんだよ!そんな相手に万が一振られたらどうすんのよっ!もう私、生きていけないよ?」
「で、彼氏も作らずこのまま一生を終えるんだ?」
「彼氏は作る。好きすぎる男より二番目の男とのほうがうまくやっていけるってどこかで聞いたから」
「二番目に好きな男って誰よ?」
「紗英のお兄ちゃん」
「紗英って亜胡が仲良くしてる子?」
「そう。紗英のお兄ちゃんから告白されててさぁーOKしようと思ってるんだ」
「へぇーー阿佐谷君のことはいいんだ?」
「よくはないけど二十三歳になるまでどうにもならなかったんだから、もうどうにもならないってことでしょ?だから祥太朗のことは幼馴染でいいんだ。子供の頃から好きだった。それだけでいいと思うようになってきた。初恋は実らないって言うし」
「初恋は実らないか・・・それって行動しないからじゃない?」
「他の人のことは知らないけど私の場合は違うよ。長い間思いを募らせすぎて実が腐って落ちていくんだよ」
「腐っちゃったの?」
「もうそれはそこら中に匂いを撒き散らすほどにね。それに私、祥太朗に一度振られているんだ」
「えっ?」
「嘘じゃないよ」
「でも阿佐谷君は・・・」
「聞きたくないって言った」
「あっ、ごめん」
「腐ったこの思いはもう捨てるんだ」
「それでいいんだ?」
「うん。それでいいんだ」
「そっか・・・でそのお兄ちゃんとやらはどんな人なの?」
「うふっふっ〜。身長約百八十八cm。体重は多分七十五kgくらい。年は二十六歳。顔は中の上かな。今は優しい」
「今はなんだ?」
「付き合ってみないとどうなるか解らないでしょう?」
「まぁ、そうね」
「だから早く付き合って、互いを知って結婚するんだ〜」
「なんか阿佐谷君にもお兄さんにも失礼な気がする」
「でも付き合ったら一番になるかもしれないじゃない」
「そんなことってある?」
「わかんない」
「誠意を持って相手と付き合いなさいよ」
「うん。解ってる。私は本気で付き合う気だもの」
「後悔するよ?」
「覚悟の上よ」
♂♀♂♀♂♀♂♀ ♂♀♂♀♂♀♂♀ ♂♀♂♀♂♀♂♀ ♂♀♂♀♂♀♂♀
「阿佐谷君・・・亜胡、友達のお兄さんと付き合うって」
「そうか」
「そうかって、それでいいの?亜胡が好きなのは阿佐谷君なんだよ!!」
「知ってる」
「前に亜胡の事好きだって言ってたじゃない!」
「亜胡と俺の問題だ上埜が口出すことじゃないよ」
「っ・・・ごめん。でも両思いなのになんで?!」
「互いに一緒にいても苦にならないんだ。空気みたいなもんで側にいて当たり前過ぎて恋人にしたときのことが想像できない」
「亜胡のこと振ったって本当なの?」
「俺がか?」
「うん。亜胡が言ってた。阿佐谷君に振られたって」
「記憶にない・・・亜胡は本当に俺に告白したって?」
「う、うん。それ以上詳しいことは聞いていないけど・・・」
「俺は本当に覚えがないっ!」
「亜胡と話したほうがいいんじゃない?」
「そう、だな。話したほうがいいよな・・・」
「なら早いほうがいいよ。亜胡が側にいて当たり前の存在じゃなくなっちゃうよ」
「上埜の嘘じゃなくて本当に相手がいるのか?」
「告白されたって」
「マジか・・・。上埜、ありがとう。亜胡と会って話をしてくるよ」
「うん。頑張れ!!」
「ああ」
亜胡の家で亜胡が帰ってくるのを待つ。
亜胡の家に勝手に上がって冷蔵庫を漁っていても誰も気にしない。
亜胡はいつの頃からか俺の家に来なくなったが、俺は変わらずセカンドハウスのように亜胡の家に自然にお邪魔している。
亜胡はいつから来なくなった?
小学校の頃には来てたよな。中学一年の時は?・・・二年の時は?・・・そうだ!三年の夏休みから来なくなったんだ。
なんで来なくなったんだ?
夏休みに亜胡と俺ん家で一泊の海水旅行に行ったんだ。
そこでくたくたになるまで遊んで龍泉(たつみ)と寝てたんだ。
そうだ!あの時!!
なんでか目が覚めたから夜の海を見たくなって見に行ったんだった。
俺を追いかけてきたのか亜胡が後からやってきたんだ。
「祥太朗・・・何してんの?」
「いやなんだか目が覚めて、夜の海がどんなのか自分の目で見てみたくて」
「そう」
「亜胡は?」
「なんとなく海が見たくて」
「そっか。今日はよく遊んだよなぁ〜」
「そうだね。ご飯食べているときに寝落ちしそうになるなんて初めてだったよ」
「俺は亜胡ほどじゃない!!」
「すぐそうやって張り合おうとするんだから。おこちゃま」
「おこちゃまって言うな!」
「おこちゃまでも好きだよ」
「俺は亜胡なんか好きじゃない!!」
「あはっ!そっか。そうなんだ。あんまり遅くまで海にいるんじゃないわよ」
「うるせえ!亜胡は帰れ!!」
「うん。そうするね。おやすみ」
そうだあの時亜胡は確かに好きだと言った。
でも俺は好きじゃないって言ったんだ・・・。
亜胡はその日二十三時を回っても帰ってこなかった。
亜胡の家族皆が眠るのに俺が残っているのもおかしな話で、仕方なく自分の家に帰った。
自室から家の前の道路を見下ろしていると亜胡の家の前に車が停まった。
車から降りる亜胡に車中から声がかけられたのか窓から中を覗き込んでいる。
二言三言言葉をかわして亜胡が手を振り車が去っていく。
見送っていた亜胡が家に入ってしまう。
声を掛けようと思っていたのになぜだか声が掛けられなかった。
フロントから見えたあの男は誰なんだろう?
上埜が言っていた告白された相手なんだろうか?
亜胡にメッセージを送ろうかと考えて止めた。
何を送ればいいのかも解らなかったから。
もしかしたらもう遅いのかもしれない。そんな気がした。
それから何故か亜胡を待っているのに亜胡に会えなかった。
いつも以上に亜胡の家でウロウロしていたのに亜胡だけがこの家からいなくなってしまったかのようだった。
二週間ほど経って亜胡に久しぶりに会った時、俺が知ってる亜胡ではなくなっていた。
「亜胡・・・なんか綺麗になった」
「そう?何も変わらないと思うんだけど、最近よく似たことを言われるわ」
「好きな男でもできたのか?」
「えっ?!」
両手で両頬を押さえ赤くなっている亜胡は本当に綺麗だった。
そして俺は遅かったのだと理解した。