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16 幼馴染の父親が・・・

 戦争が終わって急激に人口が減って子供を産めよ増やせよと子供の数ばかりが増えていった。

 僕の住む村も子供がたくさんいた。


 僕の家にも兄弟が8人。

 右隣の家の子は兄弟が6人。左隣は兄弟が11人いる。

 子供が増えると食い扶持を稼がなければならいけれど、収入はそうそう増えるものではない。


 5歳を超えると家の手伝いをすることになり、10歳を超えると現金収入を求めて外へと仕事を求める。

 男の子は狩りをしたり女の子は山菜やきのこ、薬草なんかの採取をして家計を助けた。


 左隣の11人兄弟の8番目の子が僕と同じ歳で僕たちはいつも一緒に居た。

 つい最近まで男女の区別というものが解っていなかったのだけれど、10歳を超えると理解できるようになった。

 8番目の子はアーシャという名前で笑顔がとびきりかわいい子だった。


 アーシャが僕に向かって笑顔を見せてくれるとなぜだか胸がドキドキして顔が熱くなる。

 兄にその話をしたら「ベルクもお年頃になってきたんだな」と言って僕を笑った。


 結局僕のドキドキの理由を教えてくれなくて、何か解らなくてもやっぱりアーシャが笑ったり僕と手を繋いだりするとドキドキした。

 

 その日は9〜12歳の子供が集められ集団で森の中で採取の仕事にありついた。

 アーシャと手を繋いでいると近くにいた子が僕とアーシャをからかってきたけれど、アーシャが相手にしなくていいと言って僕を引っ張ってずんずん先へと進んだ。


 普段より少し先へと来すぎてしまったけれど、人があまり来ないこともあって採取物がたくさんあった。

 背中にしょった籠をおろしてせっせと採取していく。


「これだけたくさんあるなら家にも持って帰れるね」

「そうだね!!」

 夕食のおかずが少しでも増えることは歓迎なのでアーシャと僕は無言で採取していた。


「ぐるるるるっ!!」

 唸る声が聞こえてハッと顔を上げると真っ白な狼の子供がいた。

 僕たちの腰のあたりに頭がある。

 僕たちでは狼を狩ることもできない。


 僕は緊急の指笛を吹いて狼が出たことを知らせる。

 大きな子達が気がついて助けに来てくれる。そう自分に言い聞かせて狼をにらみながらアーシャを背にかばった。


「アーシャ狼を見たままゆっくり後ろに下がって」

「うん、解った」

 僕たちは狼から視線を外さずにゆっくりと後退していった。


 背後からガサゴソと音が聞こえて他にも狼が来たのかとビクついたけれど、声がかけられて安堵した。

「よく頑張ったな」

 そう言ってくれた年長の子の声も震えている。

 鍋の底を棒で叩いたような音をさせながら僕たちの方にやってくる。


 狼は多勢に無勢と背を向けて走り去った。

 その場にいる全員がホッとしたのは言うまでもなかった。

 アーシャは僕に抱きついて「怖かった・・・」と言い「僕も怖かった」とアーシャに抱きつき返した。


 アーシャのおでこや頰に僕の唇があたる。

 意識してのことではなかったけれど、意識した途端に恥ずかしくなった。


 狼が仲間を連れて帰ってきたら大変だからと言い聞かされて、まだ沢山採取物が残っているのにその場を後にするしかなかった。


 その日の夕食時に今日あったことを家族に聞かせて、怖かったけれど、狼を退けたことを誇張して話した。

 両親にはまだ森の奥深くに行ってはいけないと注意されて、無事に帰ってきてくれた本当に良かったと頭を撫でられた。


 翌日アーシャに両親に怒られながら褒められたと伝えるとアーシャの両親は女の子は役に立たないと言われたと言っていた。


 アーシャの両親は男の子はよく稼いでくるからと大切に扱うが、女の子には優しい人たちではなかった。

 アーシャの両親の分も僕がアーシャを褒めた。


「アーシャは僕の言う事をよく守っていたよ。叫び声も上げなかったしね」

「怖くて声が出なかったの」

「それでも慌てて背を向けたりせずゆっくり下がれたじゃないか。それは凄いことだよ!」


「あのとき、かばってくれてありがとう」

「へへっ。これからも僕がアーシャを守るよ」

「うん。ありがとう」

 アーシャの弾けるような笑顔が見れて僕は幸せな気分になった。



 15歳になっても僕とアーシャは一緒に居た。

 僕はアーシャに恋をしていたし、アーシャも僕のことが好きだと信じている。

 なのにアーシャが僕に驚くようなことを告げた。


「私ドルマンと結婚しろってお父さんに言われた」

 ドルマンというのは右隣の2番目の子だった。

「どうして?!」

「ドルマンが空き家をもらえることが決まったから・・・」


 15歳になると結婚の予定があれば空き家をもらうための申請ができる。

 僕とアーシャも連名で一軒の家に申し込みをしているところだった。

 

 僕はアーシャの父親に文句を言いに行った。

「僕とアーシャが連名で家の申し込みをするって伝えていたでしょう!なのになぜドルマンと結婚する話になるんですか?!」


「女は邪魔なんだよ。いつまでも家に要られたら迷惑だ!」

「解りました。じゃぁ今日から僕の家で引き取ります!!」

「ば、馬鹿なことを言うな!!そんな格好の悪いことが出来るか!!」


「いいえ!連れて帰ります。僕とアーシャは結婚する約束をしています。おじさんにとってどうでもいい子みたいにアーシャのことを言うけど、僕にとっては宝物のように大切な子なんだ!!」


「アーシャも15歳を超えたから自分で好きなところへと行ける!アーシャ!荷物をまとめておいで」

「う、うん。解った」


 アーシャの荷物は着替えが数着しかなかった。

「ベルク・・・本当にいいの?」

「・・・勢いでおじさんにああは言ったけど正直解らない」

 アーシャを家に連れて帰って両親に事情を説明すると母は喜んでくれた。


「一番上の兄貴より先にベルクが先にお嫁さんを連れてくるとは思わなかったわ。あなた、アーシャの父親と話してきておくれ。アーシャは家で預かると」

 父は何かを言いたげだったけれど、母の言うことには逆らわずに黙って立ち上がって家から出ていった。


 父は長く家に帰ってこず僕は不安を抱えて父の帰りを待った。

 父は拳を赤くして帰ってきた。

「空き家に当選するまでアーシャは我が家にいたらいい。あの男があそこまで下衆げすな男だとは思わなかった」


「何があったの?」

「お前が知る必要はない」

「アーシャのことで僕が知らなくていいことはないよ!!ちゃんと教えて」

 父は大きく息を吐いて椅子に座り、アーシャの家であったことを教えてくれた。


 まとめると、アーシャの父親は女の子は役に立たないからいらない。けれど結婚もせずに家を出すのは恥になるからドルマンの嫁にして家から追い出すと言うばかりで父さんが何を言っても聞き入れなかったそうだ。


 特にアーシャは他の娘よりも稼ぎが悪かったと言い、結婚してからも育ててやった費用を返してもらいたいくらいだと言い出したそうだ。


 アーシャは確かに他の誰よりも稼ぎが悪かっただろう。

 僕がアーシャに全額家に持ち帰ることをやめた方がいいと言ったから。

 おじさんのことを今までアーシャから聞かせられていて、結婚の時に親が出すべき費用も用意してくれないと思うから、稼ぎの三分の一の金額を僕が預かることにしていた。


 当然僕もアーシャと同じ金額だけ避けて両親に渡していた。

 空き家さえ貰えれば直ぐにでも生活できるだけの準備はしていた。


「近くに住んでいたのに、あの男があんなやつだとは思いもしなかったよ」

「父さん、おじさんを殴ったの?」

「・・・ああ」

「どうして?」


「途中からアーシャを連れて行くなら金を払えと言い出したんだ。子供は親の持ち物ではないと言うと掴みかかってきたんだ。振り払うと向こうがひっくり返って、それが恥ずかしかったのか殴りかかってきたんだ。それでつい・・・」

 父には殴られた様子はなかった。

「父さん・・・」


「まぁとにかく、奥さんにはアーシャのことをよろしくお願いしますと言われたから、家が決まるまでこの家にいるといいさ」

「ありがとう」

「幸せにしてやれよ」

「頑張るよ」


 翌日僕はドルマンのところに話を通しに行った。

 ドルマンにアーシャと僕のことを話すと、アーシャのおじさんが勝手に言っているだけで、ドルマンにアーシャを娶る気はないんだと聞かされた。


 空き家の申込みも他の女の子との連名で申し込んでいるのに、アーシャの父親には迷惑していたんだと言った。 

 僕はほっと胸をなでおろしてドルマンと別れた。




 それから2ヶ月後、申し込んでいた空き家を貰えることになって僕たちは必要なものを揃えて結婚の申請をして空き家へと移り住んだ。

 アーシャの家には僕が行っておばさんに結婚の報告と家の場所を伝えた。


 おばさんが自由にできるお金なのだろう。子供の小遣いのような金額を僕に渡そうとするので「アーシャの心配はいりません。妹たちにご飯を食べさせてあげてください」とお金を返した。


 アーシャの家の女の子は他のどの家の子よりも痩せていた。

 アーシャがいるときは毎日パンを一つ買って帰って妹たちに食べさせていたけれど、アーシャがいなくなってパンをもらえなくなってもっと前よりも痩せていた。


 ぼくはアーシャの父親が女の子にはご飯を食べさせていないからあんなに痩せているんだと噂をばらまいた。

 その噂は非難となっておじさんの耳に入った。

 家で不機嫌な態度でいるらしいけれど、妹たちがまともな食事を取れているようだった。


 急激に痩せて行ってたのが少し落ち着いてきた。

 アーシャも妹たちに昼食を持たせている。

 僕はアーシャに伝えたように家にいれる金を三分の一貯めておくように伝えた。


 稼ぎが悪いと殴られそうになったと聞いて、また噂を広げた。

 あそこの父親は娘の稼ぎが悪いと言って暴力を振るうらしいと。

 妹たちに直接聞いてくる者達もいたらしい。

 妹たちは何も答えずにただ震えてみせたそうだ。


 父親の勢いに陰りが見え始めると長男が力を増した。

 長男は自分の妻、母、妹たちに父親がしてきたことをそっくりそのまま父親へとやり返した。


 稼ぎが悪いと父親を貶し食事を今までの半分に減らした。

 父親は力をどんどん落としていき、今は見る影もなくなっていった。



 アーシャが子を生んだ。

 女の子だった。

 それはもう可愛くて可愛くて仕方のない。

 こんなに可愛い子供になぜアーシャの父親はあんなふうにできたのか僕には理解できなかった。

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