12 幼馴染に浮気されて許せなかった
すいません似たような話になってしまいました。
隣の家の男の子、ヘイブンと私、ナジュは生まれたときから一緒くたになって育てられていた。
両親達は畑仕事をしているため、荷馬車の中に入れられて私とヘイブンは育った。
狭い空間で人恋しいときはヘイブンに抱きついたり、たまに齧ってみたりしていた。
もちろん甘噛である。
初めは加減が解らなくて歯形がつくほど噛んでしまってヘイブンに泣かれて私もびっくりして泣いてしまったことを今でも覚えている。
ヘイブンのふくふく頬っぺはとても美味しいのだ。
そのうちヘイブンも私の頬を噛みだして、たまに加減を忘れて噛みつかれて私が泣いて、ヘイブンも泣いて謝っていた。
荷馬車の中で大人しくしていられなくなった頃、私達は自由に動き回れるようになった。
もちろん両親の目が届く範囲でだ。
畑の隅っこで座ってヘイブンと話をしていたら、ヘイブンが私の顔をじっと見て「昨日お父さんに教えてもらったんだ」と言って私の口にヘイブンの口をぶつけられた。
私首を傾げて「口をぶつけてなに?」と聞くと「好きな人とは口と口をぶつけたのをキスって言うんだって。特別な相手とだけするんだって」
「ふ〜ん・・・そうなんだ」
「僕はナジュが特別だからキスをしたんだ」
「とくべつ?」
「そう!とっても大事。好き!!」
「私もヘイブンがとっても好き!!」
「じゃぁ一緒だね!!」
その日からヘイブンと毎日、口と口をぶつけるようになった。違う、キスだった。
口をぶつけたときはなんだか嬉しくて好きと言わなくてもちゃんと伝わっているような気がした。
ヘイブンは毎日「好き」って言ってくれて私も「大好き」と答えていた。
両親は少し困った顔をして私達を見ていたが、私達の好きにさせていた。
私達の行動範囲は広がっていって、両親の目が届かないところへも遊びに行けるようになり、お友達も増えた。
皆で一緒に小川に行ったり、浅い森の中で食べられるものを探したりして時には兎を捕まえたりして、森の中の規則や危険な場所には近寄らないなどを大きいお姉ちゃんやお兄ちゃんに教えてもらっていた。
今日は兎が二匹捕まえられたので、ヘイブンと一匹ずつにした。
別れ際にキスをして、両親が帰ってくるのを待っていた。
少しずつ大きくなり、キスの意味を知り、キスよりまだ先があることを知り、私の胸が膨らんできて、ヘイブンの身長が私より大きくなった時、私はヘイブンより二つ年上のカルシュとキスをしたくなった。
ヘイブンに内緒でカルシュとキスした時には口の中に舌が入ってきて最初は気持ち悪かったのに、だんだんふわふわしてきて、知らない間にカルシュは私の胸を触っていた。
それも気持ちよくてされるがままになっていると、スカートの中に手が入ってきて、私はカルシュを突き飛ばした。
それはカルシュとしてはいけないことのように思ったからだった。
私はヘイブンの元へ行き、カルシュとしたことを話した。
ヘイブンは怒って口を利いてくれなくなった。
私は必死で謝って二度と他の子とキスをしない体を触らせないと約束して一ヶ月以上経ってからやっと口を利いてもらえた。
数週間後、ヘイブンが私以外の女の子にキスをして胸を触っているところを見つけてしまった。
「ヘイブン・・・」
名を呼ばれたヘイブンは私の方を振り返り、にっこり笑って「な、嫌だろう?」と言った。
私は自分がした時に凄く反省していたのに、ヘイブンは私が嫌がることを解っていて、私に見つかるように見せつけたのだ。
ヘイブンが私と一ヶ月以上口を利かなかった理由も、私は理解した。
それから私はヘイブンと口を利かなくなった。
ヘイブンは私に謝ろうとしなかったし、私を追い掛けても来なかった。
ヘイブンと口を利かなくなって長い時間が流れ、両親が私の結婚相手を探さなくてはならないと言い出した。
私には兄弟姉妹がいないので、婿入りに来てくれる人を探すことになると言われて、ヘイブンとは元々結婚できないのだと理解した。
同じ村の中の同世代の人には魅力を感じなかったので、それを両親に伝えると、近くの村の一〜四歳くらい上の人に会いに行くことになった。
二つ年上のルルーシャという人と気が合って、仲良くなった。
時折互いの村を行き来して、キスもして胸にも触れられて、スカートの中に手を入れられたけど嫌だと思わなかったので、ルルーシャと結婚しようと決めた。
当然スカートの中に手を入れるのは「結婚するまでは待って」とお願いすると、ルルーシャは何度もキスをして「早く結婚したいな」と言った。
私の結婚が決まったその翌日、ヘイブンから話しかけてきた。
「結婚決まったんだって?」
「うん。凄くいい人」
「ナジャは俺と結婚するんだと思ってたよ」
「二人共一人っ子だから元々結婚は出来なかったんだよ」
ヘイブンは驚いた顔をしてそれから目を伏せた。
「幸せにしてもらえよ」
「うん。ありがとう。ヘイブンもいい人見つかるといいね」
「ああ」
いつもよりちょっといい服を着て、ルルーシャと教会に行ってルルーシャの妻になった。
村の端っこの方に家を借りて二人で暮らすことになった。
仕事は両親の畑の手伝いとルルーシャは手先が器用だったので、細々とした仕事で日銭を稼いできてくれた。
私達の年ではちょっと考えられないくらいゆとりのある生活で、ルルーシャは私を大事にしてくれて、私は二人の子供を産んだ。
凄く凄く幸せだった。
ヘイブンは幸せそうではなかった。
結婚した人以外にも女の人を作って奥さんとその女の人がしょっちゅう喧嘩していた。
ヘイブンはそれを止めるでもなく、ニヤニヤとして見ているだけだった。
ヘイブンの名前はこの村ではちょっとしたタブーのような扱いになっていった。
ヘイブンはまた新しい女の人に手を出して、そのご主人にお腹を刺されて死んでしまった。
私が最初に他の人とキスをしたからヘイブンはあんなふうになってしまったのかと後悔したけれど、ルルーシャは「その後どうするか決めたのはヘイブンだよ」と慰めてくれた。
私はルルーシャを大事にして、ルルーシャも私を大事にしてくれた。
私はヘイブンのためにももっともっと幸せになろうと思った。