10 子供の頃から嫌な幼馴染
幼い頃からの知り合いだった人のことを幼馴染だと言うのなら私には幼馴染がいる。
すごく嫌な子だった。
その子は自分の言う事は全て正しいと思っていて、それを貫き通す。
汚い言葉をどこからか仕入れてきてそれを私にぶつける。
大人の前ではいい子なので、誰もがエリスのことをいい子だと思っているのが腹立たしかった。
一度、父の年の離れた弟、サウスに相談すると「そういう子はこっちがまともに相手にすると余計に意地悪をするから、相手にしないことが一番だよ」
そう言われてからはまともに相手にしたことはないのだけれど、そうすると「なんだかこの辺臭いわ」とエリスが言い出して、私の匂いを嗅いで「ミーシャが臭いわ」と会う度に言うようになった。
私は家族や使用人達に私が匂うか聞いても「何も匂わないわよ」と言ってくれるのだけれど、エリスは会う度に「ミーシャ臭いわ!!」と言ってくる。
サウス叔父様がそれを見かけて、エリスは私の家への立ち入りを禁止された。
エリスがいない。ただそれだけで私の人生はとても穏やかなものになった。
学院に通い始め、父から紹介された数人の男の子から婚約者を選びなさいと言われて、何度かお茶会をして全員と良好な関係を構築できたと思っていたけれど、一つ年上のプリセントという人とは特別仲良くなった。
プリセントを選ぼうとしたら、サウス叔父様が「婚約者は十六歳までに決めたらいいんだから、今決める必要ないと言われて、プリセントと婚約する話は立ち消えた。
エリスは私が通う学院には入れなかったらしくて、平民も通う学校というところに通っているらしい。
学院に入学した時にエリスがいないことでどれほど私がホッとしたことか。
時折忘れた頃に我が家にやってきて上がり込もうとするのだけれど、両親から絶対に入れてはならないと言いつけられている使用人達はエリスを絶対屋敷の中に入れなかった。
私が通う学院は貴族で、ある程度の成績を収めているものしか通えない学院で、プリセントも通っていたが年を一つ重ねるごとに、あの頃に感じていた思いは互いになくなっていることに気がついた。
それこそその思いは幼馴染というような思いだった。
互いに納得して「これからも仲良くしようね」と言ってお友達になった。
エリスは時折学院の門の外で私を待ち伏せしていたけれど、私は馬車を止めずに先に進むことを御者に伝えた。
エリスが学院の生徒に私の悪口を言っていたと聞かされたが、その相手がたまたま私が仲のいい友達だったので「学校にしか通えないような子が何を言っているの?」と逆に「鼻で笑ってやったわ」と教えてくれた。
私はエリスのしたいことが理解できなくて、両親に学院で会ったことを伝えて、抗議の手紙を送ってもらった。
エリスの両親から謝罪は直ぐにあったのに、エリスは相変わらず門のところで何をしているのか解らないけど、ウロウロしていて、とうとう学院側が問題にし始めた。
学院の警邏に捕まり、尋問をされたときに私の名前を連呼していたらしいのだけれど、今までの関係性を伝えると学院側は私へのつきまといと判断して、今後私の周りに近づくことと学院に近づくことを禁止した。
学院を卒業するという年にサウス叔父様に紹介されたグールスという人と婚約することになり、私の人生サウス叔父様に誘導されているかもとちょっとおかしく思った。
学院の卒業パーティーにエスコートしてもらい、社交デビューも一緒に出席してもらった。
私は幸せの絶頂だった。
結婚式の日取りが決まり、招待客への案内状も送り、ドレスが完成して、結婚式当日を待つばかりとなった。
結婚式場に朝早くに到着してからは、私は人にされるがままだった。
手の上げ下げから、目を閉じる、開けるまで他人の言う通りにして、私のウエディングドレス姿は出来上がった。
そこの従業員に何処かで見たことがある人が居て、妙に気にかかったけれど、それが誰だか思い出すことができなかった。
サウス叔父様が私の側にいてくれて「とても綺麗だ」と褒め称えてくれて、私は頬を染めていた。
あと少しで父に手を引かれて歩く時間がやってきた時、誰だか解らなかった従業員がエリスだと気がついた。
「お父様、サウス叔父様!!エリスがいるわ!!」
「なに?!」
「従業員の中にエリスがいるの。私の部屋の中をさっきまでウロウロしていたわ!」
「あの子がなんで?接近禁止命令があるだろう?!」
「解らないわ。だけど間違いなくエリスだったわ。かすかにエリスの面影が残っていたもの!」
時間が来て私は父に手を引かれる。
私も父もサウス叔父様も緊張が高まる。
結婚式への喜びなどどこにもなかった。
サウス叔父様が背後を気にしていて「来た」と一言言って、走り寄ってきたエリスをサウス叔父様が取り押さえた。
手にはナイフを持っていて、私を刺そうとしたことがわかった。
「どうしてエリスは私に嫌がらせばかりするの?!」
「あんたのせいで私の人生潰されたからよ!!」
「私が何をしたというの?!」
「侯爵家のあんたと仲良くしなさいって言われていたのに、出入り禁止にされて、私がどんな目にあったか知らないでしょう!!」
「それはエリスが私に嫌がらせばかりしたからでしょう?!」
「かまってやっていたんだからありがたく思いなさいよ!!」
「話にならないわ・・・」
式場の人に「侯爵家の令嬢への殺人未遂だ。それ相応の対応を頼む」とエリスを引き渡した。
その後のことは私はわからない。
グールスとの結婚式のことで頭が一杯になったから。
結婚式、披露宴、初夜、全てが終わってしばらくしてから、エリスがこの王都から一番遠い北の修道院に入れられたと聞いた。
エリスは親から虐待されていて、唯一我が家で息がつけるような生活だったらしい。
それなら助けを求めてくれればよかったのに、どうして嫌がらせしたのだろうとサウス叔父様に聞くと「ミーシャにだけは言いたくなかったんだと思うよ」と言われた。
「何もかも持っていて、幸せそうな私にだけは話さなかっただろう」と。