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邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム  作者: maricaみかん
3章 頂へと歩むオーバースカイ

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裏 メルセデス

 ある夜、アクアはメルセデスたちの宿に侵入していた。メルセデスたちを支配するためである。

 きっかけはメルセデスの態度にあった。


 メルセデスは適当な発言をする癖がある。

 その中で、ユーリやユーリの周りの人たちにユーリが変な性癖を持っているという旨の発言をしているという事をアクアは知っていた。

 その時点では、単なるいたずらの類だろうと見逃していたアクアだった。

 だが、ある日、アクアが支配しているユーリと特に関係のない人間に対してもメルセデスが同じような内容を言っていることで、アクアの気は変わってしまった。


 メルセデスにとって、ユーリに対してだけ余計なことを言う事は、ユーリに対しての信頼の証であり、同時に甘えの発露でもあった。

 スライム使いという事で誰からも軽んじられていたメルセデス。

 そんな彼女にとって、王都で見たユーリの姿は憧れるには十分だった。

 スライム使いでもあそこまで強くなれる。その思いを胸にユーリに会うためにカーレルの街まで出向くほどだ。

 そしてユーリと出会ったメルセデスだったが、ユーリの自分に対する態度で、ユーリの事は単なる憧れではなくなった。

 スライム使いとして弱い自分を見せても自分の面倒を見てくれて、その上全力で期待をしてくれて。

 ユーリはずっとメルセデスに本気で優しくしようとしていた。その結果として、メルセデスはユーリだけは何があっても信頼できると考えるようになっていた。

 ユーリに対して失礼な発言をするのも、メルセデスはユーリならばそれを許してくれると信じていたから。

 それを許される中で、ユーリに対する時にするような発言を、ユーリ以外の人物の前でも行うようになっていた。

 もしそのことに気が付かれたとしても、ユーリならば笑って見逃してくれる。メルセデスはそう信じていた。

 実際にユーリがそれに気が付いたところで、ユーリは許す判断をしていただろう。


 だが、アクアはそれを看過できなかった。ユーリに対する悪評が広まってしまう事を懸念したアクアは、メルセデスたちを取り込んで、ユーリにとって都合の悪い発言を出来ないようにすると決めた。

 夜にメルセデスたちを支配することに決めたのは、アクアのメルセデスたちに対する情からの判断だった。

 せめて、メルセデスたちが何も知らないまま苦しむこともなく絶望することもなくいられる様に。

 アクアはメルセデスたちを裏切ると決めた後でも、メルセデスたちを出来るだけ安らかなままにしたかった。

 そのために、アクアはメルセデスたちが眠っている間、当人たちが気が付かないうちにすべて終わらせると決めた。


「むにゃ……ユーリさん……」


 アクアは眠るメルセデスたちを見ながら、メルセデスたちとのこれまでを思い返していた。

 自分とユーリと同じスライムとスライム使い。

 ユーリが自分の技術をメルセデスに教えるのと同様に、アクアはメーテルに自分の技術を教えていた。

 その時間はユーリとの共同作業のような感覚で楽しかったし、メルセデスたちがユーリを慕っている姿を見るのも嫌いではなかった。

 ユーリとも自分ともいい関係を築けていたはずだったのに。アクアはこれからメルセデスたちと一緒に居られないことを寂しく感じた。


 最後の瞬間までためらいの感情を持ったまま、アクアはメルセデスたちの支配に動いた。

 うっかり目覚めさせてしまわないように細心の注意を払いながら、メルセデスたちの体内へと侵入し、彼女たちの体の制御を奪った。

 メルセデスたちはアクアの思惑通り、何も気が付かないままアクアの制御下に置かれることになった。

 アクアが目覚めさせようとしない限り、メルセデスたちの意識は失われたままになる。

 結局メルセデスたちを支配することになってしまった。アクアは少しばかりの苦しさを覚えた。

 メルセデスたちを見逃した方が良かっただろうか。でも、それでユーリに良くない事が起こってしまったら。

 アクアはユーリが一番大切で、だからユーリの未来の不安は消しておきたかった。それがアクアにとって最も優先すべきことだった。

 それでも、メルセデスたちと過ごす未来を失ってしまった事は寂しかった。アクアは自分に芽生えた感情の事を邪魔に感じながらも、捨てたくはないと思った。

 この感情を持ってしまった事はつらいけれど、ユーリを大切に思う気持ちとも、ユーリと一緒に居られて嬉しい気持ちとも、根っこは同じはずだ。

 自分がユーリを大切に思えないようになる事は絶対に避けたいアクアだったから、今感じている苦しみから逃げないことに決めた。


 それから、ユーリがメルセデスたちをオーバースカイに加入させるための試験を行うことになった。

 アクアがメルセデスたちを支配して、メルセデスたちを強化していたからこそこんなに早く実力が上がった。

 本当はメルセデスたちに自力でここまで来てもらいたかったけれど、メルセデスたちを乗っ取ってしまった以上、その状況を最大限に利用するとアクアは決めていた。

 ユーリはメルセデスたちをオーバースカイの仲間にすることを心から望んでいる。

 だから、アクアは少しでも早くその願いを叶えてあげたかった。

 これからメーテルに教える予定だった技を使えるようにするほかに、メーテル自身の体を強化したり、メルセデスの契約技を強化したりした。

 もし仮にメルセデスたちに体を返す未来があったならば、この力はそのまま使えるようになっていた。

 ユーリに嫌われないままユーリの周りの人間たちの支配を解除することをアクアはまだ諦めていなかった。

 だから、皆に体を返した時に皆が失われた時を取り戻せるように体を調整していた。


 ユーリにとって待ちわびた瞬間のメルセデスたちの試験だが、メルセデスたちも同じように待ちわびていたことをアクアはよく知っていた。

 ユーリはメルセデスたちが大好きで、メルセデスたちもユーリの事が大好きなのに、何故かメルセデスはユーリを傷つける可能性があることをした。

 ユーリを大好きだという気持ちを共有できる相手だったら嬉しかったのに、どうしても周りの人たちの事を理解できない。

 どうしてユーリの周りにいる多くの人はユーリを傷つけようとしてしまうのだろう。ユーリを大好きだという事はアクアにも伝わっているのに。

 ユーリさえ傷つけようとしなければ、ずっと一緒に居たい相手ですらあった。


 アクアの一番は今も昔も変わらずユーリだが、他の人たちだって好きになれた。

 それなのに、その人たちがユーリを傷つけようとするから、アクアは別れの道を選んでしまう。

 アクアにとっての理想は、ユーリとの2人だけの世界ではない。ユーリとユーリにとって大切な人たちとアクアが一緒に居る事こそが理想だった。

 そんな未来はもう訪れることはないけれど、せめて今残っている人たちだけとでも一緒に居られたら。

 アクアはこれ以上ユーリを傷つけようとするユーリの仲間が現れないことを心から願った。

 あと残っているのは、アリシアとレティ、オリヴィエとその近衛。結局皆を支配することになる未来をアクアは何とかして避けたかった。

 そのためには、きっとユーリの事をもっと好きになってもらう必要がある。だってユーリが何より大切な自分はユーリを傷つけようとはしないから。

 アクアは人間を理解できないと自覚しても、人間に自分の考えを当てはめることを止めなかった。


 アクアが考え事をしている中でも、メルセデスたちの試験は進んでいく。

 ユーリが人型モンスターの相手をすることを想定して試験を組み立てている事がアクアには簡単に分かった。

 だから、自分が操作するメルセデスたちには、その意図をしっかり理解した立ち回りをさせようとしていた。

 まず第一にユーリが不意打ちを仕掛けようとすることは考えるまでもなく分かっていたから、それを回避させることから始まった。

 第二の試練としてユーリが用意した水の壁には、メーテルに覚えさせるつもりだった技を使うことに決めた。

 ユーリの求めることを分かっているようにメルセデスに発言させて、ユーリを満足させるために動いた。

 メルセデスの契約技を最大限に活かして、メーテルに決めさせる。

 ユーリが理想としているような試験の攻略だろうから、きっとユーリは満足してくれるはず。


 ユーリはメルセデスの成長に感動しているようだった。その姿を見て、全て自分の演出であることが心に棘のように刺さった。

 本当なら、きっとメルセデスたち自身でこの光景を作り出す未来があったのに。

 その未来ならば、きっと自分だって嬉しかった。メルセデスたちの成長のために力を貸していたのは嘘では無かったから。

 そんなことを考えながら、それでもアクアはユーリのためにメルセデスたちを操作し続けた。

 メルセデスたちが試験に合格する姿を見れば、ユーリはとても嬉しいはずだ。それに、ここまで来てしまったのに投げ出せない。アクアは最後の試験へと進んでいった。


 第三の試練でユーリが求めている事は、人型モンスターの狡猾さへの対処。

 それが分かっていたアクアは、段階を踏んでユーリの仕掛けた罠を罠だと認識していくメルセデスたちを演じた。

 怪しい水たまりだという違和感から、ユーリの行動の意図をつかんで危険な仕掛けだと察していく。

 その姿を見ているユーリはとても満足気だった。メルセデスたちの実力を認めているのだろう。


 全ての試練を突破したメルセデスたちにユーリが合格を言い渡す瞬間には、ユーリは最大限の喜びを示していた。

 ユーリが喜んでくれることはとても嬉しい。それでも、アクアが望んでいた理想の展開では無かった。

 本物のメルセデスたちが同じ光景を作れていたならば、ユーリだってもっと嬉しかったはずだ。


 自分が不安を我慢していればその景色が作れたのかな。アクアは自分の感情よりユーリの幸せを優先できていないのではと疑い始めた。

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