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邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム  作者: maricaみかん
3章 頂へと歩むオーバースカイ

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裏 希望

 カタリナはユーリとの幸せな未来が思い描けなくなりつつあった。

 ユーリが自分のもとから去っていくという考えが思い浮かんで以降、ユーリが自分を捨て去る姿を様々な形で何度も考えてしまった。

 カタリナの精神は徐々に追い詰められていき、アクアに自分の体を操ってユーリに好意をぶつけてほしいと考えるようになっていた。


(ユーリがあたしを捨てるはずない。それが正しいはずよ。でも、今のままじゃユーリと一緒に冒険できなくなるかもしれない。そして、ユーリはあたしの事を忘れてしまうの?

 嫌よ! その前に、アクアがユーリにあたしを刻み付けて。ユーリと結ばれる事ができたなら、離れ離れになってもユーリはあたしを忘れないはずなのよ……)


 カタリナは自分の体を取り戻すという考えを忘れるほどに焦っていた。

 ユーリの事を信じるつもりでいても、恐怖がどんどん押し寄せてくる感覚はずっと消せないままだった。

 ユーリが自分を求めてくれるならばユーリに対して何でもすると考えていたが、カタリナは何をしてもユーリに捨てられるのではないかと思った。


(ユーリ……あんたがずっと一緒に居てくれるなら、それだけでいいわ。だから、あたしを必要として。戦力じゃなくていい。情婦とか、道具とか、それくらいでもいいから。あたしにはあんたが絶対に必要なのよ……)


 カタリナにとってユーリのいない未来には何の意味もなかった。

 だから、ユーリのそばに居られる手段を提示されたならば、カタリナはどんな相手だろうと縋っていたかもしれない。

 自分で動くことが一切できないカタリナだから、その状況にはならなかったが。


 ただでさえ不安でいっぱいのカタリナは、以前よりずっと、ユーリと自分以外の女とが出かけている時間を苦痛と思うようになっていた。


(今日はアリシアさんとユーリが出かけているのよね。ああ、アリシアさんとユーリが何かのきっかけで結ばれちゃったら。あんたは愛人なんて持つ性格じゃないもの。あたしはきっと遠ざけられるわ)


 ユーリに捨てられることを考えるようになってから、カタリナの頭には以前よりはっきりとユーリと誰かが付き合う姿が具体的に思い浮かんでいた。

 そのたびに、自分が付き合っている2人の間に割って入れないだろうと考えて、その都度カタリナの心は傷ついていた。


(ユーリはあたしの事をデートに誘ってくれない。分かっているわ。あいつが誰かをデートに誘う度胸が無いなんてこと。でも、アクアはなぜかあたしの体でデートに誘う事をしない。お願いよ、ユーリ。あたしの事を求めて。それだけで、喜びが湧いてくるはずなのよ)


 カタリナは最初の目標だった自分の体を取り戻すという事から、自分がユーリから捨てられない事に目的が変化していた。

 ユーリと離れてしまう可能性を考えるたびに心が寒くなるので、それから逃れたい一心であった。


 それからもずっとユーリが去って行く恐怖と戦い続けていたカタリナに、ある変化が起こる機会があった。ユーリとメルセデスたちの出会いだ。

 ユーリがカタリナの前に連れてきたメルセデスたちは、カタリナが呆れるほどに弱かった。

 そのこと自体には特に思う所があるわけでもなく、ユーリがまた新しい女をひっかけたと考えていただけだった。

 だが、そのメルセデスたちに対するユーリの態度を見て、カタリナの中にわずかな希望が生まれた。


(メルセデスさん達はこんなに弱いのに、ユーリは大切そうな顔をしているわ。まだ出会ったばかりの女にここまで情を持つんだから、呆れた話よね。でも、出会ったばかりのメルセデスさん達でこうなら、幼馴染のあたしはもっと大切にしてくれるはずよ)


 ユーリとの実力差ができたことにより思い浮かんだユーリに捨てられる未来。

 それが訪れない可能性の方が高いと思えて、カタリナは素直に喜んでいた。

 だが、その喜びに浸っていられる時間は短かった。

 メルセデスたちの早い成長を見て、ユーリは才能があると見てメルセデスたちを大切に思っているのではないかとカタリナは考えてしまった。


(ねえ、ユーリ。あたしの代わりにしたくてメルセデスさんたちの面倒を見ているわけでは無いのよね? ユーリはどうしたらあたしの事を求めてくれる? あんたの望みは何なのよ……)


 いずれ自分の代わりにオーバースカイに入ったメルセデスたちと仲良くするユーリの姿を想像してしまったカタリナ。

 ユーリが自分に見向きもしない未来が怖くて、ユーリに忘れ去られてしまう結末を避けたくて、ユーリが自分に何を求めているのかをカタリナは知りたかった。

 どんな望みをユーリが抱いていようが絶対に叶える。カタリナはそう考えていたが、ユーリに質問をする事さえできない状況に苦しんでいた。


 不安に押し潰されそうになりながらも耐え続けていたカタリナに、さらなる不安の種が襲い掛かる。

 ミーナとヴァネアがユーリを追ってカーレルの街へとやってきたことだ。

 初めてユーリを奪われるかもしれないと考えるきっかけになった相手が現れて、カタリナはパニックすら起こしそうになっていた。


(嫌……いや! お願いよ、ユーリ。あたしじゃない相手を見ないで。ううん、見るだけならいい。あたしを捨てないで。あたしと一緒に居て……)


 ユーリのミーナを見る時の楽しそうな表情が、ユーリが自分から離れていってしまう証のように思えたカタリナは、目をつむっていたいと願った。

 視界にユーリとミーナが嬉しそうにしている姿が映らなければ、少なくとも今感じている恐怖からは逃れられるから。

 そんなカタリナの願いは叶うことなく、ユーリがミーナと親しそうにする姿を見せつけられていた。


(そんな顔をしないでよ、ユーリ。あたしといる時よりもミーナさんといる時の方が楽しいの? ねえ、あたしの何がいけなかったの? 確かにあたしはユーリに冷たい態度をとっていたけど、あたしがあんたといる時間が好きだってことくらい、分かっていたはずよね?

 それとも、ほんとはあたしの事が嫌いだった? あたしの事を助けてくれたのは嫌々だった? ユーリ、今ならあんたに好きって言えるから、受け入れてよ……)


 カタリナはユーリに好きと言えないままアクアに操られたことを悔やんでいた。

 カタリナは、ユーリと結ばれる最後のチャンスがアクアに取り込まれてしまう前だったと思えてならなかった。

 ユーリの前にどんどん女が増えていって、ユーリがだんだんそれに惹かれていって。

 ユーリに対して好意を持っている女が多いことは分かっていて、その女たちが魅力的でないなどとは全く思えない事にカタリナは苦しんでいた。

 ユーリに自分の好意をはっきりと伝える人はとても多い。

 だから、ユーリに対してつんけんしていた自分はユーリにとって優先順位が低い存在になってしまったのではないかと悩んでいた。


 そんなカタリナにまた別種の恐怖が襲い掛かることになる。

 オリヴィエたちがユーリのもとを訪れて、ユーリを自分の物にすると言ったことがきっかけになった。


(王女様がユーリを本気で自分の物にしたいなら、あたしたちはユーリの意思に関係なく引き離されちゃう? どうしよう。どうすればいいの? ユーリがあたしを捨てなくても、ユーリがいなくなっちゃうの?)


 ユーリはオーバースカイを捨てないと言っていたが、カタリナはそんなユーリの決意など意味がないのではないかと疑っていた。

 その中で、アクアがそれを許さないだろうという考えに至ったことで、落ち着きを取り戻したカタリナだった。


(大丈夫よ。王女様はアクアに勝てるようには見えない。ユーリがあたしを捨てない限り、あたしはユーリのそばに居られるはずよ)


 それでも、カタリナの中から恐れが失われることは無かった。ユーリが自分より魅力的だと感じる女がいてもおかしくはない。その女にユーリがなびいてしまったら。

 カタリナは過去の自分がユーリに嫌われていたのではないかと疑っていたから、誰も彼もをユーリが自分よりも好きと思っているように見えた。


 それからもユーリに捨てられる恐怖からずっと逃れられないでいたカタリナに転機が訪れる。

 それはノーラの進化から始まった。人型になったノーラがユーリに懐く姿に精神を削られていたカタリナだったが、ノーラの言葉がきっかけで希望が生まれた。


(契約技をあたしが手に入れれば、ユーリにこれ以上引き離されなくて済むかもしれない。ユーリに実力で追いつけば、ユーリがあたしを嫌っていたとしても捨てられないはずよ)


 カタリナはユーリが自分の事を好きでいると信じていたかったが、嫌われる要素も十分にあると判断していて、だからこそユーリが自分を繋ぎとめておきたくなる理由が欲しかった。

 契約技の習得による実力の向上はそれにぴったりだと思えて、カタリナはノーラにとても感謝していた。

 しかし、自身が手に入れた契約技の内容によって、カタリナにある疑問が思い浮かぶ。


(おかしい。こんなにあたしにぴったりな契約技になるものなの? 弓の強化にちょうどいい技だとしか思えない。そういえば、アクアもノーラとあたしが契約することを止めなかったわよね?)


 カタリナはノーラと自分の契約も、アクアが仕向けたことではないかと考えていた。

 だが、それこそがカタリナにとって最も大きな希望となった。


(アクアがこの契約を計画したのだとすると、アクアはあたしの事を忘れてはいないわ。ううん。それどころか、オーバースカイにとって必要だと思っているはずよ。アクアはやっぱりあたしの事を大切に思ってくれているのよ)


 アクアに対する恨みより、アクアと和解したいという気持ちの方が大きくなっていたカタリナは、アクアが自分をどうでもいいと感じていないと信じた。

 それによってカタリナの心は晴れやかになっていった。


(ノーラはアクアが用意したモンスターなのかもね。でも、あなたの正体は何だっていいわ。ユーリに捨てられないための力をくれる。それだけでいい。いつかまた、ユーリとアクアとあたしの3人で笑いあってみせるわ。ユーリ、アクア、待っていてね)

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