63話 幸運
ぼくはオーバースカイとして活動したり、メルセデスたちの面倒を見たり、ミーナたちと交流を深めたりしながら毎日を過ごしていた。
そんな中、ミーナと何度か戦っていたのだが、ミーナが笑顔になる時間が減っていく。
ミーナがだんだん追い詰められているように感じて、対応に困っていた。
すると、ミーナから思いもよらぬ言葉をかけられることに。
「ユーリ、君もオリヴィエ様からドラゴンシルバーの剣を貰ったんだろう? どうだい、お互いにその武器で戦ってみるというのは」
ミーナの目は初めて見るくらい刺々しくて、ぼくは少し怖くなった。
でも、ここでミーナの提案を拒否することが良い選択だとは思えなかった。
なぜなら、ミーナの目の奥からほんの少しだけ恐れのようなものを感じたから。ミーナは今いっぱいいっぱいなんだろう。
ぼくは剣を準備してミーナと向かい合った。ヴァネアが審判をしてくれることに。
ヴァネアの合図と同時に、ぼくたちはお互いに突っ込んで剣を振る。
ミア強化を使ってミーナの速さを上回るスピードを手に入れたぼくは、ミーナの剣を落ち着いて処理する。
速さで先手をとれているから対応できているけど、やはりミーナの剣技はきれいだし上手い。
ぼくはもっともっとミーナと戦いたいけど、このままじゃそれは難しくなりそうだ。ミーナは明らかに冷静じゃないし、ぼくを睨むような目で見てきている。
上手くここを乗り切れないと、ミーナとの関係が崩れてしまうような気がしていた。
「いつまで僕の事を見ないつもりだ、ユーリ!」
打ち合う中でぼくに若干隙が出来た時、ミーナはぼくの首に向けて全力で剣を振ってきた。
慌てて避けたのでぼくにケガは無かったけど、当たってしまえば死んでいたような攻撃だ。
ぼくはミーナに命を狙われるほど嫌われてしまったのだろうか。気分が沈む。
でも、今のミーナは動きが単調になっているから、対処すること自体は容易い。ミーナの剣をよけることに集中していると、ミーナは必死な顔で叫びだす。
「僕があんなに攻撃しても、僕には攻撃を仕掛けないのか。僕には殺す価値すらないとでもいうのか!?」
「ミーナを殺したくなんてないよ。ミーナとはこれからも何度でも戦いたいし、戦い以外でも仲良くしたい。ミーナ、きみに殺す価値がないんじゃない。殺したくない位に大切なんだ」
ミーナと会話しながらミーナの攻撃をしのぐことに集中する。ミーナを疲れさせて、落ち着いて話が出来るようにしたかった。
ミーナはそんなぼくを見て怒りを強めたように大きく叫ぶ。
「アクア水すら使わないのか!? 僕はユーリのライバルじゃなかったのか? そんなに手加減をされて、どうしてライバルだと言えるんだ!」
ミーナの言葉に反論が思い浮かばなかったぼくはアクア水を使用してミーナの剣を吹き飛ばす。
ミーナはそれでも構わずにぼくに向かってこようとしていたが、そこでヴァネアが止めに入る。
「ミーナ、少し落ち着きなさい! ごめん、坊や。ミーナは連れて帰るから、いったん時間を空けましょう。ほら、ミーナ、行くわよ」
「離せ、ヴァネア! ここで僕の価値を示さないと、ユーリが……」
「離さないわ。あなたが何をしようとしたのか、頭を冷やしてからよく考える事ね」
ミーナはヴァネアに拘束されたまま連れていかれる。ぼくはその様子を見てほっと息をついた。
ミーナの様子は明らかにおかしいから、距離を置いた方が良いことは確かなのだろう。
出来るだけすぐにミーナとの関係を元に戻せることをぼくは祈った。
それから、ぼくはミーナと顔を合わせずにオーバースカイとして冒険者活動を行っていた。
その中で、ユーリヤはとても成長していた。まるでミーナくらいの鋭い体術を使いこなしており、針や鉄の糸、仕込み靴をとても上手に扱っていた。
素早い動きからの攻撃をしたり、相手をかく乱しながら罠を仕掛けたり、縦横無尽に大活躍していた。
「ユーリヤ、とても強くなったよね。びっくりしたよ。何かコツとかをつかんだの?」
「そ、そうですね。全身に神経を張り巡らせる感じでしょうか。そうすると、うまく力が伝達できることが分かったんです」
なるほど。つまりユーリヤの身体能力が上がったわけでは無く、ユーリヤの体の動かし方がうまくなったという訳か。
それからユーリヤの動きを観察しながら戦っていたけど、アクア水で加速した時のぼく位の速さがあり、前線で大活躍していた。
これなら、ミア強化を使ったぼくにある程度着いてくることができる。連携の問題が一つ解決したんじゃないかな。
そう考えていると、カタリナが悔しそうな様子で話しかけてくる。
「もうこのチームで一番弱いのはあたしかもしれないわね。そして一番強いのがあんた。あたしの後ろをついてくるだけだったあんたがこんなに強くなるとはね。驚きだわ」
「そうかもね。でも、カタリナが今まで助け続けてくれたから今のぼくがあるんだ。今までありがとう。それに、これからはぼくがカタリナを助けるから」
「あんたに助けられたのは学園でのモンスターの大量発生からね。今は助けられるだけかもしれないわ。でもね、すぐにでもあんたより強くなってみせるんだから」
そういうカタリナの顔は晴れやかだ。カタリナなら、本当にすぐにぼくより強くなってしまうかもしれないと思えた。
もしオーバースカイで一番弱くなったとしても、カタリナがぼくの大切な存在であることには変わりはない。
それでも、強くなってくれた方がこれから強い敵と遭遇した時も安心できる。
全力でみんなを守るつもりではあるけど、ある程度の実力がある方が守ることは楽だからね。だから、メルセデスたちをすぐにメンバーにしなかったわけで。
でも、仮に守るだけの存在になってしまったとしてもカタリナと離れたくはない。
そうなったら離れた方がお互いのためのような気もする。だけど、そんな未来が来なくて済むように祈った。
それから少したって、ヴァネアから呼び出された。ミーナと会って欲しいらしい。
ミーナが落ち着いたから誘われたのだと判断したぼくは、喜んでヴァネアの呼び出しに応じた。
そこにはミーナがいて、神妙な顔をしていた。ミーナはぼくの顔を見るや否や頭を下げる。
「ユーリ、あの時は本当に申し訳なかった。僕はユーリに置いて行かれたくない一心で、ユーリの事を全く考えていなかった。反省しているから、また僕と戦ってほしい。もちろん、模擬剣でね」
ミーナの言葉は願ってもないものだった。なので、ミーナと戦うことにする。
ミーナとぼくはお互いに構えて、ヴァネアの合図で打ち合いを始める。
前回の反省を生かして、ミア強化を使いながらアクア水でかく乱する。ミーナは攻撃を何度か受けながらもぼくに向かってくる。
そのままぼくが優勢のまま戦いは進み、ミーナの剣をぼくが弾き飛ばす。ミーナは両手を挙げた。
「まいった。ユーリは本当に強くなったね。きっとすぐにユーリに追いつく事は出来ないけれど、ユーリに追いつく事を目指して頑張るよ。また何度でも戦おうね、ユーリ」
「そうだね。ミーナとまたこんな風に戦えてうれしいよ。これからもよろしくね」
ミーナは微笑みながらうなずいてくれる。ヴァネアはその様子を見ながらニコニコとしていた。
それから、ミーナとヴァネアと雑談をすることに。久しぶりのミーナとの話で、ぼくは気分が盛り上がっていた。
「ユーリの好物は魚料理なんだってね。ヴァネアから聞いたよ。僕の好物は野菜かな。煮て食べることが好きなんだ」
カタリナの好物は果物で、サーシャさんの好物の一つがグロリアカウ。ヴァネアの好物は肉。
こうして考えると、人によって好みの差があって面白いな。
ミーナとこうして雑談が出来るような関係に戻れたことも楽しいし、いろんな知り合いの事を知れているという実感があることも楽しい。
とってもいい気分のままミーナたちと会話を続けていく。
「ぼくは魚を煮るのも焼くのも好きだね。生はちょっと怖いから嫌だけど、色々な料理の仕方があって面白いよ」
「料理ってのは面白いわよね。アタシが野良のモンスターをしていたころは、そんなもの知らなかったから、ミーナと契約したばかりのころは新鮮だったわ」
ヴァネアの意見は興味深いな。もしかしたら、野良の人型モンスターと分かり合うきっかけになるかもしれない。
まあ、よほどのことがない限り野良のモンスターと分かり合おうとは思わないけど。
ぼくは野良のモンスターの狡猾さを見過ぎて、警戒を緩めるという考えが浮かんでこないようになっていた。
もしミーナとヴァネアのような出会いがあったとしても見逃してしまうかもしれないな、ぼくは。
「そうなんだね。野良の人型モンスターも、人の中に入って生活が出来るようになればいいけど、ぼくはその光景が想像できないや」
「まあ、アタシが言えたことじゃないけど、それはよく分かるわ。ミーナと出会わなければ、アタシもその人の中に入れないモンスターだったのよね。いっぱい人も殺したわ」
前に王都で会った時にもほのめかされてはいた事だけど、はっきりと言っちゃったな。
まあ、ぼくの知り合いが殺されているわけでは無いからいい。思うところが全くないわけでは無いけど、今のヴァネアと仲良く出来ているという事実の方が大切だ。
「ぼくと出会っていたらぼくはヴァネアを殺してしまったかもしれないから、ミーナと出会ってくれてよかったよ。だから、今こうしてヴァネアと話せているわけだからね」
「それが普通の反応なのよね。そしてそれが正しい事の方が多いわ。アタシとミーナが出会えたことは滅多にない幸運だったのよ」
「そのおかげで、ユーリと僕が再会することもできたわけだしね。僕はついているよ。ユーリ、ヴァネア、これからもよろしくね」
ぼくと周りの人たちとの出会いは数多くの幸運に支えられている。改めてそれを実感した。
ミーナとヴァネアとの出会いも、それ以外の出会いも、大切にしていこう。




