60話 再会
メルセデスたちを弟子にしてからしばらく経った。
メルセデスたちはアクア水を手に入れたばかりのぼくたち位の強さを感じるようになり、とても感動している。
そろそろオーバースカイに加入させることを考えてもいいと思うけど、本人たちはまだ納得していない様子なので、しばらくは様子見かな。
アクアはメーテルと結構交流している様子で、アドバイスを送ったり一緒に出かけたりする姿を見かける。仲が良さそうで何よりだ。
ぼくたちにとってのカタリナのような存在がいないから、メルセデスたちだけでキラータイガーを倒すことはまだ厳しそうだけど、そう遠くないうちに実現できそうだ。
キラータイガーなんて現れないに越したことはないけど、メルセデスたちがキラータイガーと戦う機会があってもいいかな。
ちゃんとぼくたちで安全マージンを確保しておいて、いざという時に備えることが前提ではあるけど。
問題は人型モンスター相手にどこまでできるかという所だろうな。
うっかり情が湧いてしまうと大変だし、単純に強いし、罠を仕掛けてきたりする狡猾さもある。
ただのモンスターとは対処法がずいぶん違うから、できるだけ楽なところから体験させてあげたい。
でも、人型モンスターが現れること自体が中々珍しいとは聞くから、ちょうどいいモンスターが現れる確率はさらに低いだろう。
メルセデスがぼくたちの仲間としてしっかりとやって行けるように、これからも頑張ろう。
メルセデスたちが上手くやれていることに喜ぶ中、ぼくを訪ねて来る人がいた。
その姿を見たぼくは驚く。なんと、ミーナとヴァネアが来ていたのだ。
王都での大会で戦って以来かな。話もちょっとしたけど。
「久しぶりだね、ユーリ。ユーリがまた強くなったと聞いて慌ててこっちに来たんだ。離れて修行してユーリとの距離が分からないと問題だからね」
「はぁい、坊や。これからアタシたちは少なくとも1か月はここに居るつもりだから、よろしくね」
ミーナとヴァネアとしばらくは一緒に居られる。
ぼくはとても喜んでいたが、今からだとみんなに紹介はできないから、ちょっと残念でもある。
ミーナをみんなと会わせて色々と話をしてみたいけど、それはまた今度かな。
「ミーナ、ヴァネア、歓迎するよ。そうだね。ぼくは新しい力を手に入れたから、それを使いこなすために修行をしていたんだ。結構上手くいっていると思うよ」
「そうなんだ。君の新しい力はどんなもの何だい?」
ミーナは興味津々といった様子だ。当然か。新しい力なんて簡単に手に入るものじゃないからね。
「身体強化の力だね。とあるモンスターに貰ったんだ」
「そうなんだね。時間が空いているなら、今から勝負しないかな?」
「分かった。じゃあ、移動しようか」
そのままぼくたちは空いている場所へと向かい、ミーナと模擬戦をすることに。
ヴァネアが審判を務めてくれるとのことだ。
模擬剣を構えたぼくたちは合図を待ちながら構える。
「3、2、1、始め!」
ヴァネアの掛け声と同時にミア強化を使ってミーナに突っ込む。
新しい力を手に入れたのだから、まずはミーナにそれを見せたかった。
しばらくミーナと打ち合っていても押し負けたりせず、互角の様相だ。
「アクア水を使っていないのにこれか! 本当に強い力を手に入れたものだね!」
「そうだね。だけど、本番はこれからだよ!」
ぼくは水刃を発生させながらミーナと打ち合う。
ミーナもスピードを上げて対応しようとするが、手数が追い付いていない。
そのまま水刃とミア強化を同時に使っていると、ミーナの対応が遅れだして、ぼくはミーナの剣を弾き飛ばすことができた。
ミーナはそのまま両手を挙げる。ぼくの勝ちだ。
でも、勝って喜ばしいという気持ちは全然湧いてこなかった。
ミーナと競い合うこともできずに一方的に倒してしまうなんて。ミア強化をくれたミアさんには感謝しているけど、嬉しい事ばかりではないな。
「ユーリ、とても強くなったんだね。完敗だよ。ユーリの手に入れた新しい力は一体何なんだい? 契約技では無いのかな?」
まあ疑問に思うよね。契約技を2つ持てないということは常識だし、契約技並みの力を複数持っていることがおかしいと感じるのは当たり前だ。
ぼくはミーナに説明することにする。
「この技はミア強化って言って、ミアさんと言うモンスターに貰ったんだ。モンスターが命を捧げることで、契約技のような力を使えるようになるらしい。それで、この力を手に入れたんだよね」
ミアさんの事はとても残念だという思いは今でもある。
だけど、全力でこの力を活用すること以外にミアさんに対してできる事はもうないから、この力をしっかり使っていくしかない。
「ユーリはその力を手に入れた事があまり嬉しくないんだね。ユーリの性格なら当然か。他者の命を犠牲にして得た力でユーリが喜べるはずがない。僕にもそれくらいは分かるよ」
「そうね。アタシにだって分かるわ。でも、力を使わないとその命が無駄になっちゃうって考えでしょ。坊やらしい話だけど、ミーナとは差がついちゃったわね」
「……そうだね。ユーリに追いつく事はなかなか難しそうだ。でも、僕は諦めないよ。せっかく出会えた運命のライバルに、情けないところは見せられないよ」
ミーナは複雑そうだ。それも仕方ないよね。ライバルが急に力を手に入れて、いい勝負にならなくなってしまったんだから。
ぼくにも悲しさはあるけど、ミーナの前でそれを口にするほど愚かじゃない。話題を変えるか。
「そうだ、ミーナ。ぼくはあれから弟子を取ることになってね。ぼくと同じスライム使いなんだ。王都での大会を見てぼくに憧れてくれたらしいよ」
ミーナはすぐに明るい顔に変わったけど、無理をしているようにも見える。
心配だけど、ぼくが何か言ったところで逆効果になるだけだから、話題に出さないことが精いっぱいだ。
「そうなんだね。僕にも紹介してほしいよ。オーバースカイの仲間とか、アリシアとレティとか、それ以外にも今のユーリを形作った人にはあってみたいな」
「そうね。アタシにも紹介してくれるかしら? 坊やの周りの人とも交友を深めたいわね。坊やとはもっと仲良くなりたいのよ、アタシはね。ミーナもそうでしょう?」
「そうだね。僕たちはライバルだけど、敵ではない。もっとユーリと仲良くなって、お互いに頂点を目指したいところだね」
ミーナもぼくと近い考えでいてくれるようで嬉しい。
ミーナとお互い訓練したり、雑談したりしながらお互いが強くなっていけるならそれが良い。
ぼくはミーナを大切にしたいし、いがみ合いながら戦うだけの関係はやっぱりつらい。
「ぼくもそう思うよ。ミーナの好きなものなんかも知っていけたらいいな。ぼくたちはライバルだけど、協力し合うことができると思う」
ミーナは何度もうなずいている。ヴァネアはそんなミーナを見て微笑んでいる。
うん。ミーナにしろ、ヴァネアにしろ、みんなと上手くやって行けそうに感じる。オーバースカイにミーナが入るとは思わないけれど、一緒に冒険する機会があってもいいな。
それからミーナとヴァネアとしばらく話してからミーナたちは去って行った。みんなに紹介することは約束したから、その機会が楽しみだ。
しばらくして、ミーナたちをみんなに紹介する機会がやってきた。
みんなが集まれるちょうどいい機会があったので、そこにミーナを呼んでみた。
結構大きな部屋で、ぼくの大切な人たちはみんなここに居る。大切な人がこんなに居るようになるなんて、学園に居るころは思ってもみなかったな。
「みんな、紹介するよ。このピンク色の髪の剣士がミーナ。ぼくのライバルだよ。こっちのラミアがヴァネア。ミーナの契約モンスターだね」
「紹介されたようにユーリのライバルをしているミーナだ。ユーリにはちょっと離されちゃったけど、出来るだけすぐに追いつくよ」
「アタシはヴァネア。ミーナとはチームを組んでいるわ。坊やとは王都で知り合ったの」
みんなはそれに拍手で返して、ミーナとヴァネアは笑顔で手を振っている。
いい雰囲気だから、お互いに上手くやっていけそうだな。
「じゃ、あたしからね。あたしはカタリナ。ユーリの幼馴染で、オーバースカイのメンバーよ。ミーナさんはエンブラの街の大会で見かけたわね」
「わ、わたしはユーリヤですっ。オーバースカイのメンバーで、遊撃を担当していますっ。よろしくお願いしますねっ」
「わたしはフィーナです……オーバースカイにはつい最近加入しました……」
「ミーナ、アクアは前にも会ったから分かるはず」
それぞれにミーナとヴァネアも返答して、和やかな感じだ。オーバースカイのメンバーの最後の1人も忘れちゃいけないよね。
「この猫型モンスターはノーラ。ぼくたちオーバースカイのメンバーなんだ。王都での大会の帰りに出会ったんだよ」
「可愛いモンスターも一緒なんだね、ユーリ。オーバースカイは良い雰囲気だし、僕も一度一緒に冒険してみたいかな」
「それもいいわね。坊やと仲良くなるのにもいいし、対人では使えない技を見せ合うのにもいいじゃない」
ミーナたちもぼくたちと一緒に冒険したいと思ってくれているのなら、準備してその機会を作りたいな。
それからも自己紹介はまだまだ続く。
「わたしは以前にも会いましたが一応。ステラです。ユーリ君の同居人ですね」
「サーシャと申しますわ。ユーリ様たちの冒険のサポートを務めておりますわ。ミーナ様たちほどの実力者でしたら、わたくしと会う機会もそれなりには有るでしょう」
ミーナたちはそれにも返答を返していく。穏やかな空気が流れている。
ステラさんとサーシャさんにもミーナたちはうまく対応できている。この調子で最後までいって欲しいな。
「私はユーリ君の師匠をしているアリシア。風刃と呼ばれているよ。よろしくね」
「わたしはレティ。アリシアと一緒にユーリ君の師匠なんだ。ミーナさんもよろしく」
「風刃のような2つ名として、僕には終の剣という物があるよ。ユーリ君の水刃ほど似合わないかもしれないけどね」
それからミーナたちはぼくの2つ名で盛り上がっていた。少し恥ずかしいけど、仲を深めるきっかけになるなら何よりだ。
「あたいはメルセデスっす! ユーリさんの弟子っすね。ミーナさんの事は王都で見てたっすよ!」
「私はメーテルよ~。メルちゃんの契約モンスターなの~。ミーナちゃん、よろしくね~」
ミーナたちはぼくたちの決勝の話で盛り上がっている。あの試合は何度思い返しても楽しかったから、話を聞きながら思い返していた。
ある程度みんなとミーナたちが話し終えると、ミーナたちはぼくの方へ向かってきた。
「ユーリの知り合いは思っていたよりいい人ばかりで嬉しいよ。これなら、これから上手くやっていけそうだね」
「そうね。アタシもみんなの事が気に入っちゃったわ。滞在の期間を延ばしてもいいかもね」
ミーナたちと長く一緒に居られるのなら嬉しい限りだ。
ミーナたちがやってきたから、これからはもっと楽しくなるかもしれない。ミーナと出会えて良かったな。




