39話 ミーナと
オリヴィエ様に勲章を受け取って、王都での用は済んだが、ぼくはまだ王都に滞在していた。
もともと、大会で消耗するだろうということだったので、多めに予定を取って、大会後を休息に当ててから、またカーレルの街に帰るという計画だった。
移動だけでもそれなりに消耗するだろうということだったが、到着からすぐに大会だったような……まあ、移動より大会の方が消耗したのは事実なので、それを組み込んだ予定なのだろう。
宿でゆっくりしていると、ぼくを訪ねてきた人がいるらしい。なので、そちらに向かうと、ミーナとヴァネアがやってきていた。
「やあ、ユーリ。大会以来だね。君がまだ王都に滞在していると聞いてね。せっかくだから、話でもしようと思って。いきなり訪ねてきたのは悪いと思うけど、大会ではすぐに別れてしまったからね。それで、どうかな?」
「ミーナなら構わない。歓迎するよ。ヴァネアもよろしく。せっかく来てくれたなら、紹介したい人がいるんだ。顔は知っているかもしれないけど、一応ね」
アクアとステラさんを紹介しようと考えている。できれば、ユーリヤやアリシアさんにレティさん、サーシャさんも紹介したいけれど、ここにはいないからどうしようもない。
「よろしくね、坊や。それにしても、坊やの大会での活躍は本当にすごかったわ。さすが、ミーナがライバルと認めるだけの事はあるわね。お姉さん、本当に感激しちゃった」
「僕が顔を知っているとなると、エンブラの大会でも応援に来ていた人かな。ユーリの契約モンスターなら、ぜひとも知りたいね。もちろん、ほかの人も歓迎だよ」
ミーナにアクアを紹介できるのは嬉しいな。お互い契約技使いだし、いろいろ話も弾むかもしれない。ヴァネアも、ミーナの契約相手なのだから、いろいろ話を聞いてみたい気分だった。
「じゃあ、まずは案内するね。ミーナ、ヴァネア、ついてきて」
そうして僕はアクアとステラさんのもとへミーナとヴァネアを連れていく。ぼくはお互いを紹介することにした。
「アクア、ステラさん、こちら、ぼくのライバルのミーナと、その契約モンスターのヴァネア。ミーナ、ヴァネア、この人たちが、ぼくの契約モンスターのアクアと、ぼくの先生で、今は同居人のステラさん」
「ミーナ、ヴァネア、よろしく」
「ミーナさんはエンブラの街での闘技大会でもユーリ君と戦っていましたよね。面白い縁です。せっかくですから大切にしてみるというのも悪くないかもしれませんね。
それはさておき、ミーナさん、ヴァネアさん、ユーリ君に良くしてくれてありがとうございます。これからも、ユーリ君のことをお願いしますね」
「アクア、ステラさん、よろしくね。それにしても、ユーリ君の契約モンスターはスライムだったのか。あの時も一緒に居たような気がするけど、スライムと契約してあそこまで強くなれるなんて。アクアは特別にすごいのかもしれないね」
「アタシもよろしくね。坊やの契約モンスター、かわいらしい子ね。アクアちゃんのこと、大切にしてあげるのよ、坊や」
アクアが褒められていると、自分の事のように嬉しいな。それが仲良くなったミーナとヴァネアなんだから、なおのことだ。
まあ、ミーナやヴァネアに言われなくとも、アクアは特別だと思っているし、大切にするのも当然のことだ。でも、改めてアクアについて考えてみるのもいいかもしれないな。
「せっかく紹介してもらって、2人には悪いんだけど、ユーリ君をぼくたちに貸してもらえないかな。せっかくの機会だから、ライバル同士、いっぱい話しておきたいんだ」
「わかった。ユーリ、またね」
「では、ゆっくりしていってください。私はアクアちゃんと一緒に居ますね」
アクアとステラさんは去っていき、またミーナとヴァネアと3人になった。ミーナはぼくに積極的に話しかけてくる。
「ユーリ、僕はあれからユーリに勝つために、本当にいろいろやったんだ。あれからすぐに冒険者になって、モンスターと戦ったり、人と戦ったりね。その中で、契約者の力を見ることがあって、このままではユーリに勝てないと思ったんだ。でも、契約モンスターを見つける方法が分からなかった」
それはそうだよね。テイムはそう難しくはないらしいけど、人型モンスターに進化する例はほとんどない。アクアがいなかったらぼくも契約相手は見つからなかったはずだ。
「そんな時にヴァネアと戦ってね。ヴァネアから契約を持ちかけられたから、危険だとわかっていてもつい受けてしまったんだ。結果的には本当に良かったよ。ヴァネアはとても強かったし、僕と契約してからさらに強くなった。だから、契約相手であると同時に、良い訓練相手だったんだ」
それであそこまでミーナは実力を上げられたわけか。ミーナの顔にはとても深い満足感が見えるし、ミーナとヴァネアは本当にいい出会いだったのだろう。
「だから、僕はとても強くなったんだ。契約を考えるきっかけになった契約者にも勝てたくらいにね。それでも、ユーリには勝てなかったけどね。本当に悔しいけど、でも、少し嬉しいような気もする。僕のライバルは最高なんだって思えるんだ。ユーリ、また機会があったら、僕と戦ってほしい」
ミーナはぼくにとってもいいライバルだから、ミーナの提案は願ってもない。
それにしても、ミーナは本当にぼくに勝つことを強く意識していたんだな。なんだかむず痒いような。
でも、本当に嬉しい。ぼくもミーナにふさわしいライバルでいられるように、頑張らないとな。
「もちろんだよ、ミーナ。ぼくにとってもミーナは最高のライバルだよ。ミーナに勝ったことに恥じないようにって、頑張る力にもなった。それに、こうして高めあえる関係の相手はぼくにはいなかったから。仲間や師匠のような存在はいるけど、ライバルってのもいいものだよね」
「僕とユーリだからこそだよ。片方だけがライバル視することも、実力が見合っていないのにライバル視するようなこともある。僕とユーリは本当に運命なんだ。だから、これからもよろしくね」
そう言ってミーナは満面の笑みを浮かべる。エンブラの街の闘技大会に出て、本当に良かったな。そうしなければ、ぼくはミーナという最高のライバルを得られなかった。これからも、ミーナと高めあっていきたい。
「ミーナ、坊や、アタシもいるんだから、2人の世界を作らないでね。それはいいとして、坊やもミーナと戦ってから、どんなことがあったのか話してごらんなさいよ。せっかくいいライバル関係なんだから、お互いをもっと知るのも悪くないでしょ」
まあ、そうかもしれない。別におかしなことはしていないから、普通に話せばいいか。
「ぼくはあれからもしばらく学園にいたんだ。その時に、モンスターの異常発生があってね。ぼくの幼馴染のカタリナが取り残されちゃって。
だから、アクアと2人で助けに行ったんだ。その時は、本気で絶望しかけたよ。結果的にはカタリナを助けられたんだけどね。あれも、強くなりたいと思うきっかけの一つだったな」
本当にあの時は大変だった。ぼくもカタリナも無事だから、今でも笑っていられるけど、カタリナに何かあったら、ぼくはきっとどうかしてしまっていただろう。
「助けられたんだね。だったら遠慮なく聞こうかな。異常発生って、どんな? それにどんな技を使ったかとか、聞きたいな」
「とにかくモンスターが大量に発生したんだ。そこまで厄介なモンスターはいなかったけど、数が数だったから。ぼくは移動を優先して、ぼくの契約技のアクア水にガラス片を入れて、ガラス片を使って目潰しだけして、倒すのは後回しにしたんだ」
「坊や、そんなことまで出来るのね……なんでもありなら、ミーナは危なかったかもしれないわね」
「そうかもね。僕は目を潰されても再生なんてできないし、中々厄介な技だよ。でも、ぼくはユーリと殺し合いたいわけじゃないから、そんな戦いはしたくないね」
ぼくもミーナにそんなことはしたくない。ミーナとはもっと、お互いに敬意を持つような関係でいたいな。ぼくはミーナを本当に尊敬しているし、だからこそ勝ちたい。
ミーナもそう思ってくれていると嬉しいんだけど。
「ぼくだってミーナを傷つけたいわけじゃないよ。もちろん、戦うんだから多少のケガはするだろうけどね」
「そうだね。ユーリとはこれから何度だって戦いたい。その機会を奪うほどのケガは、お互いしないにこしたことはないよ。それで、他には何かあった?」
「そうだね。それからは特にトラブルもなく冒険者になって、アリシアさんとレティさんにいろいろ教わることになったかな。初めての依頼で、キラータイガーが大量に発生して、アリシアさんとレティさんがあっという間に倒してしまったんだ。本当に2人にはあこがれたな」
そう言うとミーナはとても目を見開いた上に口を大きく開けていた。まあびっくりするよね。キラータイガー1体でも相当厄介なのだから。
「キラータイガーを!? 僕も1体や2体なら倒せるだろうけど、ユーリが大量っていうくらいの数を倒せるかは怪しいな。でも、本当にアリシアとレティを尊敬しているんだね。顔を見ればわかるよ」
「坊やったら目をキラキラさせちゃって。そういう所は年相応なのよね。強さは信じられないくらいだけど」
そんな顔をしていたのか。でも、アリシアさんとレティさんを尊敬しないなんてありえない。ちょっと恥ずかしいけど、でも、当然かもね。
「それで、他には何かあるかい?」
「それからは、ぼくはもともと、ぼくとアクア、さっき話した幼馴染のカタリナとパーティを組んでいたんだけど、モンスターから助けたことが縁になって、ユーリヤって言う新しいパーティメンバーが入ったんだ。それからは、人型モンスターを何回か倒したくらいかな」
「坊や、普通の事を言うみたいに言うけど、坊ややミーナみたいに人型モンスターを倒すって、本来偉業扱いされることなのよ? アタシだって、何人も冒険者を仕留めたわ」
それも普通に言っていい事じゃないんじゃないかな。
でも、本当にミーナは運が良かった。モンスターが契約を持ちかけてきても、ぼくには隙を作りだしたいだけにしか見えない。実際にそういうモンスターの方が多いだろう。
「それが君のこれまでか。ぼくが勝てないのも納得できるほどの経験だね。でも、次はユーリに勝ってみせる。一方的に負けるだけなら、胸を張って君のライバルを名乗れない。それはまあいいかな。話を変えるけど、僕はオリヴィエ様に褒美として剣をもらったんだ。これだよ」
そう言ってミーナが見せた剣はとても美しかった。
ただ、飾りが多いわけじゃなく、ただ普通の剣としてあるだけなのに存在感が強い。何だろう、この剣。
「ユーリは何か感じたんだ? 鋭いね。これはドラゴンシルバーの剣なんだ。僕がこれを超える剣を持つことは、生涯無いかもしれない」
ドラゴンシルバー。ドラゴンの鱗と銀を合わせた、とても頑丈な金属らしい。加工にも相当な技術がいるようで、滅多なことでは見る事すらできないらしい。
オリヴィエ様はとんでもない物をミーナに渡すんだな。あの人はやっぱり何か恐ろしい。
「オリヴィエ様、すごいね。でも、ミーナがさらに強くなるのか。その剣を使われていたら、きっと負けていたんだろうな」
「武器の力でユーリに勝っても嬉しくないよ。ユーリも同じくらいの武器を使っているならともかく。でも、ユーリの負けて悔しそうな顔を見るのは、楽しかったかもしれないね」
「アタシは武器も自分の力だと思うけど。まあ、命の取り合いでないなら納得も大事よね。アタシはミーナを応援しているから、ミーナにはしっかり勝ってほしいわね」
ヴァネアの言葉を受けてミーナは笑顔から真剣な顔に変わる。やっぱりミーナは本気で勝ちたいみたいだ。他の人が相手ならミーナを全力で応援するけど、ぼくは出来れば負けたくない。
「僕もそうしたいね。ユーリ、今日は楽しかったよ。今日は帰るけど、また絶対会おうね」
「坊や、しっかり強くなるのよ。油断した坊やに勝ってもミーナは喜ばないわ。ミーナの運命に見合う姿を見せてよね。そしたら、アタシがご褒美をあげちゃう」
「ミーナ、ヴァネア、またね。ぼくもミーナのライバルにふさわしい強さになってみせるから、ミーナも頑張ってね。また会うのが楽しみだよ」
そしてミーナとヴァネアは去っていった。ミーナとまた戦うことは楽しみだな。負けても悔しさはあるだろうけど、きっとミーナが相手なら楽しい。
わざと負けるつもりはないけれど、これからもミーナといっぱい戦いたいな。




