35話 成長
いよいよ今日は大会だ。王都についてからはすぐだけど、移動を含めたら結構かかったからな。会場に向かいながら、ぼくは改めて気合を入れていた。
会場に到着すると、参加者らしき人だけでも大勢いた。
受付を済ませて会場で待っていると、オリヴィエ様が壇上へと上がってきた。先日に続いてまた歓声が沸き起こる。
「さあ、今日は余に強者たる力を示して見せよ。優勝したものには、余が手ずから勲章を賜ってやろう。せいぜい励めよ、諸君」
オリヴィエ様はそう言って下がっていく。再び歓声が起こり、そのまま第1試合へと移る。
前日の予選と似たような感じで、まずはある程度人数を絞り、その後トーナメントを行うようだ。
ただ、予選のように必ずしも1名しか勝ち上がれないわけでは無い。試合最後の時間まで残っていれば、トーナメントに進むこと自体はできる。
その代わり、談合などがあった場合、処罰されるらしい。そんなことをする相手のいないぼくには関係のない話だけど。
第1試合からすでに、予選よりはるかに高いレベルの試合が行われていた。ミーナは予選では別格だったが、今回はもしかしたら負ける可能性もあるかもしれない。そう思って見ていたが、ぼくより前に出場したミーナは、余裕のありそうな表情で勝ち上がっていた。
何試合か終えてぼくの番がやってきた。ぼくは中心部からは距離を取り、近づいてくる相手を仕留める形をとっていた。
もちろん、仕留めるといっても殺すわけでは無い。故意の殺害は失格どころかその場で牢屋送りになるようだから、ぼくはきちんと手加減していた。
とはいえ、死んでいなければ治せるくらいの治療部隊が待機しているらしいので、恐る恐る戦うということにはならなかった。
「弱そうなガキがいるな。お前にこの大会はふさわしくない。さっさと消えてもらおう」
そんなことを言う奴もいたが、アクア水を使うまでもなく、単なる剣技だけで沈んでいった。ふさわしくないのはそいつだったみたいだ。
それからも特に苦戦することはなく、ぼくは初めの試合を勝ち抜いた。
他の試合にいたような強い人がまるでいなかったこともあるが、試合にいる大勢は、そこまでレベルが高いとは感じなかった。
もちろん、アクア水を手に入れる前のぼくでは手も足も出なかっただろうけど。
その後はトーナメントに移り、大会は進んでいった。ぼくの番になると、相手として出てきたのはモンスターだった。
これは、アルラウネかな? アリシアさんの話題に出てきたくらいで、特にこれまでかかわることはなかった相手だ。どんなものだろう。
「水の契約技使いか。なら、私が負けることはなさそうだね。運が悪かったね。まあでも、トーナメントに出れただけでも自慢していいよ」
水だと相性が悪いってことは、前のドリアードのような感じかな。でも、あの時と同じ手を使ったら殺してしまうから、ちょっとやり方を考えないとな。
「ドリアードなら仕留めたことがありますけど、あなたはどうなるでしょうね」
「ふーん。植物型モンスターを倒せはするんだ。でも、私をそこらのモンスターと同じとは思わない方が良いよ」
そのままぼくは構え、試合開始の合図が鳴る。
アルラウネは、すぐさま蔓を鞭として飛ばしてきた。
ぼくはアクア水で蔓の軌道をそらしながら、そらしきれなかった蔓を、一部は切り払って残りは避けていく。
切り払った蔓は、いったんアルラウネの本体へと戻ってからすぐに再生していった。
驚いた。これまでの人型モンスターで、再生なんてことをできた奴はいなかった。
どうせ治療班が治せるらしいからと雑に切り払っていたが、これなら対処の仕方を考え直す必要があるかもしれない。
「ふふっ、おどろいた? トーナメントまで来られるだけあって、少しはできるみたいだけど、このままじゃじり貧だね。あきらめる? それとも、とりあえず最後まで粘ってはみる?」
そうアルラウネは言うものの、そこまでアルラウネの蔓には警戒していない。顔に当たったならともかく、前に作った防具のおかげで、直撃してもどうとでもなる程度の威力だとしか思えなかった。
なので、ゆっくりとアルラウネの動きに付き合いながら、突破口を探ることにする。
殺傷能力の高い技はほとんど用意してきていないから、上手く近寄ってノックアウトしたいところだ。
そのまま一撃も受ける事は無く粘っていると、アルラウネはじれったそうな表情をし始めた。
「そんなに動き回って大丈夫? 次の試合もあるんだから、体力は温存しておいた方が良いんじゃない?」
確かに前のぼくならへとへとになっていたくらいの運動量だが、ぼくは特に疲れてはいなかった。
こういう言葉をかけてくるあたり、アルラウネはこのままの状態をキープされるとまずいのだろう。そう考えたぼくはそのままアルラウネの攻撃を流し続ける。
「いいかげん、しつこい! 優しくしてあげるつもりだったけど、もう手加減なんてしてあげないから!」
そう言ったアルラウネは蔓の本数を増やして、蔓の勢いも上げてくる。
ただ、蔓が顔に向かってこないようにだけ気を付けていれば、ぼくに特段ダメージは入ってくることはなかった。平然とした顔をして攻撃を受けるぼくを見て、アルラウネは明らかに焦りだす。
「なんなの!? どうして私の蔓が当たってるのに平気なの!? 一体何なのよ、あんたは!」
よほど自慢の武器だったのだろう、あの蔓は。明らかにアルラウネの動きが精彩を欠きだす。ぼくはアルラウネの蔓を切り払いながら進み、剣をアルラウネの首に突き付けた。
「降参してください。これ以上は、痛いだけではすみませんよ?」
そう言うと、アルラウネはあきらめたような顔になった。
「わかった。降参よ、降参。はあ、楽な相手だと思ったのに。ねえ、私に勝ったんだから、もっといいところまで行きなさいよ。これでも私、結構有名なんだからね」
有名なんだろうか。まあ、このアルラウネにもう興味はない。結局名前も聞かなかったし、もう会うこともないだろう。
でも、一応気にかけてはおくか。ぼくが勝ったんだから、それを誇れるくらいに思ってもらえるのが一番いいよね。
「分かりました。せっかくの機会ですから、優勝を目指して頑張ります。お元気で」
「つれない子ね。でも、本当にあなたなら優勝できるかもね。私だって、前に出た時はいいところまで行けたんだから。それに勝ったんだから、少しは自慢げにしなさいよ」
そう言われても、このアルラウネの事も、この大会の事も、全然知らないし。大会の事を知らないのはちょっとどうかと自分でも思うけど、いきなりの話だったからね。
まあ、勝者の義務だ。胸を張ろう。ぼくは剣を上に掲げた。
「それでいいのよ。じゃあね。私が負けたのは優勝者なんだって、そう思わせてよね」
そう言ってアルラウネは去っていく。ぼくはそれから他の試合を見ることにした。
このトーナメントに出ているのは、契約者とモンスターだけみたいだった。皆何かしらの特殊な技を使っている様子で、見ていて面白かった。
しばらく見ていると、ミーナの試合が始まる。ぼくは集中して見ることにする。ミーナの相手はハーピーだった。レティさんとは結構違う感じの人だ。
ハーピーは試合が始まると同時にすぐさま飛び上がり、空中でミーナを挑発しだす。
「ここまで攻撃を届かせてごらんよ。ま、契約技使いといっても、ただの剣士じゃ難しいかな」
そう言ったハーピーをミーナは流し、そのまま構える。ハーピーは上からものを投げて攻撃していた。ミーナはそれらをすべて捌き、じっと耐えていた。
ハーピーはしばらくの間、ものを投げ続ける。
あのハーピー、ものの重さも考えると、結構な重量を抱えたまま浮かんでいるみたいだな。何か特殊な力でも働いているのだろうか。
ぼくがハーピーについて考察していると、ハーピーがミーナをさらに挑発する。
「いつまでそうしているつもりかな。そうしているだけじゃ、勝てないってわからないかな?」
ハーピーはそう言うが、ぼくとアルラウネの戦いと同じ構図だろう。ハーピーの攻撃は届かないから、このまま進めていれば不利になるのはハーピーの方としか思えない。
同じ考えだろうミーナが、ハーピーの挑発に対して返す。
「そうしているだけで勝てないのは、君の方じゃないかな? それとも、他に何か手はあるのかな?」
ハーピーは明らかにいらだった様子になり、攻撃の勢いを強める。
だが、ミーナは涼しい顔で全てを受け流していった。そのまま攻撃を続けていたハーピーは、限界が来たのか、攻撃の手を止める。そのままハーピーは空の上で動き回っていた。
これは、投げつけるものが無くなったな。
ハーピーはそれから、何度か地上に降りて投げるものを回収しようとするが、ミーナが先回りするため、結局地上には近づけないでいた。
そのまま何度か同じことを繰り返していると、今度はミーナが挑発する。
「いつまで逃げているつもりだい? それじゃ勝てないってわからないかな?」
完全に先ほどの意趣返しを受けたハーピーは明らかに怒った様子になる。少しの間上をぐるぐる回り、ミーナに対して怒りの言葉をぶつけた。
「舐めやがって! もうただじゃ済ませてやらないからな! せいぜい後悔するといい!」
そのままハーピーは勢いよく飛び、ミーナに攻撃を仕掛ける。
あのハーピーはレティさんほどじゃないとはいえ、かなり速い。でも、ぼくにも十分対処できそうな速さだった。
なら、ミーナは言うまでもない。ミーナはハーピーの攻撃を華麗に避け、カウンターを叩き込む。そのままハーピーは沈んでいった。
ミーナは剣を上に掲げ、勝者としてのアピールをする。そのまま、笑顔で周りに向かって手を振っていた。
ミーナの試合を終えた後も試合を見続け、今日の日程は終わった。最後にオリヴィエ様が壇上に立ち、再び演説を始める。
「今日の試合はなかなかいつもより面白かったぞ。だが、今日行われたのは所詮足切り。勝ち上がって当然だと思っていろ。さあ、明日はせいぜい余を楽しませて見せろ」
そう言ってオリヴィエ様は去っていく。それから、ぼくたちも解散していった。
宿ではアクアとステラさんが迎え入れてくれた。アクアが散々甘えてきたので、なんだか落ち着いた。
明日はミーナと戦えるといいな。




