25話 チーム
ぼくたちはユーリヤの実力を確認するため、マナナの森でモンスター退治を見せてもらうことにした。
今日もアリシアさんたちが一緒に来てくれているので、ユーリヤをチームに加入させるかどうかはアリシアさんたちの意見も聞くつもりでいた。
「ユーリヤさん。ユーリ君たちは新進気鋭といっていいチームだ。生半可な実力ではおんぶにだっことなるだけだろう。
もし、ユーリ君たちがチーム加入に賛成したとしても、私たちは反対することになるだろうね」
「わ、わかりました。ユーリさんたちの邪魔になりたいわけではありませんから。しっかりお役に立てるところをお見せしますっ」
そう言うとユーリヤはモンスターに向かっていく。
素早くモンスターに駆け寄り、針のような武器を突き刺す。
その後、別のモンスターに蹴りを叩き込む。蹴っただけのはずなのに、モンスターには穴が開いていた。
別のモンスターがユーリヤの背後から襲い掛かろうとする。ぼくが思わず動きそうになると、アリシアさんに止められる。
モンスターはユーリヤに向かっていったが、途中で切断されていった。アリシアさんの風刃のようなものだろうか。
いや、ユーリヤはモンスターを連れていない。何か別の手段を使ったのだろう。
一通りモンスターを倒し終えたユーリヤさんは、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「ど、どうでしたでしょうか、ユーリさん。中々うまくいったと思うんです。これなら、ユーリさんとチームになれますかっ?」
「ぼくとしては十分だと思うけど……せっかくだから、今何をしたのか聞いてみたいな」
「わ、わかりました。まずは、この武器ですね。これは相手に突き刺すことができる武器なんですっ。接近戦で役に立ちますね。最初のモンスターはこれで突き刺しました。それは皆さんお判りでしょう」
結構素早い動きだったから、この武器を使うことには慣れていそうだな。それに、しっかり急所を狙えていた。腕はいいように思える。
「次は、この靴ですね。この靴には、針が仕込んであるんですっ。その針を、蹴りと同時に出すことで、相手に穴をあけることができるんですよっ。
対人でも、対モンスターでも、とても便利なんですよっ。モンスターには単純に威力が高いですし、人が相手なら、結構油断してくれるんですっ」
それで蹴っただけに見えるのにモンスターに穴が開いていたのか。ただの蹴りかと思ったら凶器が出てくるなんて、知らない人からしたらとても厄介な武器だろうな。
「それで、最後は金属の糸ですね。扱いはかなり難しいですし、うっかりすると味方にもダメージを与えてしまいかねないんですが、攻撃だけでなく、移動や罠を仕掛けたり、防御もできるんですっ。
皆さんとの連携がとても大切になるとは思いますが、これなら、ユーリさんのお役に立てるのではないでしょうかっ」
なんというか、明るい性格に反して、陰湿な戦い方をする人だな。ユーリヤは個人としてなら、今でも結構強いと思う。
後は、カタリナやアクアがどう思うかだな。
「カタリナ、アクア。ぼくはユーリヤをチームに入れてもいいんじゃないかと思ってる。カタリナやアクアが反対するなら、考えるけど。性格の相性もあるだろうし、少し時間をおいてみるというのもありかもね」
「そうね。お試し期間くらいの感じで、いったん組んでみるくらいならいいでしょ。それでだめだったら、改めて外せばいいんじゃないかしら」
「アクアはユーリヤがいてもいい。ユーリヤ、ユーリの役に立つ」
二人は今のところ賛成か。アリシアさんとレティさんはどう思うだろう。ぼくはアリシアさんたちの方を見る。
「そうだね。お試し期間というのはいい考えじゃないかな。実力的には、ユーリ君たちの足を引っ張るほどじゃないと思う。
ユーリ君たちと役割も違うから、これまでのユーリ君たちでは出来なかったことが出来るようになるかもしれない。ひとまずは、反対はしないよ」
「うんうん。わたしたちの目のあるうちは変なことはさせないし、他の人たちと仕事をする機会もあるかもしれないからね。新しいメンバーと動く練習だと思えばいいよ」
そういうものか。アリシアさんたちは以前、キラータイガー相手だと10人で挑んでも負けることがあるといっていた。
それはつまり、10人で組むようなことがあるということだ。そういう時に知っている人だけになるとは思えないし、確かにいい機会かもしれない。
「そういうことなら。ユーリヤ。まずはお試しということになるけど、ぼくたちとチームを組んでほしい」
ぼくがそう言うとユーリヤはとてもきれいな笑顔になった。ぼくたちとチームを組むことをこんなに喜んでもらえるなら、いきなりいがみ合うようなことは心配しなくていいよね。
「わ、わかりました。ユーリさんたちが私を必要だと思っていただけるよう、がんばりますねっ」
「よろしくお願いするわ。でも、役に立たないようなら、出て行ってもらうから。ちゃんとすることね」
「ユーリヤ、よろしく。ユーリをちゃんと守る」
「み、みなさん、よろしくお願いします。ふふっ、ユーリさん。これから一緒ですねっ」
ユーリヤはそう言いながらぼくにとても近づいてくる。本当にユーリヤはぼくに対して積極的だ。確かにユーリヤのことを助けはしたけど、それだけでこんなにする物なのだろうか。
まあ、ユーリヤから悪意は感じないし、これから仲良くなっていこう。
「じゃあ、ユーリ君たち。これから、ユーリヤさんとの連携の訓練にするのはどうだろう。まだモンスターはいるだろうし、弱いモンスター相手のうちに、いろいろ試しておくといい。
いざとなったら、私たちがフォローするから、今のうちは失敗してもいいよ」
「そうだね、アリシア。いずれユーリ君たちはわたしたちと一緒に戦うこともあるだろうからね。そういう時に、連携の何たるかを知っておいてもらえると、わたしたちとしてもやりやすいかな」
今はアリシアさんたちにフォローしてもらうばかりだけど、いつかアリシアさんたちの力になれるようになりたいな。本当にアリシアさんたちは、良い師匠のような存在に思える。
だから、アリシアさんたちが困ったときは、ぼくたちがフォローできるようになりたい。それくらいでアリシアさんたちへの恩を返せるとも思わないけど。
そういえば、昨日の戦いで、少し思いついたことがあったんだ。アリシアさんに話してみよう。
「今の話とは関係がないんですけど、昨日、地面に潜るモンスターを探るために、地面の振動を感じたじゃないですか。その時に思いついたんですけど、音って確か空気の振動でしたよね。
なら、アリシアさんの風の操作で、音を消したり、音を大きくして驚かせたりということもできませんか?」
「なるほど……私は風で物を動かすことばかり考えていたからね。出来るかどうかは分からないけど、試してみる価値はあると思うよ。もしできるようになったら、君たちにお礼をしよう」
「いえ、そんな。ぼくたちはアリシアさんたちに本当にお世話になっていますから。思い付きを口にするくらいでアリシアさんたちの役に立てるなら、それで十分です」
レティさんはぼくの言葉を受けてとても嬉しそうな顔をしてくれる。この顔が見られただけでも、今の提案をした価値としては十分だな。これがアリシアさんたちの役に立ってくれるならもっと嬉しい。
「ユーリ君たち、わたしたちの事をそんなに考えてくれてるんだ。商売敵になるかもしれない相手を強くしようなんて、わたしたちは嬉しいけど、気を付けた方が良いよ。
それにしても、わたしたちをこんなに喜ばせちゃうなんて、ユーリヤさんのこともあるし、ユーリ君ってば、色男だね。なんちゃって」
「からかわないで下さい。別に、誰に対しても世話を焼こうなんて思うわけがないです。アリシアさんやレティさんは、本当にぼくたちに対して良くしてくれました。他にこんなことをしようと思える人なんて、両手で数え切れるくらいしかいませんよ」
「そのほとんどは私たちでも知っていそうだね。まあ、それはいい。じゃあ、ユーリヤさんとどんな立ち回りをするのか、考えてみるといい」
ユーリヤは接近戦ができる。これはアクアも同じだけど、アクアは足止めに強いのに対して、ユーリヤは積極的に攻撃していく方が向いているだろう。罠を仕掛けるなら、ぼくとも協力できるかもしれない。
それに、カタリナの弓も効果を発揮しやすくなる。動く相手に当てられないわけじゃないけど、動きが制限されている方が楽だろうし。
なんとなく、ユーリヤは遊撃のような立ち回りが向いているような気がする。足も速いし判断も早い。できることも、アクア水ほどじゃないけど多い。ぼくたちにとって不足している部分をちょうど埋めてくれるような立ち回りが出来そうだ。
方針は決まった。なら、ユーリヤたちに伝えてから、一度試してみるか。
それから、手ごろなモンスターを見つけて戦ってみる。
ぼくがアクア水を使って敵の動きを制御して、アクアが足止めをして、近いモンスターをユーリヤが、遠いモンスターをカタリナが仕留めていく。
ユーリヤの近くのモンスターは、ユーリヤが仕留めるほか、手数が足りないときは足止めにとどめて、ぼくやカタリナに始末させる。
事前に準備できるときには、ぼくとユーリヤが協力して罠を張り、最小限の手間でモンスターを片づけることが出来た。
本当にぼくたちの相性はぴったりだと思えた。他の人とでは、いきなりここまでは出来ないだろう。長年組んでいるかのような安心感すらあった。
「ユーリヤ、本当にすごいよ。戦闘に関しては全く問題ないと思うよ。後は、共同生活なんかがうまくいくかくらいかな。ユーリヤが問題を起こすとは思っていないけど、一応ね」
「は、はい。ユーリさんが褒めてくださって、本当に嬉しいですっ。それなら、私とチームを組んでも問題ないと思ってもらえるでしょうかっ」
ぼくはユーリヤとチームを組めたら嬉しいと思っているから、今の連携で完全にユーリヤを受け入れる気になっていた。問題は他の2人だよね。ぼくは2人の方を見る。
「あたしは別にいいわよ。あなたがいたら、あたしもやりやすいしね。でも、ユーリ。ユーリヤさんがあんたを慕ってるからって、余計なことをするんじゃないわよ」
「アクアもかまわない。ユーリヤ、一緒にユーリを守ろう」
「ユーリさんなら、わたしに何をしても余計なことではありませんよっ。アクアちゃん、カタリナさん、これからよろしくお願いしますねっ」
上手くまとまったみたいだ。これからはユーリヤと一緒に活動することになる。頼りになる仲間ができたな。
「ユーリヤさん、本当に驚いたよ。ユーリ君、さっきは連携の練習といったけど、これでは他の人と連携するときの参考にはならないと思うよ。それくらい、ユーリヤさんの動きは良かった」
「そうだね、アリシア。まあでも、ユーリ君たちに心強い仲間ができたと思うと嬉しいな。これで、ユーリ君たちがわたしたちに近づける可能性は、一気に上がったと思うよ」
「ア、アリシアさん、レティさん、ありがとうございます。ユーリさんたちが活躍できるように、わたしも頑張りますねっ」
その後にもう少しだけ動きの確認をした後、ぼくたちは帰った。ユーリヤは本当に頼もしかった。これからが楽しみだな。




