24話 出会い
ぼくたちは休養を終えて冒険者活動を再開した。
今のところは簡単な依頼ばかりで、特に苦戦することはなかった。
今日は久しぶりにアリシアさんたちとの活動だ。アリシアさんたちと冒険するとき、基本的にはアリシアさんたちはぼくたちの活動を見守りながら、気になったところを指摘するという感じで一緒に来てくれていた。
アリシアさんたちはぼくたちの活動に良く付き合ってくれているけど、収入が減ったりはしていないのだろうか。
アリシアさんたちと一緒に活動できるのは嬉しいけど、あまり迷惑をかけたいわけでは無い。気になったぼくは、それを質問してみることにする。
「アリシアさん、ぼくたちといる時にはアドバイスに徹してくれていますけど、それでアリシアさんたちの活動に支障は出たりしないんですか?」
「私たちが君たちの指導をするのは正式な依頼だからね。軽く口出しするくらいで依頼料が入ってくるんだから、楽なものさ。
それに、今のところはスケジュールにも余裕がある。前の時のキラータイガーみたいなアクシデントが多ければ、大変だったろうけど。今は落ち着いているよ。
だから、君たちの指導に力を入れても問題ないというわけさ。私たちも、君たちの指導は楽しみにしているんだ。だから、心配しなくていいよ」
「そうなんですね。ぼくたちも、アリシアさんたちに教わることは楽しいです。自分たちがめきめきと伸びているような感じがして。
それに、アリシアさんたちの人柄も、ぼくたちにとっては好ましいです」
ぼくがそう言うと、アリシアさんは笑顔で返してくれる。
アリシアさんはいつも凛々しい雰囲気だけど、笑っていてもそれが消えていない。なんというか、格好いいなあ。
「嬉しいことを言ってくれるね。冒険者というのは、素直に他者に対して尊敬できるような人は少ない物なんだ。
せっかく指導しても、何も身に着けないばかりか、余計な反発をした挙句にそれで失敗して、こちらに文句を言ってくる人までいるという有様でね。
君たちのように素直に指導されてくれるというのはこちらとしてもありがたい。本当に、君たちは可愛らしいよ」
「そうだね、アリシア。わたしたちは、あなたたちがわたしたちに追いついてくれるのが、とっても楽しみなんだ。だから、アリシアは他の依頼があったとしても、あなたたちの指導を優先すると思うよ」
アリシアさんたちも色々大変みたいだ。
でも、そのおかげでぼくたちを大事にしてくれているのだと思うと、いけないとわかっていても嬉しく思ってしまう。
アリシアさんたちがぼくたちの指導者で本当に良かった。ステラさんにも感謝しないといけないな。始めのキラータイガーの一件でアリシアさんたちを呼んでくれなければ、この出会いはなかったわけだし。
「そう思ってくれているなら、本当に嬉しいです。アリシアさんたちには、本当に感「きゃーっ!!」
悲鳴!? 一体何なんだ?」
女の人の悲鳴だ。助けに行った方が良いのかな。
思わずアリシアさんの方を見ると、アリシアさんはうなずいてくれた。向かってもいいということだろう。ぼくたちは悲鳴の方へ向かって行った。
少しの間走っていると、人影とモンスターらしきものが見つかった。長い銀髪の女の人が追いかけられている。追いかけているのは、食虫植物らしき見た目をしたモンスターだ。
「わ、わたしは美味しくないですよーっ!!」
そう言いながらこちらの方へ向かってくる。こちらにたどり着いた女の人をかばい、ぼくはモンスターに対峙する。
モンスターは触手の先に着いたハエトリグサのようなものをこちらに向けてくる。後ろに女の人がいるので、避けることはできない。
ぼくはアクア水を使って触手の軌道をずらし、剣で触手を切り落とした。それからも何度か同じようなことを繰り返すと、モンスターは地面に潜りだした。
下から攻撃されるとまずい。そう思ったぼくは、地面にアクア水をぶちまけて、薄く広げる。
思った通り、地面からの振動をアクア水を通して知ることができた。モンスターはアリシアさんの下に向かっている。
「アリシアさん、そこから離れて!」
そう言うと、アリシアさんはすぐにその場から離れる。それと同時に、地面からモンスターが口を開けて飛び出してきた。
すぐさまアリシアさんは風刃でモンスターに攻撃する。大きくダメージを受けた様子のモンスターは、その場から触手をアリシアさんに向かって放つ。アリシアさんは自分に当たりそうなものだけを切り裂き、残りはレティさんが足でちぎっていった。
それからはモンスターはほとんど何もすることができず、そのまま倒れていった。
ほとんどアリシアさんたちが倒したようなものだったけど、これくらいならぼくたちだけだったとしても倒せたように思う。
念のため、まだ息が残っていないか確認した後、アリシアさんに確認したいことがあったので質問する。
「アリシアさん、最近行方不明者が出ているという話がありましたよね。もしかして、このモンスターのせいだったりするんでしょうか?」
「どうだろう。その話は私たちも知っているけど、行方不明者は明らかに恣意的に選択されていた。このモンスターに知性がないとは思わないけど、そこまでの知性があるだろうか」
なるほど。サーシャさんも、ろくでも無い人ばかりが行方不明になっていると言っていた。ろくでも無い人を選んでいるとすると、ただのモンスターではない。
これ以上はぼくにはわかりそうもないし、他の人たちに任せるとするか。
「なら、可能性はある、位の報告にしておくといいでしょうか。ぼくではこいつが原因なのか判断が付きません」
「それでいいんじゃないかな。これからも行方不明者が出るかどうか。このモンスターに遺品などが食べられているかどうか。それは組合に調べてもらうことにしよう」
「なら、ぼくたちでこのモンスターを運びましょうか? かなりしんどいですけど、アクア水があればできると思います」
「それも組合に任せていいと思うよ。討伐報酬はきちんと出るように話は通しておくから、大勢で調査してもらおう。大丈夫。普段からこういうことは組合の仕事さ」
「分かりました。では、そうします」
アリシアさんとの会話を終えると、それを待っていた様子の先ほどの女の人が話しかけてくる。
「あ、あの。先ほどはありがとうございました。おかげで命拾いしましたよっ。あなたのおかげですねっ」
この人、今まで見たことがないくらいの美人だ。
とても白い肌に長めの銀の髪と赤い目をしていて、一見冷たそうに見える顔をしているけど、ころころと変わる表情がその印象を緩和させている。
ぼくたちとそう変わらない年に見えるし、こんな所にいたということは、冒険者か何かだろうか。
「アリシアさんたちが主に討伐してくれましたから。お礼はそちらに言ってください」
「ア、アリシアさんと言うんですか。お二方も、ありがとうございましたっ。
ですが、真っ先に助けてくれたのはあなたですっ! あなたには、一番のお礼を言わせてくださいっ」
感謝されるのはありがたいけど、妙な勢いだな。少しだけ困って、アリシアさんの方を向いてしまう。
「せっかく感謝されてるんだから、素直に受け取っておいたらいいんじゃないかな。冒険者が感謝される機会というのは、君が思っているより少ないよ」
「わかりました。どういたしまして……えっと……」
「あ、失礼しました! 名乗っていませんでしたね。わたしの名前はユーリヤです。これからよろしくお願いしますっ」
ユーリヤという人はぼくに笑いかけながら礼をする。声も弾んだ様子だし、こちらまで楽しくなってきそうだ。
「ぼくはユーリといいます。あなたを助けられてよかった。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
「わ、わたしたち、そっくりな名前なんですね。あなたに助けられた事といい、これはきっと運命ですっ! ユーリさん、あなたのユーリヤをどうぞ可愛がってくださいっ」
いきなりだな。あなたのとか言われても困ってしまうんだけど。思わずカタリナの方に助けを求めようとしてしまう。
「あんた、良かったわね。こんなかわいい子に好かれてるんじゃない。それで? モテすぎて困るなんて言ったら、ぶっとばすわよ」
「そんなわけないでしょ……そうだ、ユーリヤさん。こちらがカタリナ。あちらのハーピーがレティさん。その隣にいるのがアリシアさん。こっちのスライムがアクアだよ」
「み、みなさん、よろしくおねがいしますっ。それで、ユーリさん。せっかくなんですから、もっと砕けた態度でお願いしますっ。あ・な・た・の・ユーリヤですよっ。ほらっ! どうぞ!」
いや、ほんとにぐいぐい来るな。こんな人と今まで接したことがないから、どうするのが正解なのかよくわからない。
まあ、いきなり否定することもないか。
「わかった、ユーリヤ、これからよろしく。これでいいかな?」
「は、はい。素晴らしいですっ。ユーリさん、これからどうされますか?」
アリシアさんたちがどうすべきと判断するかは気になる。ぼくとしては、ユーリヤを危なくないところにまで連れていきたいけど。
「そうだね……ぼくはユーリヤさんを連れて戻りたいと思います。アリシアさんたちはどう思われますか?」
「それでいいと思うよ。君たちは守りながら戦うことに、まだ慣れていないんじゃないかな。そんな状況で無理に連れまわすことはないし、せっかく助けたのに置いていくというのも、助けた人としての責任を果たしているとは言い難いんじゃないかな」
「うんうん。わたしたちがあなたたちに指導する機会はまたあるから、今回は人を救出した時の対応を学んだということでいいんじゃない?」
当たり前のようにまた機会があるといってくれて、本当に嬉しい。
ぼくはこの人たちと一緒に居る事にも幸せを感じるようになっているんだな。アリシアさんたちもぼくたちのことを大切だと感じてくれているようで、もっとこの人たちの事を好きになりそうだ。
「分かりました。じゃあ、カタリナ、アクア、そういう事だから」
「ま、仕方ないわね。ここで置いて行けとは言えないわ。でも、ユーリ、ユーリヤさんに変にデレデレするんじゃないわよ」
「分かった。ユーリヤ、よろしく」
それからぼくたちは組合に戻ることに。サーシャさんに事の顛末を報告した。
「なるほど。食虫植物のようなモンスターですわね。確かに、人を捕食しているというなら、行方不明者が出ていてもおかしくありませんわ。こちらは組合で調査しておきますわね。
それで、ユーリヤ様。今晩はどうなさるおつもりですか?」
「ユ、ユーリさんの家に泊めていただけないでしょうか。いえ、ユーリさんのチームにわたしも混ぜてほしいんですっ」
「ユーリさん、いかがなさいまして? わたくしといたしましては、そこまでおすすめはしませんわ」
サーシャさんは反対という様子だけど、ぼくはチームに入れること自体は反対ではない。一緒に住むことはいきなりすぎると思っているけど。
「家に泊めるとなると、ステラさんの意見は必ず聞かなくてはいけませんから。パーティに関しては、まずは、実力を見てからということで」
「そうね。恩人だと思ってくれてるなら、それなりには役に立ってくれるんじゃない? 恩を感じないようなやつなら、あたしはお断りよ」
「み、みなさんに恩を感じていないということはありませんよ。必ずお役に立って見せますっ」
ユーリヤは両手を握って気合十分といった感じだ。うん。実力に問題がなければこの人と一緒にチームを組みたいな。
「アクアはどっちでもいい。裏切ったなら、アクアがユーリを守る」
「では、今日の宿はステラ様に確認を取るということでよろしいですわね。念のため、こちらで宿を探しておきますわ」
「ありがとうございます、サーシャさん。それでは、また」
ステラさんの家にユーリヤを連れていくと、ステラさんは快く迎え入れてくれた。
次はユーリヤと組むかどうかだよね。ユーリヤの実力はどんなものだろう。




