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邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム  作者: maricaみかん
2章 水刃のユーリ

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18話 実践

 ついにぼくたちは冒険者として初めてモンスターと戦うことになるみたいだ。

 どこまでやれるか、楽しみでもあり、不安でもある。

 どんなモンスターが相手だろうか。知っているモンスターだといいんだけど。


「君たち、あそこにいるモンスターが見えるかな? 一応聞いておこうか。君たちはあのモンスターを知っているかな?」


 そう言ってアリシアが指を指した方向には、3体のモンスターがいた。

 1体は岩のようなものに体を覆われたトカゲ、1体はウサギのような耳が生えた猫、1体は真っ赤な犬。

 3体とも見たことも聞いたこともない。もしかして、あれと戦わなくてはいけないのだろうか。情報のない敵と戦うの、嫌だなあ。


「知りませんでした。アリシアさんは知っているんですか?」


「あたしも知らないわね。なんだか変なモンスターだわ」


「そうだよね。知っていると言われては、困ってしまうところだったよ。あのモンスターたちは、最近発見された新種でね。君たちには、あのモンスターたちを倒してもらいたい」


 やっぱりそうなるのか。要するに、さっきまでの説明をちゃんと理解できているか、ぼくたちを試そうとしているんだろう。

 せっかく説明を受けたばかりなのに、ちゃんと聞いていなかったとは思われたくないし、何より、せっかくの機会を生かせなかったというのはもったいない。

 ぼくたちの目標は冒険者として大成することである以上、こんな所でつまづいてる訳にはいかないよね。ちょっと気合が入った。


「あのウサギの耳の生えた猫って、見た目通り耳が良かったりするんですか? できる事なら、ある程度観察してから挑みたいんですが」


「モンスターの情報については答えるつもりはないよ。ただ、観察するというのはいい考えだ。君たちは、冒険者にとって大事な才能の、慎重さをきちんと持ち合わせているようだね」


 それはそうだろう。ぼくたちはこれまで何度か命の危機にあってきた。それで無茶し続けるようなら、何も考えていないようなものでしかない。


「冒険者をやっていて、突発的な戦闘が一度もないということはないから、そういう練習もしておいて損はないけどね。

 初めて見るモンスターに対して、自信満々に挑みかかった結果、予想外の強さを持っていたモンスターに負けて死ぬ。冒険者に良くある死因を、君たちは未然に防げそうだ。

 前から君たちには期待していたけど、その評価を一段上げてもいいかもしれないね。それでも、今の君たちはあくまで新人だ。うぬぼれてもらっては困るよ」


 当然だ。自分に自信を持つことが悪いとは言わないけど、自分を疑うことを忘れた馬鹿になるつもりはない。

 ぼくだけが死ぬというなら、とりあえず突っ込んでいく冒険者のようになることもあったかもしれない。

 でも、ぼくにはカタリナがいる。アクアがいる。ぼくの軽率な行動で2人を危険にさらしてしまうかもしれない以上、絶対に打てる手は尽くしておく。雑なことをして2人に何かあったら、死んでも死に切れない。そんな未来はごめんだ。


「分かっています。ぼくたちがアリシアさんたちと比べて未熟だということは、今日だけでもよく分かりました。さすがにうぬぼれる気にはなれませんよ」


「ま、当然よね。あたしたちはいずれ最強のパーティになる予定だけど、今最強というわけじゃないこと位、分からないほど馬鹿じゃないわ。

 あたしはそこらのモンスターにやられて馬鹿にされるような冒険者になるつもりはないのよ」


「アクア、どんなことがあってもユーリを守る」


 ぼくたちが決意表明すると、アリシアたちはぼくたちから少し離れた位置に待機する。そこからぼくたちがどうするか見るつもりなのだろう。


「じゃあ、私たちはここで見ているから、君たちの好きなように戦うといい。一応、万が一の時には手助けするけど、多少怪我をするくらいなら見過ごすつもりだから、しっかりするんだよ」


「あなたたち、がんばってね。せっかくいろいろ教えてもらったんだから、いいところを見せてほしいな」


 まだ敵はこちらに気づいていない。

 いや、あの猫は耳がいいかもしれないよね。もしかしたら気づいているかもしれない。一応不意打ちできないか試してみたいけど、過剰な期待は禁物だな。


 まずはウサギの耳が生えた猫を見てみよう。動き方は普通の猫と同じような感じか。

 なら、身軽だと考えておいた方が良いかな。何か足止めができるといいけど。耳がいい可能性があるから、カタリナがただ弓を撃っても、気づかれるかもしれない。何か別の場所で音を立てて、気を引いておくのもいいかもしれないな。


 次は岩の肌、でいいのかな。とにかく岩に囲まれたトカゲだ。見た目通り固いだろうし、カタリナが弓で撃つことに期待はできない。

 なら、ぼくがどうにかするべきだよね。ぱっと見動きは遅い。

 でも、トカゲだよね。足が速い可能性があるから、溺れさせる以外の手は持って置かないとな。

 そう考えていると、良いことに気が付いた。トカゲの口の中は普通の生き物みたいだった。なら、内側からの攻撃はどうだろう。


 最後は赤い犬だ。他のモンスターに餌らしきものを渡されているな。こいつがリーダー格だと思っていいのかな。

 だとすると、一番強いはずだ。できれば初手で仕留めておきたいところだけど、どういうことができるかな。毛並みは普通な感じだし、特に防御力が高いということはないだろう。

 だったら、一つ試しておきたいことができた。


 作戦はある程度決まった。ぼくはアクアとカタリナに作戦の内容を説明する。


「なるほどね。あんたが中心ってわけ。ま、あたしにも見せ場があるみたいだから、許してあげる。それにしても、アクア水は本当に役に立つわね。あんたもアクアに感謝しておいたら?」


「感謝はいつもしているよ、それで、アクアはどうかな?」


「別に失敗しても、ユーリはアクアが守る。心配しなくていい」


「じゃあ、これで行こうか。みんな、行くよ」


 早速準備を開始した。事前の備えは終わったので、早速戦うことに。

 まず、アクア水で浮かせておいた剣を、ゆっくりと気づかれないように座っている赤い犬の上に操作しておいた。

 そのままアクア水ごと剣を下に向けて操作する。赤い犬は気づくこともなくぼくの剣に貫かれた。仕留め損ねても、ぼくたちは隠れていたから、すぐには見つからなかっただろうけど、これでまずは良し。


 すぐに岩のトカゲが赤い犬から逆の方に逃げようとする。

 そこにはすでに金属片を混ぜたアクア水を設置しておいた。アクア水ごと金属片を岩のトカゲの体内に動かし、体の中をずたずたにしてやる。岩のトカゲはすぐに動かなくなった。

 念のため、ぼくの方とカタリナの方にも同じものを用意しておいたけど、今回は役に立たなかった。まあ、備えというものは役に立たないことがほとんどなので、これでいい。


 ウサギ耳の猫は耳をピンと立て、周囲を警戒している。

 ぼくはもう一本持っていた剣で、左手の盾を何度も叩き、猫の気を引く。猫はこちらにゆっくりと向かってきた。

 別の方向にいたカタリナが弓を射かける。猫はそれに気づかず、カタリナの放った矢に貫かれた。

 念のため、アクアにはカタリナを守ってもらうことにしていたけど、順調にいってよかった。


 少し息を整えていると、アリシアが話しかけてきた。アリシアは今回のぼくたちをどう評価してくれるだろう。


「すばらしかったよ、ユーリ君たち。もう少し苦戦するかもしれないと思っていたんだけどね」


「本当にすごかったよ。あなたたちがわたしたちに追いつくのも、本当にただの夢じゃないかもしれないね」


「そうなってくれると嬉しいね。それはさておき、今回の敵に対して、どんなことを考えて戦っていたのか、聞かせてもらえるかな」


 戦う前に全部考え終えていたけど、その内容を説明すればいいだろう。1つずつそれらを解説していくことにする。


「わかりました。まずは赤い犬なんですが、餌を他のモンスターから渡されていたので、リーダーかもしれないと思って。それで、頭から先につぶすという鉄則通り、先に仕留めようと思いました」


「うん。実際、あのモンスターは他のモンスターに指示を出しているらしき行動をしていたことがある。その判断は正しいよ。統率の取れたモンスターというのは本当に厄介だからね」


 そうだろうな。人間でも、連携の取れた集団と、バラバラに動いている集団では、できる事が全然違う。モンスターに同じことができないと考えるのは、ただの怠慢だ。


「次にあの岩のくっついたトカゲなんですが、明らかに硬そうなので、剣や弓で攻撃しても効果は薄いだろうなと。

 それで、溺れさせることも検討したんですが、捕まらなかったときに備えようと思いまして。

 その時、ちょうど口の中が見えて、その中は普通だったように見えたので、内側からならいけるんじゃないかと。それで、体内から攻撃しました」


「溺れさせることに失敗しても、体の中に水を入れてしまえば内側から攻撃できるという判断なわけだね。

 でも、それだけだと、あそこまで早く倒せるものなのかな? いや、そもそもただの水では有効なダメージは与えられないんじゃないかな」


「それはですね、水と一緒に金属の破片も送り込んだんです。そうすれば、体の中からボロボロにできるでしょう。人相手でも有効そうですよね。やろうとは思いませんが」


「う、うん。顔に似合わず、えげつないことを考えるんだね」


 アリシアは少し引いたような様子だ。

 でも、仕方ないじゃないか。ぼくはそんなに強いわけでは無いから、手段を選んでいるとすぐにやっていけなくなるに違いない。


「顔は余計です。モンスターに、いや、そうでなくとも敵相手に、手を緩めるだけの理由は存在しません。

 ぼくだけならまだしも、ぼくはカタリナやアクアの命も背負っているんです。多少残酷だからと言って、やらないなんてこと、ありえませんよ」


「顔については本当に申し訳ない。私も外見で侮られることは何度も経験していたから、私が言っていいことではなかったよ。

 それに、君の意見は正しい。敵に対して手を緩める理由は、私たち冒険者にはないといっていい」


 当然だよね。カタリナとアクアを傷つけようとする相手に、手心を加えても仕方がない。それでカタリナやアクアに何かあるなんて、許せないんだから。


「結局冒険者というのは、パーティメンバーくらいにしか助けてもらえない人がほとんどじゃないかな。いや、そのパーティメンバーだって、いざという時に裏切られることもある。

 だから、敵と分かっている相手に手心を加えても、得をすることなんてまずないんだ。手心を加えた相手は、後で手助けしてくれるどころか、復讐してこようとするだろうし。結局他人なんて信用できないということだね」


 アリシアは結構親しみやすく感じるけど、そういう風に考えているのか。ぼくたちの事も実は信用されていなかったりするのだろうか。

 まあ、ぼくだって初対面の人を全面的に信用することがおかしいことだとは分かる。

 それに、家族だから信用できるものでもない。疑うことがすべてとは思わないけれど、疑いを忘れるつもりはない。


「まあ、それはいい。私は今の話を聞いて、君に言いたいことがあるんだ。

 君は自分のことを大切にしていないみたいだけど、君が傷つけば、カタリナさんやアクア、それにステラさんはきっと悲しむだろう。もちろん私たちもね。君が自分を大切に思えないというなら、君が大切に思う人のために、自分を大切にしてみるといい」


「それは……はい。わかりました。気を付けておきます」


「あんたはあたしの役に立つ義務があるんだから、勝手に死ぬなんて許さないわよ。あたしの役に立てるだけ立って、それから死ぬのよ」


「アクア、ユーリと一緒じゃないと嫌。ユーリはアクアが守る」


 アリシアの言うことは、確かに理屈ではわかる。

 でも、結局他の人たちはぼくがいなくなっても代わりがいるのではないかという思いがぬぐえないんだ。

 だけど、カタリナやアクアが一時的にでも悲しむのは嫌だし、少しは気を付けよう。


「話がずれてしまったね。最後に、あの猫は、最初に言っていた、耳が良いというのを考慮してああしたということでいいんだよね?」


「はい。カタリナの弓の音を聞かれたくなかったので。うまくいってくれてよかったです」


「うん。君たちのことはよくわかった。今回私たちが説明したことをきちんと理解してくれている。これなら、また機会があったら、何か教えてみるのもいいかもしれない」


 本当にアリシアの教えは分かりやすかったから、またの機会があると言うなら本当にありがたい。楽しみなことが1つ増えたかな。

 まあ、口だけで次の機会はないのかもしれないけど。


「ありがとうございます。嬉しいです。機会があったら、よろしくお願いします」


「それじゃあ、ここで依頼は終わりにして、帰ろうか。……うん? ユーリ君たち、戦闘できる構えになって。何か様子がおかしい」


 アリシアに警戒するように言われたぼくたちは周囲を見回す。

 しばらくして、答えは現れた。キラータイガーだ。それも1体や2体じゃない。1体だけでも苦戦した相手が、こんなに現れるなんて。

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