if 本気のアクア
ぼくはエンブラの街の闘技大会から帰った後、ステラ先生に契約技についていくつも質問されていた。
質問に答え終わると、ステラ先生は考え込む。
そして、何かを決意したようなステラ先生が話しかけてきた。
「ユーリ君、アクアちゃんは、ハイスライムではありません。もしかしたら、オメガスライムかもしれません。ユーリ君、誤解しないでほしいんですけど、私はユーリ君に、アクアちゃんに気をつけろと言いたいわけでは無いんです。
ユーリ君、アクアちゃんは恐らく自分の正体を隠しています。それは、きっとユーリ君に嫌われたくないから。だから、ユーリ君には、アクアちゃんの正体が何だったとしても、アクアちゃんを受け止めてあげて欲しいんです」
アクアはオメガスライムかもしれない。そうステラ先生に聞かされても、ぼくはアクアを疑ったり、嫌いになったり、恐れたりということは一切なかった。
それよりも、アクアに今まで窮屈な思いをさせていたのかもしれないという心配の方が強かった。
アクアの正体がオメガスライムだったとしても、そうじゃなかったとしても、アクアはぼくの大切なペットだ。それは何があっても変わらない。
だから、アクアが自分を隠しているなら、もっと表に出してもいいんだと伝えたかった。
「もちろんです。アクアはぼくにとって、何よりも大切な存在だと思っています。アクアの正体がオメガスライムだったとして、そんなこと、些細な事です。ぼくとアクアの絆は、そんなことで壊れたりはしません」
「ふふっ、そうですね。ユーリ君、アクアちゃんの事、大切にしてあげてくださいね。アクアちゃんは、間違いなくユーリ君の事が大好きなんですから」
「ぼくだって、アクアの事が大好きですよ。ステラ先生、ありがとうございました。アクアの事、聞かせてくれて。これから、アクアにもっと寄り添っていきたいと思います」
ぼくはステラ先生に感謝していた。これがきっかけで、アクアとの絆をもっと深められるような気がしていたからだ。
でも、アクアがオメガスライムだとすると、ぼくが役に立てることはあまりないかもしれないな。そこだけは、少し心配だった。アクアに頼りきりなのは、できれば避けたかった。
それから、家に帰って、アクアと話をすることに。
「アクア。アクアって、オメガスライムだったりする?」
そう問いかけると、アクアはおびえたような表情になる。言い方を間違えてしまったかもしれない。
だけど、ぼくはアクアを責めたいわけじゃない。ぼくはアクアを抱きしめて、語りかける。
「アクア。その反応は、きっと自覚があるんだよね。でも、アクアがそれを隠していたことを責めたいわけじゃないんだ。ごめんね、アクア。今まで窮屈だったよね。怖かったよね。
でも、大丈夫だから。ぼくはアクアが何者だったとしても、ずっとそばに居るから。それに、アクアにも、ずっとぼくのそばに居てほしい。大好きだよ、アクア」
そう言うと、アクアはぼくを抱き返して、最高の笑顔を見せてくれた。良かった。
もしかしたら、アクアとの関係が壊れてしまうんじゃないかって、少しだけ不安だった。でも、これなら、きっとうまくいくよね。
「ユーリ、大好き! ユーリ、ずっと離れないから!」
そう言ってアクアはぼくを抱きしめる力を強める。少しだけ苦しかったけど、我慢した。アクアだって、今まで苦しかったはずなんだから、これくらい、なんてことない。
それからしばらく抱き合った後、アクアといろいろと話をしていた。
「ユーリ。ユーリはアクアの事、オメガスライムだって言ってたけど、アクアにもちゃんとは分からない。アクアがただのハイスライムではないことは、間違いないけど」
「なら、ハイスライムより強いってくらいなのかな?」
「3つの国を滅ぼすのは、やろうと思えばできる。ユーリはそんなことしても喜ばないのは分かってるから、そんなことしない」
3つの国を滅ぼすというのは、有名なオメガスライムの伝承だ。
それなら、本当にアクアはオメガスライムなのかもしれない。そうだとすると、ぼくがアクアにしてあげられること、どれだけあるだろう。ぼくがアクアを守るなんて事、きっとできないよね。
「アクア、アクアはぼくに何かしてほしいことはある? アクアがそんなに強いなら、ぼくが役に立てることはあまりないよね」
「ずっとアクアと一緒に居てくれるだけでいい。それで、遊んだり、撫でたり、抱きしめたりしてくれればいい。それだけで、ユーリのためになんだってできる」
アクアの願いは本当にささやかなものだ。なら、絶対に叶えてあげないとね。その一歩として、またアクアを抱きしめていた。
「ユーリ、大好き。そうだ、餌、もういらないから。別にアクアは食べなくても生きていける」
食べなくても生きていけるのか。本当にアクアはすごい存在なんだな。
でも、食べなくてもいいからって、食べて駄目なわけじゃないだろうけど。
まあ、無理に食べさせることはないけど、アクアが食べたいのなら、食べさせてあげたい。
「生きていけるって言っても、美味しい物とか、食べたくならない? お金の事なら、アクアのためなら気にしなくてもいいよ」
「アクアに味覚なんてない。だから、本当に要らない。気にしているのなら、一緒に寝たり、一緒に遊んだりする時間を増やしてくれればいい」
「わかった。アクア、あらためて、これからもよろしくね」
「こちらこそ。ユーリ、ずっと一緒に居よう」
「もちろんだよ。アクア、大好きだよ」
それからずっとアクアと一緒に過ごしていた。次の日、モンスター討伐に出かけていると、アクアがあっという間にモンスターを片付けてしまった。カタリナがその様子を見て、疑問を投げかけてくる。
「アクア、随分強いみたいじゃない。とてもハイスライムとは思えないわよね。ま、あたしの役に立ってくれるなら、なんだっていいけどね」
「アクア、オメガスライムかもしれないんだ。アクアが言うには、3つの国を滅ぼすこともできなくはないって」
ぼくの言葉を聞いたカタリナはとても驚いた顔をする。当然だよね。ぼくだってとても驚いたんだから。
その後、カタリナは周囲を見回す。そしてぼくに叫ぶような声で言葉を返す。
「はあ!? そんなこと、こんなとこで言うんじゃないわよ! 誰かに聞かれたらどうするつもりよ! はぁ、仕方ないわね。アクア、ユーリともども、しっかりあたしの役に立つことね」
「ユーリが1番だけど、カタリナの役にも立つ。それでいい?」
「仕方ないわね。あなたにユーリよりあたしを優先しろってのも無理な話だわ。でも、しっかり役に立ちなさいよね」
「わかった。それくらいなら簡単」
「本当に簡単なんでしょうね、あなたなら。ま、いいわ。ちゃんと周りには気を付ける事ね。あたしならともかく、他の人に伝わってもいい事なんて無いでしょ。あたしにまで迷惑かけるんじゃないわよ」
カタリナはあきれたような様子でそう言った。
ぼくだって、誰彼構わずこのことを言って回るつもりはない。カタリナの事は、これでも信用しているのだ。思った通り、アクアの事も受け入れてくれていた。
それから、ステラ先生に、契約者と契約モンスターの絆を強めるという指輪をもらった。そして、ステラ先生の故郷である、カーレルの街に誘われた。ステラ先生が言うには、
「アクアちゃんがいるなら、私のサポートなど必要ないかもしれませんが、せっかくなら、ユーリ君とアクアちゃんが絆を深めるところを、特等席で見ていたいですからね。本当に、ユーリ君とアクアちゃんがうまくいっている様子で良かったです。ずっと、仲良くしていてくださいね」
とのことだった。ステラ先生はぼくたちの恩人なので、そのステラ先生がぼくたちを近くで見ていたいと言うなら、それを叶えてあげたかった。なので、カーレルの街へ向かうことに決めた。
それからの学園生活の中で、カタリナがモンスターの大量発生した地点に取り残されかけるという事件があったが、アクアがあっという間にカタリナを助けてくれた。ぼくとカタリナは本当にアクアに感謝した。
そしてカーレルの街で冒険者活動をしていたが、ある問題があった。指輪を使いこなせないことと、アクアが全て片付けてしまうので、ぼくたちが何もできない事だ。指輪を使いこなせないことに関しては、ステラ先生は納得しているようだった。
「ユーリ君とアクアちゃんの仲に問題があるとは思えませんが、この指輪の力を必要とする場面がそもそもないのでしょう。
もしかしたら、ユーリ君たちにはこの指輪は合っていないのかもしれませんね。ですが、それはユーリ君たちが持っていてください。私より、ユーリ君たちの方が可能性があるでしょう」
「それはいいですけど、あたしにとっての問題は、あたしが何の活躍もできない事よ。さすがにアクアに頼りきりなんて、情けないったらないわ。本当に腹が立つのよね」
「それはぼくも同感かも。せっかく一緒に冒険しているんだから、もっと支えあいたいというか……」
「なら、アクア水を飲んでみる? そうすれば、ユーリもカタリナも、アクアがもっと強くしてあげる。ステラも強くなって、契約するのを試してみるといい」
「それで、ユーリ君は強くなっていたわけですか。デメリットは無いんですか?」
アクア、そんなところでもぼくを支えてくれていたのか。
まあ、アクアに頼る形にはなるけど、きっと今よりましだと思うから、ぼくは受け入れるつもりだった。
「アクアがその気になれば殺せるけど、ユーリにも、カタリナにも、ステラにも、そんなことはしない」
「じゃ、あたしは飲むわよ。アクアがあたしを傷つけたりしないでしょ。それに、アクアに力を借りることになるとはいえ、何もできないよりましよ」
「私は、遠慮しておきます。指輪はもう、ユーリ君たちに託すと決めましたから。だから、強くなっても仕方ありません」
「美容にも役に立つけど、それでも飲まない?」
「美容にも!? す、すみません。……では、お願いします……」
結局ぼくたちはみんなアクア水を飲むことにした。
それからは、かなり強い契約技くらいの強化が得られて、ぼくたちにも活躍の場が少しはできた。
冒険者として活動していく中で、ぼくたちと仲良くなる人もそれなりに居て、冒険者になって、本当に良かったと思えた。
それから、アクア水を飲んだ人はずっと若いままで、変な目で見られて困ることもあったが、ぼくたちは幸せだった。
そんな中、ぼくはアクアと結ばれることになり、みんな祝福してくれた。本当にアクアと出会えて良かった。何度も感じたことだが、改めて感じていた。
「アクア、これからもずっと一緒に居ようね」
「うん。ずっと、ずっと。ユーリ、大好き!」
アクアは初めて自身がオメガスライムだという疑いがユーリに伝わった際、原因になった人をどうしてやろうかと考えていた。
しかし、ユーリの想いやカタリナの想い、ステラの想いを感じる中で、自らの正体をユーリに伝えたステラをどうにかするという考えは消えていた。ステラがユーリにそれを伝えたからこそ、ユーリと仲を深めることが出来たことは間違いない。だから、アクアはステラに相応の感謝をしていた。
ユーリはアクアを今までよりもっと大切にしてくれるようになったし、カタリナも口ではいろいろ言いながら、アクアを大切に思っているのは明らかだった。
それに、ステラはユーリとアクアが仲良くなることを素直に喜んでくれていて、だから、この人たちは何があっても守ろうと考えていた。
アクアはユーリたちに危害を加えようとする人間などを、こっそりと操ったり、始末したりしながら、ユーリたちとの冒険者生活を楽しんでいた。
ユーリたちが自分の活躍の機会がないことに悩んでいたので、アクア水で強化するという提案をしたとき、危険性を説明したうえでも、皆が受け入れてくれたということに本当にアクアは喜んだ。
ずっとこの人たちと一緒に居よう、アクアはそう考えて、ユーリたちをあの手この手で守っていた。そんな中、ユーリたちにも新たな出会いが何度かあり、アクアにとっても大切な人になっていった。
ユーリと結ばれた際に、皆が祝福してくれたことがアクアにとっては本当に嬉しかった。だから、皆とずっと一緒に居るのだとアクアは決意していた。アクアは本当に幸せを満喫していた。




