if メルセデスとの未来
メルセデスとメーテルを弟子にしてしばらく。
2人の実力が向上していて、そろそろオーバースカイに加入しても良いんじゃないかと思える。
この子達と一緒に冒険者としてチームを組めると思うと、嬉しい限りだ。
まあ、みんなにも相談はしないといけないけれど。
とはいえ、本当に強くなったな。
初めて出会った頃は心配になるくらいだったけれど。
メルセデスたちの努力の成果であることは間違いない。
他にも、きっと才能もあったのだろうな。本人たちが気づいていなかっただけで。
メルセデス達はオーバースカイに入ることを望んでくれている。
だから、ちゃんとお祝いできる形で加わってほしい。
そのためには、ある程度の試練を用意したほうが良いだろうな。
人型モンスターとの戦いを想定したものにしよう。
オーバースカイは、人形モンスターともいっぱい戦うチームだからね。
そんな事を考えながら、試験のために英気を養ってもらうことも考えていた。
ちょうどメルセデスに一緒に出かけないかと誘われたので、いい癒しになってもらえれば。
そして実際にメルセデスと出かけて。
色々とメルセデスにからかわれたりしながら、会話を楽しんでいた。
それから、メルセデスがよく行くという料理屋へと向かう。
「おっちゃーん、空いてるっすか?」
「空いてるぜ。メルセデス、そいつがお前の師匠か?」
「そうっすよ。色々助けてもらってるっす! ユーリさん、今日はおごるっすね」
メルセデスがいつも食べているというメニューを用意してもらう。
大盛りの野菜炒めで、メルセデスが先に食べ終えてからはずっとメルセデスの話を聞いていた。
メルセデスのおすすめだけあって美味しかったけれど、ちょっと多かったかも。
まあ、メルセデスが楽しそうだから、それでいいか。
それからの帰り道。
ぼくはメルセデスにオーバースカイへ加入するための試験をおこなうことを伝えた。
メルセデスはとてもやる気を出していて、見ていて楽しいかも。
「ユーリさん、絶対合格してみせるっすから! そしたら、聞いてもらいたいことがあるっすよ」
「どんな話か、楽しみにしておくね」
「それって……ユーリさんの期待に、必ず応えるっすよ!」
メルセデスは浮足立った様子で帰っていく。
もちろん、ちゃんと成果を出せないと不合格にするつもりではある。
ただ、2人ならばきっと乗り越えてくれる。そう信じているからね。
2人と共に冒険することを想像して、つい楽しくなってしまう。
がんばってね。メルセデス、メーテル。
それから、メルセデスたちの試験をおこなった。
人型モンスターと戦うため、狡猾な策を乗り越えるための課題を中心にして。
メルセデスもメーテルもとても素晴らしいやり方でぼくの用意した試練を乗り越えてくれた。
文句なくオーバースカイに加入してもらえるだけの成果だ。
なので、全く悩むことなく合格だと告げる。
メルセデスたちはお互いの方を見て、抱き合って飛び上がっていた。
それだけ、オーバースカイに加入できることが嬉しいのだろう。
だから、ぼくもとても舞い上がりそうな気持ちで、涙すら出そうなほど。
「やったっす! メーテル、頑張ったかいがあったっすね」
「そうね~。ユーリさんは基準を満たさなければ不合格にするつもりだったみたいだから~」
メーテルの言う通りではある。
なにせ、オーバースカイの受ける依頼は危険なものが多いから。
メルセデスたちを安易に加入させてしまえば、ぼくはメルセデスたちを失うだけ。
だからこそ、本気で厳しい判断をするつもりでいたんだ。
なのに、2人はちゃんと課題を乗り越えてくれたから。
だから、今は本当に最高の気分なんだ。
「ぼくが言うのもおかしいかもしれないけれど、おめでとう。そして、ありがとう。今とても感動しているよ」
「それだけあたいたちのことを大切に思ってくれている証っすから。おかしくても嬉しいくらいっすよ!」
「そうよね~。私達が合格したこと、本当に喜んでくれているのが伝わるわ~」
ぼくの思いが伝わっているのなら、十分かな。
メルセデスたちがオーバースカイに加わることは、ぼくの望みでもあったから。
お互いにとって嬉しいのだから、それは素晴らしいはずだ。
そういえば、メルセデスが合格したら伝えたい事ってなんだろう。
まあ、こちらから聞くことかは怪しいし、ゆっくり待つか。
「そうだ、ユーリさん、後で2人になりたいっす。時間は空いてますか?」
待つと考えたそばからか。
まあ、メルセデスからは緊張も感じられるから、大事な話なのだろう。
だとすると、部屋みたいなところの方がいいかな?
「じゃあ、ぼくの住んでいる家に空き部屋があるから、そこで話そうか」
「分かったっす! 楽しみにしていてくださいね」
それから、ステラさんの家に2人を誘って、これから住むための準備をしてもらった。
オーバースカイに入ったらこの家に住んでもらうって、以前に約束していたからね。
これからは2人とも一緒に暮らすと思うと、感慨深いな。
まずはメルセデスの話を聞いて、それからみんなに改めて紹介するかな。
メルセデスと2人きりになり、向かいあう。
神妙な顔をしているメルセデスは珍しくて、つい目を引かれる。
そして、いつも快活なメルセデスとは違う感じで、ゆっくりと彼女は口を開いていった。
「ユーリさん、はっきり言ってダメダメだったあたいの面倒を見てくれて、弟子にしてくれて、とても感謝しています」
「気にしないで。メルセデスたちに好感を持てたからしたことだから」
「その好感をもってくれたことが、何よりも嬉しかったんです」
メルセデスの言う事は分かる気がするな。
アリシアさんたちは偉大な師匠だけれど、ぼくたちを大切にしてくれているから嬉しいんだ。
もちろん、役に立つ教えはいっぱいあった。その点でも尊敬している。
だけど何よりも、信じてくれたこと。それが大きな力になったから。
「ぼくがアリシアさんたちに教わったことかもしれないね。信頼は力になるってことは」
「よく分かります。ユーリさんが信じてくれたから。だから、頑張ることができたんです」
メルセデスの力になれていたのなら、嬉しい限りだ。
だって、メルセデスはぼくの大切な人。それは間違いないから。
ぼく自身も、メルセデスに力をもらっていたはずだから。
「うん。そして、メルセデスたちはオーバースカイに加入できるほどに成長してくれたよね」
「ユーリさんが本気であたいたちに向き合ってくれたからです」
ぼくを持ち上げてくれるけれど、きっと何よりもメルセデスたち自身が頑張ったおかげ。
だから、メルセデスたちはきっと最高の弟子だと思える。
アリシアさんたちにとって、ぼくも同じであればいいな。
まあ、今はメルセデスたちにとって良い師匠でいられていることを喜ぼう。
「メルセデスが素晴らしい弟子だったからだよ。だから、もっと自信を持って良いんだ」
「調子に乗っちゃいそうですから、やめておきます。それで、伝えたいことがあるんです。聞いてください」
メルセデスは目つきを真剣なものから柔らかいものへと変えた。
つまり、悩み事とかの話ではないな。
なら、落ち着いた気分で聞くことができる。
ぼくの思考をさておいて、メルセデスは話を続けていく。
しっかりと語るように。ハッキリとした言葉で。
「ユーリさん、あたいはユーリさんが好きです。ユーリさんに伝わるように言うと、愛しています。だから、あたいともっと関係を深めてくれませんか?」
メルセデスの言葉には驚いたけれど。
同時にとても嬉しいと感じるぼくがいて。
ああ、この子とならきっと幸せになれるだろうな。そう思えた。
だから、受けることには問題はない。
それでも、ぼくがメルセデスを愛しているかは分からないけれど。
「メルセデスのことを愛しているとはハッキリと言えない。それでも良いのなら、喜んで」
「ユーリさんはにぶそうですからね。仕方ないです。でも、嬉しいです。ね、キスしませんか?」
メルセデスはぼくの返事も聞かずに近づいてきて、そして唇が触れ合う。
柔らかくて、暖かくて、とても幸せになりそうな感触。
メルセデスはゆっくりと離れていく。顔を見ると、真っ赤になっていた。
きっとぼくも似たような顔をしているのだろうけれど。
「メルセデス、これから幸せになっていこうね。ぼくたちなら、きっとできるよ」
「……はい! ユーリさんのこと、幸せにしてみせるっすからね!」
アクアは多くの人たちを支配していく中で、せめてメルセデス達は乗っ取りたくないと考えていた。
メーテルはスライムどうし、大切な仲間であるし。
もちろんメルセデスだって大切な存在であったから。
この2人ならば、きっとユーリのことを幸せにしてくれるはず。アクアはそう信じていた。
だからこそ、メルセデスたちがオーバースカイの仲間になったことは喜ばしく。
そして、ユーリとメルセデスが付き合うことになったこともとても嬉しい。
アクアはユーリとメルセデス、そしてメーテルとともに幸せになりたいと考えていた。
そして、ユーリとメルセデスが付き合い出したことが始まりになるだろう。
メーテルとともにメルセデスたちを待ちながら、アクアはこれからの幸せを想像していた。




