119話 責任
今日はユーリヤとフィーナに誘われて、3人で一緒に過ごす予定だ。
この2人が一緒に誘ってきたので、仲良くしているのだと思う。
ぼくの知らないところで関係を構築してくれているようで、嬉しいような、寂しいような。
全体としてみれば、間違いなくいいことではある。
ぼくの大切な人どうしがうまくやっているという事実があるのだから。
ちょっとユーリヤとフィーナが連携しているところを見たことはある。
とはいえ、ぼくの前であまり親しい姿をしていたわけではない。
まあ、ぼくもずっとみんなと一緒にいるわけではないからね。
どこか知らないところで交流していても、全くおかしい話ではないよね。
ユーリヤに出会った時はぼくが助けて、フィーナに出会った時にはぼくが助けられた。
それに、ユーリヤは明るいイメージの人で、フィーナは物静かって感じだ。
個人的には、対照的な2人がどうやって仲良くなったのか気になるかもね。
「ユーリさんっ、今日は目一杯楽しんでくださいねっ」
「そうですね……ユーリさんに喜んでもらいたくて、この場を用意したので……」
ステラさんの家の空き部屋で3人一緒にいるのだけど、特別変わった様子ではない。
となると、普通に3人で過ごすつもりでいるのかな。
なんにせよ、ぼくを喜ばせたいという二人の気持ちがとても嬉しい。
なんなら、今の言葉だけで十分だと思ってしまうくらいかも。
「ありがとう。そう考えてくれるだけで、満たされる思いだよ」
「その程度で終わらせるつもりはありませんよっ。ユーリさんには、もっともーっと幸せになってもらうんですからっ。それに、わたしのことも幸せにしてもらいますっ」
「その通りです……わたしたちで、お互いを幸せにしましょうね……」
お互いに相手を幸せにしあえるのなら、それは素晴らしい限りだけれど。
ユーリヤやフィーナの存在によって、ぼくはとても幸福になれている。
だから、ユーリヤとフィーナはぼくの手で幸せにしてあげたい。
それが、2人と出会えた感謝を形にするってことでいいのかな。
いまだに、どうすれば他者に幸福を与えられるのかはよく分からないな。
だから、ぼくは頑張っていくんだけどね。みんなを幸せにしたいから。
「そうなれるのなら、きっと最高だよね。ユーリヤとフィーナは、今は幸せ?」
ぼくのその言葉に、2人は一度目を合わせてからこちらに微笑んできた。
その笑顔からはとても暖かな感情が伝わってくるようで、ぼくも嬉しくなってきた。
やっぱり、大切な人の笑顔はいつ見てもいいものだな。
「はいっ、もちろんですっ。わたしが幸せでいられるのは、ユーリさんのおかげなんですよっ」
「わたしも同じです……ユーリさんが受け入れてくれたことが、どれほどわたしの力になったか……」
ぼくが2人の力になれているという事実が、それだけで喜びを生む。
でも、ユーリヤもフィーナもまだまだ幸せになれると思うんだよね。
なんというか、不幸を知っているから幸せのハードルが低いというのかな。
当たり前のことをすごい幸福みたいに感じているようにみえるのだ。
だからこそ、溺れてしまいそうな幸せを叩きつけてみたいと感じるんだよね。
「それは嬉しいな。でも、2人がもっともっと幸せになれるように、ぼくも頑張るから」
「でしたら、わたしの料理を食べてください……ユーリさんが喜んでくれると思って、準備したんです……」
「わたしも手伝ったんですよっ。フィーナさんは初めてだったそうですからっ」
ここには料理が用意されているように見えないけれど、他の場所で作ったってことかな。
言葉の様子からすると、ユーリヤは料理ができるのかな?
それで、経験のないフィーナを手伝っていた感じだろうか。
なんにせよ、2人が用意してくれるのなら、喜んで食べるつもりではあるけれど。
「もちろんだよ。ぼくのために用意してくれるなんて、嬉しいな」
「はい……ユーリさんのために用意したんです……思う存分、召し上がってください……」
「そうですよっ。わたしたちの愛情、召し上がれっ」
「お腹いっぱいになっても食べちゃうかも。ところで、調理場にもう作ってあるの?」
「そうですねっ。待ちきれませんか?」
「そうかもね。なら、取りに行こうかな」
ぼくが動こうとすると、ユーリヤとフィーナが共に手で止めてきた。
そのまま、2人で料理を持ってきてくれた。魚料理が中心になっている。
ぼくの好みに合わせてくれたんだな。というか、もうみんなぼくの好みを知っているのかな。
まあ、食事の好みが知られているくらいなら、嬉しいって感じていればいいか。
ぼくに興味を持ってくれている証って思えばいいよね。
「美味しそうだね。2人共、料理がうまいんだね」
「その評価は、食べてから判断してください……ユーリさんの好みでなければ、意味がありませんから……」
「同感ですっ。お世辞なんていりませんから、ちゃんとおいしいか言ってくださいねっ」
ぼくが不味くてもおいしいって言ってしまいそうなことを見抜かれているのかな。
お世辞なんていらないと言われても、そのままの感想を残すことには抵抗があるというか。
いや、これはまずいと決まったわけじゃないのに、その考え方はダメだよね。
匂いと見た目からは、美味しそうな感じがするけれど。結構期待してしまう。
そのまま食べていくと、ぼくの好みに合わせてくれているという感じが強かった。
甘さも辛さも何もかもちょうどぼく好みで、いくらでも食べていたいくらいだった。
夢中になって食べ進めていると、ユーリヤとフィーナから視線を感じて、思わず手を止めてしまう。
「わたし達のことは気にせず、お好きな様に食べてください……」
「本当ですよっ。ユーリさんに美味しく食べてもらえないなら、作った意味がないんですからっ」
そういうことらしいので、食べることに集中する。
魚は柔らかさを損ねないまま、いい焼き加減になっている。魚が好きなぼくとしては、最高だ。
それに、魚本来の味を邪魔しない範囲で味付けがされているので、それも嬉しい。
総合すると、フィーナが初めてなんて信じられないほどの出来だった。
「最高に美味しいよ。これなら、また何度でも食べたいくらいだよ」
そういうと、2人は弾けるような笑顔になってくれた。
美味しいっていうだけでこんなに喜んでもらうと、ちょっと申し訳無さもあるくらい。
ぼくは作ってもらって食べているだけなのにね。
でも、本当に2人の料理は好きだから、また食べたいのは本音だ。
「喜んでもらえて何よりですっ。それなら、またの機会に用意しますねっ」
「いずれは合作ではなく、それぞれ個人の料理も食べていただきたいですが……」
「それもいいですねっ。フィーナさん、お互いもっと練習しましょうねっ」
「そうですね……ユーリさんの好み、もっと知りたいです……」
ぼくの食事の好みって、魚料理以外は自分でもよくわからないんだよね。
というか、自分の好みを正確に把握できている人なんているのかとすら思える。
それはさておき、フィーナとユーリヤの手料理は楽しみだ。
ちょっとくらい焦げていても、笑顔で食べられちゃいそうだな。
まあ、お世辞は嫌って言ってたのがどこまで本音かによっては、嫌味に受け取られかねないけれど。
でも、大切な人が頑張って作ってくれた料理ってだけで、相当嬉しいのは確かだから。
「ぼくの好みはぼくにも分からないや。でも、2人が作ってくれるのなら、喜んで食べるから」
「嬉しいです……また、ご用意しますね……」
「楽しみにしていてくださいねっ。もっとうまくなってみせますからっ」
本当に楽しみだ。今からでも待ち遠しいって思えちゃいそうなくらい。
フィーナもユーリヤも楽しそうで、それも嬉しいな。
特にフィーナは、趣味らしきものも見つかっていないようだったから。
「そういえば、2人はどこで仲良くなったの? ちょっと気になっちゃうかも」
「わたしたちには色々と共通点がありましたからねっ。それでですよっ」
「そうですね……似た者同士と言えるでしょうか……」
似た者同士? 結構意外だな。ぼくは2人を対照的だって思っていたのに。
でも、2人がそう思っていて、実際に仲良くしているのだから、事実なのだろう。
どんなところに共通点があったのかな? 聞いてみても大丈夫なのだろうか。
「ふふっ、どんな部分が似ているのか、気になりますか? 1つは、ふたりともユーリさんが大好きだってことですっ。残りは、内緒ですねっ」
ユーリヤにはぼくの考えはお見通しだったみたいだ。
やっぱりぼくは顔に出やすいんだね。もう諦めたほうがいいのかな?
それはさておき、2人共ぼくが大好きだときたか。嬉しいし、これまでの態度からそんな気はしていた。
とはいえ、それだけで繋がりが深くなるとは思えないし、残りが重要なのだろう。
一体なんだろう。全くわからないな。でも、きっと悪いことじゃないから、ぼくに内緒でもいい。
「ありがとう。ぼくも2人のことが大好きだよ。これからもよろしくね」
「それは知っていましたが、言葉にされると嬉しいものです……なので、わたしも言葉にしますね。ユーリさん、大好きです……」
フィーナがこんなに積極的になってくれたのは、フィーナが明るくなった証だと思える。
これまでずっと、フィーナは自分が嫌いなようだったから。そんなフィーナも、ちゃんと自分を愛せているような気がするんだ。
この感覚が当たっていてほしい。それなら、最高の状態だと言えるから。
「フィーナにも、ユーリヤにも、ぼくはずっと助けられてきたから。だから、2人の頼みなら、できる限り聞くよ。改めて、2人共大好きだよ」
「だったら、わたしたちのことをこれからも好きでいてくださいっ。それだけで、ユーリヤは満足ですからっ」
「わたしも、同じ様な気持ちです……それだけじゃありません。ユーリさん、もっとわたしたちを頼ってください。ユーリさんの頼みなら、わたしたちだってなんでも聞きますから……」
ユーリヤとフィーナは似た者同士だって言ってたけど、ぼくも似ているのかもね。
だって、ぼくの望みと2人の望みは似たようなものに感じるから。
だから、ぼくがしてほしいこと、2人にいっぱいしてあげるんだ。
それで、2人にはずっと幸せでいてほしいな。
「これからもずっとよろしくね、2人共」
「はいっ。ユーリさんと、いつまでも一緒にいますからっ。嫌だと言っても遅いんですよっ」
「そうですね……わたしたちに幸せを教えた責任、何があっても取ってもらいますから……」




