81話 正体
亀形のモンスターを倒してオリヴィエ様を助けたぼくは、しばらく王都で歓待を受けていた。
そんなある日、オリヴィエ様に呼び出されて部屋で2人になっていた。
「ユーリ、貴様には感謝している。望む褒美があるのなら、どんな物でもくれてやろう」
「それって王位とかでもですか? 王位が欲しいわけじゃ無いですけどね」
「くくっ、貴様が真に望むのなら構わんさ。だが、貴様の望みはそうではないだろう?」
「そうですね。では、オリヴィエ様と遊びたい、でどうですか?」
オリヴィエ様はぼくの言葉を受けて驚いたような顔をする。
王女様と遊ぶなんてとんでもない名誉だと思うけど、失礼だったかな?
ぼくは少し心配していたけど、オリヴィエ様が楽しそうに笑いだしたので安心する。
「金でも名誉でもなく余と遊びたいときたか。貴様らしくはあるのだが、せっかくの機会を棒に振っているような物ではないか」
「オリヴィエ様が危ないと思ったとき、ぼくはオリヴィエ様には絶対に死んでほしくなかったんです。オリヴィエ様と過ごす時間を大切に思っていたんだと、はっきりと分かりました」
「そうか……そうか! やはり貴様に目を付けた余の目は正しかった。ユーリ、余が許す。余と2人の時は余をハイディと呼べ」
別にかまわないのだけど、どうしてハイディなのだろう。
王都ハイディケートがアーデルハイド様の愛称であるハイディから名づけられたという話は聞いたことがあるけれど、それと何か関係が?
「くくっ、戸惑っているようだな。当然だ。ハイディという呼び名にオリヴィエと何の関係もないのだからな。貴様には余の秘密を教えてやろう」
オリヴィエ様の秘密っていったい何だろう。この前はリディさんにじつは王族だと教わったけど、そういう他の人に言えない秘密じゃないと良いんだけど。
オーバースカイの仲間に隠し事は出来るだけしたくない。もちろん、知ってほしくない秘密を隠すくらいの分別はぼくにもある。
でも、隠し事をしているだけで後ろめたさのような物を感じてしまうので、隠さずに済むのならその方が良かった。
まあ、王女様の秘密で触れ回っていい物なんてないか。覚悟を決めよう。
「……実はな、余はかつてこの国を形にしたアーデルハイドそのものなのだ。この国において王など単なる飾りにすぎん。余こそがこの国で最も尊きものよ」
それは信じていい話なんだろうか。いや、オリヴィエ様の顔はとても真剣で、からかいのように嘘をついているわけでは無い。
確かにオリヴィエ様がアーデルハイド本人だとすると納得できる部分はある。
オリヴィエ様が今の王家と違う綺麗な金髪をしている事、オリヴィエ様の契約技がアーデルハイドと同じようなものだって事、オリヴィエ様がこの国を自分の物のように言っている事。
それら全てにつじつまが合う答えではあるのだ。だけど、一体どうやって千年近くも生きていたんだ?
いや、答えは簡単か。生命力の吸収と活性化。どちらかなのか、どちらもなのかは分からない。
どちらにせよ、オリヴィエ様の契約技の力で長生きする事ができたのだろう。
だとすると、サーシャさんも長生きできるのかな? まあ、何でもいいか。ぼくには関係の有るようで無い話だ。
「そうだとすると、ぼくなんかに構って色々なことをしていて良かったんですか? 王様って忙しいイメージがありますけど」
「余はすべてにおいて命じるだけで良い。それ以外の事はしもべどもが考えることだ。余がやりたいことを叶えるのがこの国の物の役目。それができぬものなどアードラには必要ない」
とんでもない暴君のセリフだ。でも、単にわがままなだけな人なら、ぼくはここまでオリヴィエ様を好きになっていない。
なんだかんだで配慮もできて、優しさが感じられる人だからこそ魅力的なんだ。
それにしたって、ただ珍しいだけのぼくに構うのはおかしいと思うけど。
まあいい。そんな気まぐれがあったからこそオリヴィエ様と親しくなれて、この人を助ける事ができたんだ。素直に喜んでおこう。
「なら、これからはハイディと呼びますね。オリヴィエ様の願いを叶えられないぼくは、この国に必要ないみたいですから」
「くくっ、貴様も言うようになったものだな。だが、よいぞ。貴様だけはどんな態度をとったとしても許してやる」
ハイディはそう言うけど、ぼくはハイディに失礼な態度をとりたいわけでは無いし、この人はきっと限度を超えると絶対に許さないだろう。
これからもハイディにはちゃんとした態度をとることをぼくは心に決めた。
「それは嬉しいような、困るような……ハイディの事を大切にしたいので、無礼なことはできませんよ」
「そうか。ろくでもない態度をとる貴様を見るのも面白そうだったが、まあいい。ユーリよ。今日は貴様を余の私室に連れて行ってやる」
そう言ったハイディに手を引かれて、私室だという部屋に連れていかれる。
王女様、じゃなかった。この国の支配者っぽくないかもしれない。質素というほどでも無いけど、豪華絢爛な様子はない。
そんな部屋の中で目立つ大きな寝具に座るハイディに引っ張られて隣に座る。
私室ってことはハイディはいつもここで寝ているんだよね。少しどころでは無く緊張してきた。
「くくっ、今日は貴様と隣で眠ろうか? 貴様には余に手出しするほどの度胸はないであろうが、こんな機会は二度とないかもしれんぞ?」
「困ります。王女様と一緒のベッドで寝たなんて、どんな大変な目に遭う事やら……」
「それを言うならばこの部屋に入った時点で同じことだ。まあよい。ユーリ、余とどのような遊びをしたいのだ?」
ハイディの言葉にはっとする。そうだよね。同じ部屋に入った時点で関係が噂されてもおかしくないよ。
でも、もう部屋に入ってしまった事だから、受け入れてハイディと遊ぶことにする。
一体どんな遊びをすればいいのだろう。アクアとするような遊びでは絶対にダメだよね。
「くくっ、悩んでおるな。ユーリ、余の膝に頭を置くといい。貴様とてそのような経験くらいあるだろう」
ハイディはベッドの頭を置く方へ移動する。これはこのベッドで横になれって事かな。
そのままハイディの膝を枕にすると、ゆっくりと頭を撫でられる。
ハイディはそのまま穏やかな声でぼくに話しかけてくる。
「ユーリ、まさか貴様に助けられる事になるとはな。これまで余は自分の道を己の力で切り開いてきた。それが本来弱者のはずのスライム使いに救われるのだからな。数奇なことだ。
貴様には感謝している。余の長い一生の中でも一度も訪れることのなかった、他者に必死で守られるという経験を味わえたのは貴様のおかげだ。ユーリ、余の物になれ。余は貴様が欲しい」
「ハイディの気持ちは嬉しいですけど、ぼくは冒険者として生きていくと決めているので。でも、また何度でもハイディに会いに来ますから。それじゃダメですか?」
ハイディはため息を吐いた後、ぼくの頭を抱え込む。そのまま強くぼくの頭を抱きしめてきた。
「これまでならそれでも良かった。だが、もうそれだけでは満足できん。余のもとから離れるなど許しはしない」
ハイディの声はとても真剣みがあって、なんだか強い執着のようなものも感じた。
その日はそのままハイディと過ごして眠り、次の日に帰ろうとすると、転移装置には警備が大勢いてぼくは帰る事ができなかった。
ぼくは焦ったけど何もできなかったので、そのまましばらく王都で過ごしていると、突然ハイディが一緒にカーレルの街へ向かうと言い出した。
そのままリディさんやイーリスとともにカーレルの街へと転移装置で移動した。
カーレルの街ではサーシャさんが出迎えてくれて、心配の言葉をかけてもらった。
「ユーリ様、こちらに連絡が一切なかったので、ユーリ様の身に何かあったのかと……嬉しいですわ。こうしてまたユーリ様の顔を見られて」
そんな事になっていたのか。なら、オーバースカイのみんなにも心配をかけてしまったかもしれない。
ぼくはハイディたちと一緒に、すぐにステラさんの家へと向かった。
ステラさんの家へ向かうと、アリシアさんたちも含めたオーバースカイのみんなが出迎えてくれた。
メルセデスたちはオーバースカイに加入した段階でこっちに住んでいたけど、アリシアさんたちもここに住んでいるらしい。
前の家はサーシャさんに管理を任せているという事なので、またあの家に行くこともあるだろう。
オーバースカイのみんなにもみくちゃにされた後、ぼくは今回何があったのかを説明した。
ハイディと一緒にモンスターを倒したこと、ハイディの手回しでこちらに帰って来られなかったこと。
みんなは納得したような顔をした後、ぼくの成果を喜んでくれた。
それからしばらくみんなと会話を楽しんで、ハイディの屋敷でハイディたち3人と話していた。
「結局オリヴィエ様はどうして気が変わったんですか? ありがたいですけど、理由がよく分からなくて」
「この2人の前ならハイディでもよいぞ。オリヴィエ様でも構わんが。それで、理由か。余がこちらに来る機会を増やすことにした。それでだ」
「もう少し説明させてもらうと、王都の人員を整理する事ができたので、殿下がいらっしゃらなくても、政務に滞りが出ないようになったのです」
人員を整理するとなぜそうなるのだろう。ぼくにはよく分からないけど、ハイディがこちらにやってくる機会が増えるのは嬉しい。
リディさんやイーリスとも会える事が多くなるだろうし、大歓迎だった。
「貴様を縛り付けていたら、貴様に嫌われかねんからな。余としてはそれは面白くない。オーバースカイともども余の物にするのも悪くないが、今回はこうすると決めた」
ぼくの懸念事項はみんなと離れ離れになる事だったので、それでも構わないと言えば構わないのだけど。
オーバースカイごとハイディの物になるのなら、サーシャさんはどうなってしまうのだろう。まあ、今は考えなくてもいいか。
それからしばらくハイディたちと雑談をして、ハイディたちが帰るときに転移装置まで送っていった。
ハイディたちと会える時間が増えるというのは嬉しいな。次にハイディが来る時が楽しみだ。




