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邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム  作者: maricaみかん
3章 頂へと歩むオーバースカイ

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76話 死闘

 王都に強大なドラゴンが現れたらしい。わざわざ強大とつける位なのだから、普通のドラゴンより強いのだろう。

 ドラゴニュートだってドラゴンより強いけど、そのイーリスがいるのにこちらに協力を要請してくるという事は、相当強い事を覚悟した方が良いね。

 まあ、王族の近衛がわざわざ戦うほどじゃないと判断された可能性もあるけど。そちらの方が良いけど、希望的観測を今からするべきじゃないか。


 アリシアさんたちも王都へ向かうことになったようで、サーシャさんが今状況を説明している。

 今回は緊急事態なので転移装置を使ってぼくたちは王都へ行く事になるらしい。

 敵のドラゴンはアリシアさんの風刃が通用しないほど硬いらしくて、アリシアさんたちがオリヴィエ様から武器を貰っていなければ戦力にはなれなかったみたいだ。

 そのドラゴンはブラックドラゴンと呼ばれる種類らしいが、ぼくは知らない。

 でも、相当な上位種らしくて、そこらの人型モンスターでは比較にもならないようだ。

 これはイーリスより強い可能性が高いな。かなり気を付けておかないと。

 メルセデスたちを置いていこうか少し考えたけど、メルセデスの方を見ると強い目で置いていくなと訴えかけられた気がした。

 どうする。どの選択が正解だ。メルセデスたちは戦力として扱えるだけの強さはあるはずだけど、ぼくたちの中で一番弱いことも確かだ。

 みんなで無事に帰るためには、しっかり敵の情報を知った方が良い。ぼくはサーシャさんに詳しく聞くことにした。


「ブラックドラゴンの攻撃ってどんなものなんですか? 厄介な点とかは分かっていますか?」


「ブレスが一番厄介だと聞きますわ。ただ、ユーリ様であれば防げるとの情報がこちらには来ておりますわ。他に足や翼や尻尾でも攻撃してきますが、そちらはメルセデス様やメーテル様でも耐えられるとのことですわ」


 そうなると、メルセデスたちを連れて行った方がみんなのためには良いかもしれない。

 いざとなれば逃げるつもりでいようと思ったけど、王都にはオリヴィエ様たちがいる。あの人に危ない目にあってほしくない。

 守りたいものが増えるとこういう時に厄介だな。1人だけ守りたいだけなら気にしなくていい事が多すぎる。

 それでも、大事な人をへらして生きたいなんて思わない。全力で挑むしかないか。


 転移装置で王都へ向かうと、オリヴィエ様たちが待っていた。


「ユーリ、よく来た。ドラゴン討伐に余も着いていければ楽であろうが、そうは出来ぬ事情があってな。リディとイーリスは貸してやる故、上手く使ってやれ」


「ユーリ殿、今回はよろしくお願い申し上げます。小生の炎を見せる機会がこのような事態とは、ついていないものです」


「ユーリ、よろしくな。オリヴィエ様のためにも全員無事で帰してやるから、安心して戦っていいぜ」


 リディとイーリスが一緒に来てくれるのはありがたい。これで戦力がだいぶ増える。

 リディは固定砲台みたいな物とのことだし、ぼくが上手く守ってあげると良いかもしれない。

 イーリスは頑丈とはいえ、ブラックドラゴンの攻撃にどこまで耐えられるのだろう。ちゃんと様子を見た方が良いかな。さすがにブレスは危ない気がするから、ぼくがしっかりしないと。


 それからすぐにブラックドラゴンのいる場所へと向かっていく。ぼくたちが体力を使わなくていいように、兵士が道を切り開いて山を登っていく。

 この兵士たちはぼくたちが戦っている間は離れたところで待機しているらしい。帰りの補助にも使えとのことだ。


 道中の障害はモンスターくらいの物で、山だというのに木や草が邪魔になることは無かった。

 助かるとはいえ、植物が見当たらないのはもしかしてドラゴンのせいなのか? そんなことができるというのは相当厄介ではないのか。ぼくは警戒を深めていく。


 しばらく進んでいくと、視界に大きな黒い物が映った。あれが恐らくブラックドラゴンだろう。


「ユーリ殿、ここからは我々だけで進みます。お前たちはここで待機していろ」


「「はっ!」」


 ブラックドラゴンに近づいていくと、その巨体に圧倒される。

 身長だけでも人間3人分くらいあるんじゃないかな。2足歩行できそうな後ろ足に、鋭い爪の着いた前足。大きな翼に尻尾。

 全身が真っ黒でブラックドラゴンという名にふさわしい姿だった。


 ブラックドラゴンはこちらを見ると、すぐさまブレスを放ってくる。

 ぼくはそれに対して全力で氷の壁を張った。何とか防げたが氷のほとんどは溶かされてしまった。すごい火力だ。

 連続でブレスを放ってくることに警戒していたけど、すぐにブレスは撃ってこなかった。


 その隙に前衛が近づいて攻撃を加えていく。全く効果がないわけでは無いものの、大きなダメージを与えられていない。

 尻尾や足に翼、色々な場所で反撃を仕掛けてくるブラックドラゴン。その攻撃はどれも味方には当たっていない。当たっても地面くらいだ。

 けど、当たれば危険だとはっきり分かるくらいの衝撃が地面から伝わってきた。これはメルセデスやアクアにメーテルが大事な役割を担うだろう。


「メルセデス、契約技で危なそうな人を守って! メーテルとアクアは抑え込める範囲で敵の攻撃を抑えて! ブレスを撃って来そうになったらみんなすぐに逃げて! ぼくの防御にも限界があるから!」


 最低限の指示だけ出しながら、ぼくもミア強化で攻撃を仕掛けてみる。鱗に傷をつけることに成功はしたけど、これだと何度攻撃を当てればいいのやら。

 鱗の中は柔らかいと仮定しても、鱗を破るまでに同じところを何度も攻撃しないといけない。ブラックドラゴンはぼくたちより遅いとはいえ、ただの人間よりは数段速い。

 当たったらおしまいな攻撃を避けながら続けるには心もとない戦術だ。

 まずは後衛の攻撃がどれだけ通じるか確かめないと。


「カタリナ、フィーナ、リディさん! 思いっきり攻撃して! みんなは射線をあけて! その間はぼくが足止めするから!」


 アクア水を凍らせたもので拘束のような形で相手の動きを妨害して、後衛のみんなに攻撃してもらう。

 フィーナの衝撃は相手をのけぞらせているけど、致命傷には程遠いように見える。

 カタリナの弓は鱗に軽く突き刺さっている。これなら当て方を考えればとどめにも使えるかもしれない。

 リディさんの炎をブラックドラゴンはあまり気にしていない様子だ。リディさんは攻撃担当としては期待できないかもしれない。


 そう考えていると、ブラックドラゴンはすぐにブレスを放ってきた。ぼくが防御しようとすると、リディさんがブレスに向かって炎を放つ。


「これが小生の炎! ブラックドラゴンのブレスと言えど、この炎は超えられませんよ!」


 その言葉通りにリディさんの炎はブラックドラゴンのブレスを打ち消す。

 熱気がこちらへ向かってくるので、急いで氷を出して周囲を冷やす。直接ブレスを防ぐよりぼくの負担が少ないので、リディさんが炎を撃てるうちはブレスを任せたい。


「リディさん、炎を撃てなくなったらすぐに言ってください! ぼくが変わりますから!」


「そんな事より今はこの戦いだよなあ! ドラゴン族同士、どっちの力が強いのか試してやるぜ!」


 イーリスがブラックドラゴンに向かって突き進む。そのままブラックドラゴンを何度も殴り、ブラックドラゴンの反撃を受け止める。

 ブラックドラゴンもイーリスもすごい力だけど、この攻防ではブラックドラゴンに分があるように見えた。


「イーリス、そのままじゃ勝てないからみんなと協力して! ノーラ、お願い!」


「わかったぞご主人。イーリスをサポートすればよいのだな」


「仕方ねえ。癪ではあるが不利なのは確かだ。ユーリの言葉に従うとするさ」


 ノーラがイーリスのサポートに入ることで、ブラックドラゴンはイーリスを相手しようとするタイミングでノーラにうまく邪魔されていた。

 ミーナやヴァネア、アリシアさんとレティさん、ユーリヤも加わって攻撃を仕掛けていく。

 ノーラとイーリスは攻撃をうまく受け止められているけど、他の人たちに攻撃が当たりそうなときはメルセデスやアクアにメーテルが上手く守ってくれていた。


 このまま進めば行けるかという希望が芽生えてきたが、そのまましばらく状況は膠着していた。

 そんな中、ついにメルセデスが限界を迎えてしまう。


「これ以上は契約技を撃てないっす! ユーリさん、あたいは下がりますね!」


 限界を迎えてすぐに下がってくれたおかげでメルセデスを守らなくて済んだのは助かった。

 それでも、防御の手数が減ったことでぼくたちは追い詰められているように感じた。

 前衛の動きが追い付かない状況が増えたので、ぼくも前衛に回りながらアクア水でみんなを防御する。


 それでもみんなに攻撃が当たりそうな状況が増えてきて、ぼくは必死で後衛に攻撃が向かわないように耐えていた。


「ミーナ、ヴァネア、もう下がって! 攻撃に対応しきれていないよ!」


「すまない、ユーリ。後は任せたよ」


「ごめんね、坊や。回復出来たらすぐに戻るからね」


 ミーナとヴァネアが下がった事でぼくたちはさらに追い詰められていた。ぼくは全力でアクア水とミア強化を使っていたが、対応がだんだん後手へと回っていくことになる。

 さらにぼくたちを追い詰めるように、リディさんとイーリスも限界を迎えたようだ。


「ユーリ殿、これ以上炎を撃つことはできません。すみませんがいったん下がります!」


「リディだけじゃ逃げられねえだろ。俺も下がるぞ。悪いな、ユーリ」


「アクア、メーテル、カタリナとフィーナを守って! こっちはぼくたちで何とかするから!」


 前衛の数が明らかに減ったので、ぼくだけでもブラックドラゴンの近接攻撃から前衛を守れると判断して後衛を守ってもらう。

 そうしながら前衛でブラックドラゴンを足止めしつつ後衛に攻撃してもらっていたのだが、更にメンバーが減っていく。


「これ以上は力を発揮できません……すみませんがわたしは戻りますね……」


「うちもそろそろ限界かもしれん。ユーリヤも、回復に向かうぞ」


「ユーリさん、すぐに戻ってきますから頑張ってくださいっ」


「私は撤退を支援するわね~。ユーリちゃん、ちょっとだけ頑張って~」


 最後に残ったのはぼくとアリシアさんにレティさん、カタリナとアクアだけだ。

 ぼくはまだまだ動ける感じがしていたけど、アリシアさんたちの動きが鈍くなっている。


「アリシアさんもレティさんも下がって! ぼくだけならなんとかなるので!」


「そんな訳にはいかないよ! ユーリ君こそ逃げるんだ!」


「わたしたちなら逃げるのは簡単だから、心配しなくていいよ!」


 そうアリシアさんたちは言うけど、ここをアリシアさんたちに任せられるほど2人の状態は良くない。

 仕方ないのでそのまま戦っていると、ブラックドラゴンはアリシアさんたちの方へブレスを放とうとする。

 アリシアさんたちは範囲から逃げきれていないので、ぼくは全力でアクア水の壁を張った。

 そのままアクア水は蒸発するけど、アリシアさんたちのもとへ熱気が向かう前に全力で凍らせる。


「アリシアさんたちはもう逃げて! 勝ち筋は見えましたから大丈夫です!」


「……仕方ないね。私たちの方が足手まといになっている。レティ、行くよ」


「ユーリ君、絶対に無事に帰ってきてね、約束だよ」


 アリシアさんたちはそのまま下がっていく。ぼくが勝つ手段を思い浮かべたのは本当の事で、それはブラックドラゴンの体温を下げる事だった。

 前衛がいるとその人たちを凍えさせないように気を付けないといけないけど、ぼくだけならアクア水を飲むことで対策ができた。

 アクア水の温度を固定することで、ぼくの体温が下がり切らないようにする事ができるのだ。


 アクア水の氷を大量に発生させて、無理矢理蒸発させてブラックドラゴンの体温を奪う。

 ブラックドラゴンの動きはどんどん鈍くなっていくけど、ぼくではとどめを刺しきれないと考えていた。

 でも、カタリナがいる。あの弓ならば目から脳天を貫けるはずだ。

 ぼくは動きが鈍くなったブラックドラゴンを氷で拘束する。ぼくが何も言わなくてもカタリナは弓を撃ってくれた。


「これでとどめよ! あたしの弓、しっかり味わっていきなさい!」


 そして、ブラックドラゴンの目を弓が貫通し、ブラックドラゴンはしばらくもがいた後に動かなくなった。

 何とか勝てた。みんなの無事を確認しないと。


 アクアとカタリナと一緒に後方へ向かうと、みんなが待ってくれていた。


「ユーリ殿、まさか小生たちが戻る前にブラックドラゴンを倒してしまわれるとは。さすがですね」


「みんな無事みたいで良かった。じゃあ、帰ろうか」


「ユーリの格好いい姿はアクアとカタリナだけが見ていた。うらやましい?」


「うちは羨ましいぞ。だが、最後まで残ったものの役得だと思えば納得だ。ご主人、無事で何よりだ」


 それから少し休憩した後、ぼくたちは王都へと戻っていった。本当に大変だった。ブラックドラゴンとはもう戦いたくないな。

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