呟け詩子
詩子は激怒した。かの人気アイドルグループのメンバーである天野キラリを懲らしめねばならぬと決意した。詩子には、星川貴志という推しがいた。彼は、才能のある俳優である。かっこよくて、背が高くて、とても演技が上手であった。詩子は今日も、推しのSNSをチェックする。あぁ、今日もカッコイイ。世界は平和である。呑気に画面をスクロールしていくと、思いがけない記事に出会った。
「星川貴志、人気アイドルグループの天野キラリと同棲か。」
「は?」
詩子は単純な女であった。しかし、それをまんまと信じてしまうほど情報リテラシー能力が無いわけではなかった。様々な記事と憶測を読んだ。詩子はだんだん不安になった。星川貴志を非難する内容の書き込みが多かったのだ。
「私の星川貴志が、そんなこと、するわけないじゃん」
焦りが積もった。学校は休んだ。ほぼ1日中、ネットを見て過ごした。調べていく中で、ある事実が明らかになる。天野キラリの入っているグループは、恋愛禁止だったのだ。あぁ、こいつが星川貴志をたぶらかしたのだ。あんないい子の星川貴志が、そんな、ダメなものに手を出すわけがない。あの女が、星川を誘ったのだ。詩子は激怒した。
私は、星川貴志を守らなければいけない。
もうその頃には、天野キラリは炎上していた。恋愛禁止のグループで恋愛をしていたのだから当たり前だ。天野キラリのファンも激おこである。
「裏切られた」
「あんなにかわいかったのに、残念」
「え、てか天野キラリって三崎焔とも噂あるらしいよ」
もう、我慢しきれない。そんな奴だったのか、天野キラリは。詩子は書き込んだ。
「ほんとありえない」
「星川貴志かわいそう。絶対騙されたやん」
天野キラリのファンを偽って発言もした。
「もう、ファン辞めるわ」
詩子は書き続けた。書き込めば書き込むほど、天野キラリはどんどん燃えた。星川貴志には同情が集まった。なんだかとても気持ちが良かった。学校へ行き始めた。みんなから心配された。
「何日も学校来てなかったから心配だったよ」
「大丈夫だよ!ありがとう!!」
なんだかとても元気になった。
数日後、天野キラリは死んだ。自殺をしたようだ。そのニュースが流れた途端、天野キラリは擁護された。
「お悔やみ申し上げます」
「言葉は人を殺しちゃうってなんでわからないのかな」
「いつまでたっても誹謗中傷って無くならないよね」
翌日、私のアカウントは消されていた。