表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引き立て花の開花  作者: りんりおた
8/42

ネギ畑





 仕事を終えて一人で住む家から数着の着替えとメイクセットだけをバッグに詰め込み、地下の駐車場に向かい久々に自分で運転し、私は千葉にある実家に向かった。


 実家は都心から車で1時間くらいの所にあり、明け方という事もあって渋滞する事もなくスムーズに到着した。

代々ネギ農家を営んでおり、久々の広大な自然とネギ畑独特の何とも言えない臭いが鼻を擽り帰って来た事を実感した。

 

 家の居間に電気が付いており、きっと父と母と兄はもう起きているのだろう。農家の朝は早く、正月といえども畑の状態を軽く確認しなければならない。

 

 父と母は若くで結婚し、私の他にネギ農家を継ぐ予定の兄、蒼太郎と高校生の妹、朱莉が居る。

 玄関に入ると丁度畑に向かうであろう父と兄が居た。

 

「紫苑今帰って来たか!お疲れやったのぉ。父ちゃん今から畑行ってくっから父ちゃん帰って来るまで寝とけぇ。」

「オカンーーー!紫苑帰って来たぞー!!」

「お兄ちゃん朱里起きちゃうから!」


 大きい声を出す兄に私は静かにするように言うが全く聞き耳を持たない。

 

「大丈夫大丈夫。朱里お前の出てたテレビ観ててさっき寝たからそうそう起きねぇよ」

「ちなみに父ちゃんと兄ちゃんもちゃんと観てたぞ!オールだオール!まだまだ若いぞ!」


 豪快に笑う父に久しぶりに実家に帰って来た事を実感する。

 

「親父早く畑済ませて正月用に置いてた酒飲もうぜ。」

「せやったせやった!紫苑も一緒に飲もうな!ちょっくら行ってくらぁ!」

 

そう言うと父と兄は忙しなく畑に向かい、私は居間に居るであろう母の元へ向かった。

 

「ママただいま。」

「あぁ〜ん、私の可愛い天使。会いたかったわぁ。また一段と可愛くなってぇ。」

 

母は私の髪を撫でながら抱きしめてくれる。

 

「ママありがと。仕事終わってそのままだからシャワー浴びてきてもいい?」

「紫苑ちゃんが帰って来ると思って湯船にとっておきの入浴剤入れておいたわ」

「ありがとママ。行ってくる。」

 

そう言い、リフォームしたての綺麗なお風呂に行く。家は祖父の時代から継いで来たものだからあちらこちらにガタが来ており、纏まったお金を母に渡した所真っ先にお風呂のリフォームをしたのだ。春にはキッチンのリフォームをするらしい。

 

 母は大きい子供が居るとは思えないくらい若々しく、お花畑の妖精みたいな人である。

 それに比べ父はヤのつく職業の人のような風貌で何故母は父を選んだのか未だに謎だ。

 それに永く連れ添ってるのにも関わらず父と母はラブラブで子供達の前でもしょっちゅうチュッチュしてる。そんな父と母に私は少し憧れている。


 お風呂で疲れた体を癒し、居間にあるソファに寝転がる。

 普段なるべく22時に寝ている体は限界を迎えていたようで気付かない内に寝ていた。



 


 ガチャガチャと騒がしい音に気付き、意識が覚醒する。

 

「ママー!!お姉ちゃん起きたよ!!!」

 

目を覚ますと目の前に妹の朱里が居た。

 

「朱莉おはよ。」

「お姉ちゃんおはよう!朱莉もう腹ペコだよ!ママと一緒にお節作ったからお姉ちゃんも一緒に食べよ!!」

 

テーブルに目を向けると豪華なお節料理とお雑煮が用意してあり、父と兄は既にお酒片手に出来上がっていた。

 いつもは1人で摂る食事もこうして大勢で食べると100倍も美味しく感じる。

 仕事の事を忘れて、今は家族との時間を楽しもうと思うのだった。


 その後、昨日のカウントダウン番組を録画していて家族全員で観る。私がこの番組に出るようになってからはお正月の恒例行事になっている。

 

「見て!見て!このお姉ちゃん!!」

「その紫苑ちゃんも良いけど、この後の…そう、このシーン!流石私の可愛い天使だわ。」

「でもこの服は露出が多いな、もうちょっとなんとかならんか?」

「でも親父隣のリカコさん見てみろよ。紫苑はまだマシな方だって」

「…いや…それでもな、父ちゃんとしては………」

 

毎年このやり取りがあり、私は小っ恥ずかしなりながら家族の話を聴く。

 

 改めて自分の映像を見るとなんだかいつものパフォーマンスと違って見えた。

 

何故だろうと思いつつ、Eveの番が終わると朱里が早送りをし始め、丁度MtoMの所で止め再生し始めた。

 

「朱莉、MtoM好きなの?」

 

私がそう聞くと食い気味に朱里が「好き!!!」と叫び、齧り付くように画面に集中し始めた。

 

テレビ越しでもわかる彼等の圧倒的なパフォーマンスに生で見た私でさえもまた釘付けになる。

 

 メインで歌っている1番人気の彼は寄り(アップ)も多いし、昨日見つめられた記憶と重なり彼の寄るたびに一瞬時が止まった。

 でもそれと同時にコージに言われた事が頭をよぎる。『凛とは釣り合わない』そんなの自分が1番わかっている。彼は同じ業界に居ても雲の上の人だ。

でも2人で会った時の彼はただただ私に会えて喜ぶ可愛い人。

 無性にテレビの彼じゃなくて、あの私を真っ直ぐ見て満面の笑みを浮かべる彼の顔が見たいと思った。


 そういえば連絡返したっけ?と思い、スマホを見てみると案の定彼からメッセージが来ていて、彼らしい可愛いキャラクターであけましておめでとうのスタンプが押されていて、

 

<明日、何も予定が無ければドライブに行きませんか?>

 

と書いてあり、懇願するようなキャラクターのスタンプも押してあって、彼が懇願している姿が思い浮かび思わず笑みが溢れた。


 私も無性に彼の笑顔が恋しくてコージに言われた言葉に蓋をし、了承の返事をした。




 父と兄は酔い潰れて気持ち良さそうにコタツでイビキをかいて眠っていた。

MtoMの映像を見終わった朱里はいつもおねだりする時に使う上目遣いを私にしてきて申し訳なさそうにおねだりしてきた。

 

「あのね、お姉ちゃんさっきの番組だったり他のイベントでMtoMと共演する事あるじゃん?」

「うん。まぁあるね。」

「……あの…可能であればMtoMのサインを頂けないかと……ぃや!無理なら全然……いいんだけど……」

「……ちなみに誰のサインが欲しいの?」

「凛!!!凛のが欲しいです!!!」

 

 今まで姉が芸能人だというのに妹がこんな頼みをした事がなかった。きっと気を使っていたのだろう。

 相手が凛となるとサインなんてなかなか手に入らないだろうし、明日会う予定でもいるしダメ元で聞いてみよう。

 

「いいよ。ただ本当に貰えるかはわからないからね。あまり期待せずに待ってて。」

「おねぇさまぁぁぁぁ神様女神様〜〜〜」

「あら、よかったわね朱莉ちゃん。この子最近ずっとりんりん、りんりんって煩かったのよ。」

「……りんりん?」

「ファンの中ではりんりんって呼ばれてるんだよ!この可愛い笑顔みて?ご飯3杯は余裕で食べれるよ!」

 

 朱里がスマホのロック画面を私に見せてきて、そこには彼の笑顔があった。



 私に見せてくれる笑顔の方が断然可愛かった。






 元日は父と兄が酔い潰れていた事もあり、次の日の午前中に家族で近くの神社に初詣に行った。

 私がデビューするまでは東京の大きい神社に行っていたのだが、私も一応芸能人の端くれなので迷惑がかからないように近所の小さな神社に行くが、それでも初詣に人が集まっているので時々ファンの子に遭遇する。ただ私のファンは家族と居るのを認識すると遠慮して声をかけて来ない子ばかりなので凄くファンに恵まれている。メンバーの中でも普通に初詣に行けるのは私くらいだろう。




 初詣から帰宅して少しコタツでうたた寝する。何も考えずテレビを眺めながら眠気と闘うこの時間が好きだ。


 夕方には彼との約束がある。実家に来てもらうのは気が引けるので実家近くの有名な公園で待ち合わせをしている。それまではこのコタツで思う存分微睡む予定だ。


 


 ふとテレビを見てるとMtoMが出てきた。なんだろう?とフワフワした意識を覚醒させる。



《MtoM!!海外ツアー決定!》



 甲高い声の芸能リポーターが詳細について説明している。今年の5月には海外の公演が始まるそうだ。

 芸能リポーターいわく、そのまま活動拠点を海外に移すのではないかとの見解だった。


 


 彼等の実力なら海外でも通用するだろう。それに以前からアジアツアーも回っているし、アメリカのイベントなどに呼ばれ、全世界で知名度もかなり上がっているのだろう。

 MtoMが見据えているのは世界で、この小さな国でトップを維持し続けるよりも更なる高みを目指しているんだろう。


 本当にすごいな…私達…というよりも私とは本当に次元が違う。

 

彼の事が好きかは私自身まだはっきりわからないが、彼のから向けられる真っ直ぐな好意はすごく嬉しいし、私も彼の笑顔が見たい。


でもコージに言われた言葉が頭をよぎる。


 私とじゃ釣り合わない、



彼を好きになって遠すぎる存在に恋焦がれ、疲弊してしまう前に…自分が傷付く前に……彼に対する気持ちを抑え込まなければ…


 夕方の約束を断ろうとスマホを手に取り彼に連絡しようとすると彼からメッセージがきた。




<楽しみにしすぎてもう公園着いちゃった>


 可愛いキャラクターが舌を出してはにかんでるスタンプが押されてた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ