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引き立て花の開花  作者: りんりおた
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週刊誌





 あれから私のギブスは無事取れた。記念に取っておこうと思ったギブスは流石に臭いがするので渋々病院で捨ててもらった。

今はサポーターを付けてなら激しいダンスじゃなければ踊れるまで回復した。

有難い事に今年も年末恒例音楽番組に出演が決定した。それに加え、同じ日にあるカウントダウン音楽番組からもオファーがあり、打ち合わせや新曲のレコーディング、振付、衣装合わせなど忙しくなって来た。

 


 あれから彼とは毎日連絡を取りあっていて、朝の挨拶とおやすみの挨拶は欠かさず来る。

最近はそれが日常で連絡が来なかったら何かあったのか少し心配してしまうだろう。

 

 彼は本当に可愛い人で、彼のメッセージは楽屋のお弁当だったり、某大御所演歌歌手はカツラでその証拠を掴んだとか少年みたいな事言ってくるし、私に気がある様な匂わせメッセージもたまに来る。

 

 ただ、テレビに映る彼は本当に圧倒的存在感があって、自分が連絡し合ってる人は本当にこの人と同一人物なのか疑わしく思う。

 

 次彼に会える時は多分年末の音楽番組でだろう。どんな顔して挨拶すればいいのかちょっと照れくさいが彼の笑った時に見える八重歯が見れたらいいなと思う。




――――――――――



 それから今年も残す所3日となった時に緊急のミーティングが入った。

急いで会議室に入るとマリカ以外全員揃っていた。私はいつもの席に座ると相田マネージャーが話し始めた。


「実は、明日の週刊誌にマリカの事が載るんだけど、その事で皆に集まってもらいました。」


 メンバー全員に衝撃が走る。


「本人は否定してるんだけどね?コレが例の記事。」


 配られる記事に目を通すと


 《MtoM凛・Eveマリカ熱愛か!?!?!》


 私は鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を受けた。

 

 読み進めていくと2人がプライベートで愛用している指輪が全く同じもので、ペアリングではないかと。

 さらに、そこのブランド店から2人が時間差で出てきたというものだった。

 マリカはデビューして初給料で買ったちょっと高めの指輪をずっと大事に使っていた。それこそ新しいのを買っても必ずその指輪だけは外さなかった。


「マリカ曰く、確かにその日そのお店に行ったらしいの。でも1人で行ってMtoMの凛には会ってもないし見てもないって言っててね、向こうとこっちの上層部も全否定するよりか何か話題性として利用出来ないかと考えてる人が居て、正直こっちとしてはマイナスイメージになってしまいそうな予感しかしなくて……………」


 相田マネージャーはそう話ながらさっきから鳴り続けてるスマホ見た。


「ごめん。ちょっと電話出てくる。」


 そう言うと足早に廊下へと行った。

私のスマホもさっきから何通もメッセージの通知振動がしてる。

気になって見たら全て凛からで、内容を見るとなんだか彼の必死さが伝わり、可笑しくて笑いを堪えるので必死だった。


 しばらくすると相田マネージャーが帰って来た


「向こうの事務所が出版社に抗議入れたみたいだから、あなた達も記者に聞かれたら指輪の件からお店の件まで包み隠さず事実を言っていいから。」


 そうだよね。と思いながら、折角集まったし明後日のダンスをマリカが居ないけど練習することになった。




 

 彼からのメッセージは

<週刊誌に出る内容は事実無根だよ>

<本当に何気なく付けてた指輪だから信じて>

<いや…こんな指輪捨てるから>

<シオンちゃーーん>

<本当に彼女とはお店でも会った事ないから>

<なんならお店の防犯カメラ見に行って>

<シオンちゃーーーん>

と週刊誌を全否定し、最後には

 

<シオンちゃんに早く会いたい>




 

 

――――――――――――





「………………………………。どこの週刊誌だよ!!!ガセもいい加減にしろよ!!!!………………………………。シオンちゃんが誤解して、もう俺に連絡してくれなくなったらどうしてくれんだよ!!!!…………………………。もうこの出版社の雑誌には絶対出ない!!!!!………………………………。」



MtoMの事務所の会議室でメンバーとマネージャーが居る中、凛は荒れに荒れていた。

 

 黙ったかと思えば一心不乱にスマホに何か打ち、また嘆き、またスマホに…と奇行を繰り返していた。

 それを唖然と見ていた吉田マネージャーが


「靖……どういう事かお前知ってるか?」

「……はい。ある程度は……」

「ほう。詳しく聞かせろ。」


 


 そんな訳で吉田マネージャーがEve側の相田マネージャーに連絡を取り、上層部でこのネタを利用出来ないかと考えてる奴をすっ飛ばして週刊誌に抗議の連絡をした。


 そんな中、奇行を繰り返す凛はスマホに1通のメッセージが来たかと思えば顔を真っ赤にして項垂れてた。



<不純かもしれませんが、明後日会場で凛さんに会える事を楽しみにしてます>



――――――――――――


 




週刊誌報道は双方の事務所が早々にコメントを各テレビに出し、事実無根であると報道され無事鎮火した。

 ただ両グループにはプライベートでの行動には十分注意するよう通達された。


 


 とうとう大晦日になり、今日は年末恒例音楽番組の会場に入り、出番が終わり次第次のカウントダウン音楽番組のテレビ局に向かう。


 どちらも沢山のアーティストが出演するので、裏側は地獄絵図状態だ。


 年末恒例音楽番組では以前フェスでも披露したバラードを披露する。

私は足が治って、メンバーはそれぞれ別の仕事に行ってる間に事務所のレッスン場とトレーニングルームに入り浸り、怪我する前の感覚を取り戻した。


「Eveさんスタンバイお願いしまーーす」


 スタッフが慌ただしく呼びに来た。ステージ裏にスタンバイし、集中力を高める。

『努力は裏切らない』

 何回も心の中で唱える。


「皆円陣!」

 

 ケイの一言で円陣を組む。

 

「……最高のパフォーマンスをしよう!行くよ!」

 

『イー、ブイ、イー、Eveっ!!』



 ーーーーーー



「シオねぇ!なんかめっちゃ冴えてない?」

「思った思った!なんかパフォーマンスに艶が出たというか。」

「ホンマホンマ!!ウチ歌詞飛びそうになったわ。」

「なんか一皮剥けたというより、羽化?ですね!」

「羽化ね。マリカいい事言うわね。」


 出番が終わり、控え室に向かう最中皆が私をもてはやす。

 

「怪我して悟りが開いたのかも。皆ご心配おかけしました。」

 

 急いで次のカウントダウン番組のテレビ局に向かう。その道中のハイヤーの中でもメンバーから褒めちぎられた。



 

 テレビ局に着いて楽屋に入ると、モニターに年末恒例音楽番組が流れていて後半に差し掛かり、丁度MtoMの出番だった。

 ヒップホップナンバーで、MtoMを代表する曲だ。冒頭に靖のラップから始まり、激しく一糸乱れぬ難易度の高いダンスに、思わずメンバー全員で見入ってしまった。


「なんかダンス凄すぎじゃない?」

「リカねぇから見てもやっぱそう思うんだね。すごいね」


 リカコとユキネが目を見開き、画面に齧り付く。

 

「この前打倒MtoMとか言うたけど、これもう次元ちゃうやん!!」

「だからこの前アイねぇが言った時無謀だって言ったじゃん。」

「なんやとぉ!?無謀やとしても目標は高く持ってた方がええねん!!」

「まぁまぁ2人とも落ち着きましょ。それにしてもこの完成度すごいですね。生で見たかったです。」


 マリカがアイリスとユキネを宥めながらも、メンバー4人が画面の前に齧り付いて、私とケイだけは少し離れてMtoMのパフォーマンスを見ていた。


「ケイ姐……本当すごいね。」

「そうね…いつも思うわ。実力の差がちょっと近づいたと思ってもまたすぐ引き離される。私の何歩先を歩いてるんだろうって…」

「………ケイ姐…」

「……凄く悔しいわ」

 

そう言うとケイは画面を見つつ切なげに微笑み、視線を画面から離さず私に言った。

 

「…でもね?いつまで経っても追いつかないから、だいぶ前にアンタの原動力はなんだって聞いたのよ。そしたらアイツなんて言ったと思う?……『ケイが原動力』って言ったのよ。」

「…惚気?」

「違うわよ。言葉は足りないけど、私に追い抜かされないように頑張ってるって事。」


 ケイはEve結成前にラップバトルに出てる靖にライバル視していたらしく、靖を追い越す事を目標に頑張って来たが、靖がグループを結成するとじゃあ自分もとグループを結成させたと小耳に挟んだ事がある。

 

「…なるほど。」

「だからね、アイツが成長してるって事は私も成長してるのよ。」

「切磋琢磨って事?」

「そう。この仕事してるとね、やっぱりそういう存在は必要よ。」

「……アイリスが言ってる事ってあながち無謀でもなんでもないんだね。」

「そうよ。でもライバル視してるだけじゃ駄目。ちゃんとリスペクトもしなきゃね。」


 ケイが言ってる事は理解が出来た。でも私は誰かと切磋琢磨出来るレベルではない気がする。

それよりも皆の足を引っ張らないように付いていくのでいっぱいだ。


「でも、そういう切磋琢磨が出来る相手を見つけるには、まず自己分析出来てなきゃ意味ないわ。」

「……自己分析?」

「そうよ?自分自身を過小評価し過ぎて実際より下の力を持った奴と切磋琢磨したって成長度合いなんて微々たるもんでしかないわ。そんなの時間が勿体無いわよ。」

「…………」

「時間は有限よ。」


 

 ケイはそう言うとメイクさんを捕まえて引き摺りながらメイク室へ消えていった。


 私はケイが言った言葉がなんだか凄く重く感じ、宿題を出された気分だった。同時に何か私に気付かせたい事があるように思えた。



 




 


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