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引き立て花の開花  作者: りんりおた
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汗だくの食事会





 結果的に足首の骨にはヒビが入ってた。きっとステージ上でアドレナリンが出て何も気にせず踊り続けたのがいけなかったのだろう。

 ただ、完全に折れてたらボルトを入れてリハビリもして、長い期間、1人活動休止せざる得なかっただろう。

 それにスケジュール的に年末の音楽番組まではグループの活動は無く、私以外皆個々の仕事がみっちり入ってるので皆の足を引っ張らずに済んでホッとした。


 MtoMのファンの行動がキッカケで怪我したとの事で、MtoMの事務所から謝罪があり、ファンへの注意喚起を強化するとの事だった。

 ただ、大事にしたくない私と事務所の意向で軽い箝口令が敷かれた。

今回そこまで大事には至らなかったが、ぶつかってたのがユキネだったとしたら無事では済まなかっただろう。


 それからケイ経由で凛本人が謝りたいから連絡先を教えて欲しいと言われたが、凛が悪い訳ではないし、悪化させてしまったのは私自身の責任なので丁重にお断りしたのだが、再度直接謝りたいとケイ経由で言われ、ケイに『このままじゃ向こうも納得出来なさそうだから一度会って気が済むまで謝らせてやればいいのよ』と言われ、ケイと靖が会う時に一緒に食事に行く事になった。

 

 ただケイのと靖のスケジュールがなかなか合わず、食事に行くのは随分経ってからだった。



 


 ――――――――――――



 ケイに連れられ向かった先は、何処から入っていいかわからない隠れ家的なお店で、中は完全に個室でテーブルを挟んで2人掛けソファが向かい合わせに対面していて、靖だけが居た。

 ケイは自然と靖の隣に座り、私は2人の向かいに座る。


「お待たせ〜」

「すみません。お待たせしました。」

「そんな待ってないよ。シオンちゃんウチの凛が無理言ってごめんね?」


 少し強面な靖が笑みを浮かべながら申し訳なさそうに謝ってくれたが、そこまで謝る事じゃないので逆に申し訳なかった。

 

「いえ…逆に気を遣わせてしまってすみません。」

「それで?凛本人は?」


 謝罪したいと言っていた本人が居ない事にケイは少しご立腹の様子だった。

 

「ごめん、ごめん、凛は撮影長引いたみたいで今向かってるからあと5分くらいしたら来るよ。」

「じゃぁもうちょっとゆっくり出てきたら良かったわ。」


 ケイは長い足を組み、髪を弄りながら小言を言う。そんなケイに少し苦笑いしながら靖は私の足を見た。

 

「シオンちゃん足の具合はどう?」

「ギブスは来週の経過を見て外せたら外すみたいで、このギブスともおさらばです。」


 私のギブスにはメンバーからのメッセージとケイが描いた絵がみっちりと描かれている。メンバーの私への愛が篭っているこのギブスは取れたら記念に置いておこうと思っている。


 


 それから3人で飲み物を頼み、暫く談笑しているとドアが開き、凛が息を切らして汗だくで個室に入って来た。


「ハァハァ…遅れ…て…っすいませんっ!!!!」


 

 凛のいきなりの登場に驚いたが息切れと汗の量が尋常じゃなかった。

 彼は自然と空いてる私の隣に座り、息を整え、私の方に体を向けると勢い良く頭を下げた。


「本当に今回は俺のファンのせいで怪我をさせてしまい申し訳ありませんでした!!」


 あまりの勢いと声量に、向かいに座るケイと靖も笑いを堪えており、頭を下げたまま微動だにしない彼の旋毛をポカンと眺める事しか出来なかった。


「……っぷ……凛。シオンちゃん困ってるぞ?」

「私の可愛いシオンにいつまでむさ苦しい男の頭のテッペン見せてんのよ。」


 靖とケイは笑いを耐えているようで耐えきれて無かったが、真剣な彼の様子に本当に私の方が申し訳なくなってしまった。

 

「…あの……凛さん?私はもう大丈夫ですから、頭上げてください……とりあえずお水飲みますか?」


 あまりにも予想外な行動と思ってた人と違い過ぎて笑みが溢れ、とにかく息切れと汗が凄いのでおしぼりとお冷やを薦める。

 

「………本物……」

「…えっ?」

「………ぃぇ…頂きます。」


 暫く凛は汗を止めるのにずっと服を仰いでいたが、隣に座っていると彼の使っている香水の匂いなのか体臭なのかすごく良い匂いが私の鼻を擽ぐる。

 

 そんな様子の私達を見てニヤニヤながらケイが爆弾を投下する。

 


「じゃぁ、本来の目的は達成したから私と靖雄はデートしてくるわ!後はお二人さんでごゆっくりどうぞ。」

「えっ!?ケイ姐!?!?」

「靖雄と2人で会える日なんて限られてるんだから気ぃ使いなさいよ。」

「じゃっ、そういう事で俺たち行くわ。会計は凛が全部してくれるからシオンちゃんは遠慮なく好きなもの頼みな。」

「…いや…でも…」

「「っじゃ!!」」


 2人は反論する間も無く帰って行き、隣の凛はポカンとしたまま微動だにしなかった。



――――――――――――



 

「なぁケイ……」

「なにかしら?」

「なんで2人っきりにしてあげたんだ?」

「あら…野暮な事聞かないで頂戴。」

「………。」

「さっ!行くわよ!今日はとことん飲むんだから!面倒見なさい!」

「……わかったよ。」


 店から出た2人は夜の街へ繰り出した。



――――――――――――



 

 汗が引かないのか隣の凛は未だに顔をしきりに拭きながら仰いでいた。

 少し気まずい空気になりながらも、靖が好きなもの頼めと言っていたし、注文用のタブレットに目を通す。


「凛さん、お腹すいてますか?嫌いな物ありますか?適当に頼んじゃっていいですか?」

「…あっ。ぅん。お腹は…空いて…ます。適当に頼んで貰えたら……」


 何故か緊張した面持ちの彼は全然コッチを見てくれなかったし、口調も敬語で歳も芸歴も彼の方が上なのになんだか可笑しかった。

 

「ふふふ。凛さん年上なんですから敬語じゃなくていいですよ。じゃあ適当に頼みますね。」

「……ぅん…」


 凛がどれくらい食べるのか分からないが今自分が食べたい物と男の人が好きそうな物を適当に頼み、前の席は空いているのに、未だに隣に座って仰いでる彼を観察する。


 音楽番組やイベントでたまに会う事はあるが普段は軽く挨拶する程度でこんなに近くで話す事無かった。

やっぱり日本でトップを走るグループの1番人気の彼は私と同じ芸能人でも纏ってる隠しきれないオーラが凄い。

 それに今までマジマジと見たことは無かったが、少しクリッとした目、綺麗な鼻筋、形の良い口、少しあどけないベビーフェイスで…でも男らしさも垣間見え、座っていても分かる高い身長とダンスで鍛え上げられた肉体に思わず見惚れてしまい、そりゃあの空港のキャリーバッグ突進ファンも走って見に行きたくなるわ。と思った。


「シオンちゃん…足の具合はどう?」


 彼が俯き手をモジモジさせながら聞いてきた。身長180センチは超えてるであろう大きな彼が体を小さくしてモジモジしてる姿に少し面白く思いながら足の経過を説明する。


「……本当にごめん……」

「本当に大丈夫なんで気にしないで下さい。それにグループ的には年末の特番までスケジュール入ってなかったし、凛さんが悪い訳でもファンの子が悪い訳でもない、ただ偶然か重なって私の運が悪かったんです。本当に。さっ!この話はもうおしまい!注文したの来はじめましたし一緒に食べましょ!」

「…うん………ありがとう。」


 彼少し申し訳なさそうにしていたが、未だに私の顔を見ずに上気した顔を仰いでいた。

 

「本当適当に頼んだので、嫌いなものがあれば私食べますんで!」

「大丈夫。嫌いなものないよ。」


 少し上目遣いで彼が言うものだから、なんだか凄く可愛く思えて、自然と笑みが溢れた。

 

「ふふふ。よかった。はいっ、これも食べて下さい。男の人は卵料理好きですよね?」

「………うん……好き。」


 上気した頬と上目遣いのせいで年上の男の人だという事を忘れて子供みたいで私の母性本能をくすぐってくる。

 

「よかったです!」

「この店よくMtoMで来る店なんだ。オーナーが元ウチの事務所の人で…」

「そうなんですね、まさかケイ姐が行っちゃうとは思わなかったです。このまま週刊誌とかにリークされたらどうしようかと思ってました。」

「…………。」


 靖とケイが行ってしまい、私は本当に週刊誌などに写真を撮られてしまわないか少しハラハラしていたが、そんな心配はいらなかったようだ。


「でもなんか変な感じですね、今までは共演しても軽く挨拶する程度だったのに急にトップスターと2人で食事だなんて。なんか役得です。いい思い出になります。ありがとうございます。」

「…………俺……いや……」

「どうしました?………凛さん??」


 小さな声で何かを言う彼に私は聞き返した。

 

「……俺はっ……」

 

 少し赤みがかった顔色で少し潤んだキラキラした瞳で真っ直ぐ私を見つめ、おもむろに私の手を大きな両手で上から握って、絞り出すように彼は言った。


「…俺……今回の事でどうしてもシオンちゃんに直接会って謝りたかった……」

「……あっ…はぃ。」

「でも……キッカケはどうであれ俺は…シオンちゃんと2人で話してみたかったんだ……」

「……えっ?…」


 何故私と2人で話してみたかったんだろう。

 

「…Eveがデビューしてからずっと見てきて……」

「…ありがとうございます?」


 彼はEveのファンなのかなと思いながらそんな話は聞いた事が無かった。

 

「…俺が…変われたのはシオンちゃんのお陰なんだ。」

「……は…ぃ?」


 彼が変われたと、それも私のお陰だなんで…ちょっと意味がわからない。

 

「だ…だから…今回だけじゃなくて……またこうやって食事したい!!」

「……え?あ…はい。いいですよ?」


 本当に彼が言いたいことがわからなかったが、今の彼の真っ赤な顔は今までテレビでも見た事ないんじゃないかという程の赤さで、満面の笑みを浮かべ、握っていた私の手をブンブンと縦に振り、喜んでいた。私には握手会で私に会ったファンと同じ反応だなと思い、年上だけどなんだか可愛い人だなと思った。

 そこから彼と私は互いに連絡先を交換し、本当に他愛ない話をし帰路についた。


 


 ただ、私が彼の何を変えたのか、何故そこで私と食事したい理由になるのか、雰囲気的に聞き返す事が出来ず、深く疑問を残した。


 唯一分かった事は、彼の笑った時に見える尖った八重歯が私の母性本能を擽り、また会えた時に彼の八重歯を見てみたいとおもった。

 

 






 

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