キャリーバッグ猛ダッシュ女子
2話目読んで頂きありがとうございます!!
季節は夏になり、とうとう夏フェスの前日になった。
会場は沖縄で飛行機を降りると到着口は簡易な柵で仕切られ、沢山の人溢れてかえっていた。
「ケイ姐、凄く人多いね」
「多分次の便にMtoMが乗ってるはずだからその出待ちでしょ」
MtoMの出待ちは殆どが女の子で到着口から私達が出るとMtoMじゃなかった事に凄く残念がってた。
「やっぱり天下のMtoMは規模がちゃうなぁ!ウチらもいつかこれくらい待ってて貰えるように頑張らな!打倒MtoMや!」
「アイねぇ……それ無謀だよ。」
「そんな事言うなって!目標は高い方がええやん?」
ガハガハ笑うアイリスをユキネがジト目で見ていた。
私はMtoMのファンの隙間にマリカのファンを見つけた。
「あっ!でも見て見て!マリカのファンの人居るよ?」
「げっ!!あのハゲ!!」
「ほら。沖縄まで来てくれてるんだからファンサしてきな。」
そうケイに促されたマリカは渋々ながらファンサービスしに行った。
ハイヤーが止めてあるタクシー乗り場まで歩いていると後ろの方が騒がしくなって来たのでMtoMの飛行機が来たのだろう。
するとタクシー乗り場の手前にあるバス停からMtoMのファンの子がバスからゾロゾロと降りて来て猛ダッシュで到着口の方まで走ってやってきた。
その時、1人のぽっちゃりした女の子が大きいキャリーバッグを引き摺りながら猛ダッシュしていた。
何故か私はその子から目が離せなくなり、前から走って来る姿を見ていると大きいキャリーバッグに手を取られ、バランスを崩し、猛ダッシュの速度のままぼーっと歩いてるユキネに正面衝突しそうになった。
咄嗟に私は後ろに居たリカコの方にユキネを引っ張ったが、そのままキャリーバッグと猛ダッシュ女子が私の方に正面衝突し、2人して倒れ込んだ。
「きゃーーーー!!!」
「「「シオン!!!」」」
かなりの衝撃ではあったがなんとか他のメンバーにはぶつからなかったみたいでよかった。
「……いてて……あなた大丈夫?怪我はない?」
「あっ…………えっ…………あっ……はい。」
「よかった。気をつけてね。ほらMtoM来ちゃうから急がなきゃ。ね?」
「……はい。あのすみませんでした!」
と言うと猛ダッシュ女子は到着口に消えて行った。
「………シオねぇありがとう。引っ張ってくれなかったら私がぶつかってた……」
「ナイス判断だよシオン!ユキネだったらありゃ死んでたよ。」
ユキネを受け止めてくれたリカコが私に手を差し出して立たせようとしてくれた。
「なんか体が勝手に動いちゃって。皆に怪我がなくてよかったよ。」
そう言いながら立ち上がるとピキっと右足首に違和感があった。
嫌な予感がしつつもタクシー乗り場に着き、ハイヤーに乗り込みそのままリハーサルの為に会場へ向かった。
会場に着くとそのままリハーサルは始まり、配置など大まかな流れを確認し、リハーサルは無事終わった。
ただ空港で感じた足首の違和感がリハーサル中にズキズキとした痛みに変わり始めていた。
「シオン。ちょっとコッチおいで」
ステージを降りるとリハーサルをチェックしていた相田マネージャーに呼ばれた。
「シオン。さっき空港でぶつかった時に足首ヤった?」
「…………はい。初めは大丈夫と思ったんですけど……」
「とりあえず骨に異常が無いか病院行こうか。サブマネージャー付けるから。」
「……はい。」
私はそのまま心配そうな顔をする皆と別れ、サブマネージャーと共に病院へ行った。
レントゲンを撮った所、骨に異常はなく捻挫で済んだ。ただフェスの本番は明日だ。明日はテーピングをガチガチに固めて出演するしかないだろう。
ホテルに帰ると相田マネージャーとケイが部屋へやって来た。
「捻挫って聞いたけど明日大丈夫?」
「大丈夫です!私の衣装ヒール無しのブーツだからテーピングで固めても見えないし痛み止めも貰って来ましたから!」
相田は少し考える素振りをしながら納得したようだった。
「わかった。じゃあ今日は安静にしときなさい。晩御飯運ばせるから。」
「はい。すみません。」
そう言うと相田マネージャーは会場での挨拶回りがあるらしく会場に戻って行った。
私と相田マネージャーのやり取りと黙って聞いていたケイが相田マネージャーが部屋から出た瞬間口を開いた。
「あのぶつかったMtoMのファンの子、凛の追っかけよ。結構昔からあの子有名なのよ。少しマナーが悪いって。」
凛とはMtoMの背が高くてクリッとした目で可愛い顔立ちだけど男らしさも兼ね備えている1番人気のメインボーカルだ。
「そうなんだ。でもあの子に怪我無くてよかったよ。旅費だって安いもんじゃないのに沖縄まで来てるんだよ?」
「そりゃそうだけど、マナーがなってなさすぎよ。」
「まぁまぁ。ケイ姐ありがと。私は大丈夫だから。」
「相田マネージャー、ありゃ結構キレてるわね。MtoMのマネージャー捕まえて文句言ってるんじゃないかしら。」
「相田マネージャーはMtoMのマネージャーと犬猿の中だもんね。」
「そうね。氷持ってくるから安静にしときなさい。」
「はーい!心配かけてごめんね?ありがとう。」
それからなるべく明日に響かないようにホテルの客室で安静にしていた。相部屋のユキネが目をウルウルさせながら私を見ていて、他のメンバーが氷を持って来てくれたりと心配をかけてしまった。
明日はEveのファンだけでは無く、色々なアーティストのファンが来ているのでEveを知ってもらういい機会にもなる。注目を浴びるのはメインの3人だが私もメンバーの1人だ。無様な姿は見せられない。何よりも皆の足を引っ張りたく無い。マイナス思考なりそうな自分に自重し、眠りについた。
10組のアーティストが今日出番を回す。Eveの出番は7組目。最後から3番目だ。
朝起きてから足の状態はハッキリ言ってあまり良くない。
ズキズキして地面に足が着くだけで声が出そうなくらい痛かった。
お昼過ぎには会場入りし控え室でメイクや衣装に着替え、痛み止めとテーピングで固める。その姿をメンバーが痛々しい眼差しで見守っていた。
6組目の出番は兄妹グループでもあるAdamだ。彼らのパフォーマンスが中盤に差し掛かりステージ裏にスタンバイする。
私は目を閉じ、集中力を高める。ステージに立つ時は出来るだけ雑念を取り払う。今まで自分が練習した事を反復するだけだ。どこかの誰かさんが言った『努力は裏切らない』の言葉を心の中で唱える。
「皆円陣。」
ケイの一言で円陣を組む。
「……最高のパフォーマンスをしよう!行くよ!」
『イー、ブイ、イー、Eveっ!!』
入れ替わりになるAdamのメンバーとハイタッチしながらステージ上に上がる。
それからステージに立つと、足の痛みは不思議なくらい感じなかった。
今回披露するのは5曲のみ。4曲目に入りしっとりしたバラードでダンスも控えめでメインボーカルの3人が艶やかな歌声が会場に響く。それに合わせて私とリカコでしっとり踊り上げる。心配していたターンも足の痛みは感じなかった。
変化が起きたのはラストの5曲目で、強い女性をコンセプトにしたこの曲はかなりダンスが激しく、曲の中盤で右足がいう事聞かなくなってきた。
終盤には私のソロダンスパートがあるのに……もう少し……もう少しと思っていたその時、リカコがアイコンタクトをして来た
《私が行く》
私は迷ったが『最高のパフォーマンス』をする為にリカコに任せる他ないだろう。
目で合図しリカコに託す。
なんとか出番を終える事が出来、ステージ裏に捌けると、アイリスが支えてくれた。
「もーシオン無理し過ぎやわ。大丈夫かいな?」
「ごめんね。途中まではなんとか……いけた……
んだ……けど……みんな……ごめん……」
涙が出そうになりなんとか堪えるが視界が涙でボヤける。
「何言ってるのよ。完璧過ぎて怪我してるの忘れてたくらよ!」
「シオねぇいつもみたいに完璧だったよ?」
ケイとユキネが少し困った顔で私に言った。
「……でも…………」
「そうそう。これ以上無理させたら後に響いてもアレだし最後のシオンのソロパートなら私踊れるからさ!」
「そうですよ!シオンさんが怪我してるなんてお客さん全く気付いてないですよ!」
「………みんな…………」
皆の言葉に張り詰めていたモノが弾けたように涙が出てきた。止めようと思っても勝手に出てくる。
すると相田マネージャーがやって来て
「シオンよく頑張ったよ。完璧なパフォーマンスだった。何も泣く事ないよ。」
「……ずみ……まぜん……」
「とりあえず救護室行こうか。皆は控え室戻って打ち上げ出る子はそのまま打ち上げ出ていいから。」
そのまま涙が止まらず、そのまま男性サブマネージャーに救護室までおぶってもらい、救護室に着くとブーツをなんとか脱いで医師にテーピングを外してもらい、パンパンに腫れ上がった足首を見て、私も相田マネージャーも男性マネージャーも常駐してる医師もドン引きでそのまま病院直行した。