EveとAdam
拙い文章ですが、最後まで読んで頂けると幸いです。
「シオンちゃん!本当にいつも応援してます!」
「ありがとう!以前の握手会も来てくれてたよね?」
「えっ!?覚えてくれてたんですか?嬉しい」
「もちろん覚えてるよ!前は髪長かったけどバッサリ切っちゃったの?前はエクステだった?」
「そんな事まで……シオンちゃん推しでよかったぁ」
「この前の大阪でのライブも来てくれてたでしょ?ちゃんとステージから見えたよ」
「シオンちゃん……一生応援しま「はい。時間です。次の方。」
「あぁもう時間だね。ごめんね。また会えるの楽しみにしてるね!いつも応援ありがと。」
「シオンちゃん大好きですーーーー」
「こんにちは。」
「シオンちゃん____」
デビューから注目株で人気急上昇中女性ガールズグループ<Eve>の握手会真っ最中である。
結成3年目でメインボーカルにマリカ、アイリス、ユキネ。ラップはケイ。時々歌うがダンスがメインのリエコ、シオンの6名で構成されている。
その中でもやはりメインボーカル3人の列は途切れる事なく続いてる。それに比べ私のファンの列はもうすぐ途絶えそうだ。メンバーより少なくても私を応援してくれ、足を運んでくれてる事がなによりも嬉しい。
私のブースにファンが途絶えた事で一足先に楽屋へ帰ってくつろいで居るとリエコが帰って来た。
リエコは私と同い年の22才でキッズダンサー出身。当時キッズダンス界で有名だった彼女は今の事務所に引き抜かれた。
大きな目と色っぽい唇、成長と共にプロポーションに磨きが懸かり、今では某男性雑誌にクラビアを飾るほどだ。
「リエコお疲れ様」
「おぉーシオンももう終わった?お疲れー。相変わらず私のファンは男が多いのなんのって。」
Eveのファンは男女比率が半々で女性にも男性にも支持されている。
その中でも私は圧倒的に女性ファンが多く、リカコに至っては男性ファンが多い。
「確かにチラッと見たけど、多かったね。前回より年齢層上がった?」
「めちゃめちゃ上がってたよ。やっぱこの前のグラビアの影響だね。皆おっぱいしか見てないもん。」
そう言ったリカコの胸を見ると豊満な胸を強調するザックリ胸が開いたピチピチのTシャツを着ていた。
「同性の私でもその胸は見ちゃうな。」
「ならシオンはこの胸で挟んでやるっ!おりゃっ!!」
「っっっっっわっふ、、、」
リエコが私の顔に爆乳を押し付けていると楽屋に誰かが入って来た。
「あんた達何やってんのよ。」
「ケイ姐!お疲れ!何ってシオンにおっぱい攻撃。」
「っっふぉふふぁふぇふぇいふぇえ」
「シオンが苦しそうだから離してやんなさい。」
ケイがそう言うとやっと私はリエコのおっぱい攻撃から逃れれた。
「ケイ姐、お疲れ様。今回ケイ姐がプロデュースした服着てる人多かったね!」
「本当、本当!ケイ姐がデザイン案練ってる時攻めてんなぁと思ったけどファンの子が着てるとやっぱ可愛いわ!」
「自分が着たいのもそうだし、何より私の可愛い子猫ちゃんたち(ファン)が着る前提で作ってるからね!あんた達も宣伝よろしく。」
「「はぁーい」」
ケイはEveのリーダー最年長25才。メンバーとファンからは姐さん的存在で、少しキツめの美人顔で独特なセンスを持ちEveのオシャレ番長で情に熱く、厳しくも優しい人だ。
元々Eveのメンバーを外れかけた私を必要だと事務所に直談判してくれた恩人でもある。
さらに独特のセンスの良さから某ブランドから服のプロデュースを依頼され、あまりの人気に抽選で当たらなければ購入出来ないほどだった。
「やっと終わったよぉ〜〜」
メインボーカルでハイトーンボイスが売りのユキネが疲れた様子で楽屋に入ってきた。
ユキネは私の一つ年下の21才で、小さな顔に大きな瞳、色白でお人形みたいな出立。ふわふわした雰囲気のどこか浮世離れした子だ。
「「「ユキネお疲れ」」」
「やっと自分の意志で話せるよぉ〜」
ユキネはそう言うと机に突っ伏し、本当疲れた様子だった。
「あんた自由に話したら的外れな事ばっか言うからじゃん」
「ユキネはどこか違う次元を生きてるからね。」
ユキネは以前ファンイベントでファンと話が噛み合わず少しトラブルになった事があり、事務所から自由に発言を許されていない。
「ケイねぇもリカねぇも酷ぉぃ…シオねぇ2人が酷いよぉ〜」
「よしよし。今日も『また来てね』だけ?」
「そうだよ〜横で相田マネージャーが目光らせてるから微笑んで『また来てね』の連続。もう微笑み過ぎて顔痛いよぉ〜」
そんなユキネの頬を私はゆっくりマッサージしてあげた。
「それが事務所の戦略でもあるから仕方ないわよ。最後の一言だけで皆、心撃たれるんだから。」
ケイの言葉にユキネは私に頬をマッサージされながら口を尖らせて少し拗ねた様子で
「それでも、アイねぇとマリカの列まだ並んでるしぃ」
「じゃあ、あの2人はまだまだ終わりそうにないか。」
私は2人の列を思い出し、終わるのはまだまだ先だろうなと思った。
「待ってるのもなんだし私はこの後グラビアの撮影あるからトレーニング室借りて体仕上げて来ようかな?」
会場にはトレーニング室があり、以前ここでライブした際に私も使った事があり、リカコはそう言うとトレーニングウェアに着替え始めた。
「じゃぁユキは帰っていいかな?早く帰ってタマに癒してもらわないと。」
「タマって前にSNSに載せてたベンガル猫かしら?」
あまりにもオーソドックスな名前に思わずケイが突っ込んだ。
「そうだよぉ〜猫といえばタマでしょ?」
当然かの様に儚げな顔をキョトンとさせるユキネに皆で「そんな顔して無かったよね?」と顔を見合わせた。
「猫といえばタマなのぉー!!もうっ!!シオねぇも帰る?」
「そうだね。ふふふ。私も帰るよ。」
この後仕事入ってる訳でもないし、私はもう帰ろうかなと思っていた。
「じゃぁこの後マネージャー達と打ち合わせあるから伝えとくわよ。」
「ありがとうケイ姐。リカコも頑張ってね!」
「ケイねぇありがと〜また明日ねぇ〜お疲れ様でしたぁ〜」
マネージャーにはケイに帰る事を伝えてもらえるし、帰り支度をし、リカコは会場にあるトレーニングルームへ行き、私とユキネは握手会会場の裏口に向かった。
出待ちのファンがかなり居て、その中に私のファンでいつも来てくれる5人組の子達が居てくれた。あとは殆どがユキネのファンばかりだった。2人でファンに向かって手を振りタクシーに乗り込む。
「ユキネ、明日は事務所でミーティングだから遅刻しちゃだめだよ。」
「レコーディングだったら起きれるんだけどミーティングだと気持ちが入らないからいつも起きれないの。シオねぇモーニングコールしてー」
「もう…しょうがないなぁ。」
「いつもありがとぉ〜」
ユキネはそう言うと謎の愛猫ソングを口ずさんでいた。歌詞の内容は兎も角、ハイトーンボイスの美声にタクシーの運転手さんも役得だ。
先にユキネを下ろしたタクシーは私の家に向かって行く。
「お客さん最近人気のEveの子ですよね?娘がファンでね、この前もCD買いましたよ。」
「ありがとうございます。」
「いやぁ…おじさんには何がいいのかわからなかったんですけどね、さっきの子の歌声は凄いね。帰って娘にCD貸して貰うよ。」
「はい、是非。娘さんとの会話の話題にして頂ければ幸いです。」
最近は有難い事にこうして認知度も上がってきている。音楽活動だけでなく、ケイはプロデュース、リカコはグラビア、ユキネはコスメの広告塔、アイリスはモデル、マリカはドラマ。メンバー1人1人が個々で仕事をし始め露出が多くなって来たのが要因だろう。
ただ問題なのは私だ。Eveの活動以外特に何もしていない。
そんな中他のメンバーよりファンが少なくとも居てくれる、見てくれてるだけで私は幸せだ。
元々高校生の時にスカウトされ、女優志望で事務所に入ったがダンスレッスンがあり、そこで今のマネージャーとリーダーのケイに見出されEveでデビューする事になった。社長は元々5人グループにしようとしてたようだがケイの説得で私が食い込んだ。
同じポジションであるリカコは元々ダンスをしてただけあって私とは雲泥の差があった。その差を埋めるかのように私は誰よりも努力を重ねた。とあるアイドルが「努力は裏切らない」と言っていたがまさにそう思う。
他のメンバーのように秀でたものは無くとも、Eveのメンバーとして完璧なパフォーマンスをする事が今の私には精一杯だ。
翌朝、朝のランニングとヨガをしてから、なかなか起きないユキネに何回もモーニングコールして事務所に向かう。
所属事務所は日本三大事務所の一つで都内に自社ビルがあり、会議室からレコーディング、トレーニングルーム、ダンススタジオと他にも色々あるが全てがそこに入っている。
いつも使う会議室に入ると力強い歌声が特徴のメインボーカルの1人。アイリスが既に居た。
アイリスは関西育ちのラテン系ハーフ。高身長でスレンダーな彼女は某雑誌の専属モデルもしている。サッパリとした性格でバリバリの関西弁でハーフ顔なので彼女のファンは割と女性が多い。
「アイリスおはよ。昨日は結局いつくらいまで握手続いたの?」
「シオンおはよぉー昨日結局終わったん19時くらいちゃう?まじで手の指紋無くなるんちゃうか思て何回も確認したわ。」
流石に指紋は無くならないと思う…と心の中でツッコミを入れつつ私はバッグから最近おススメのハンドクリームを取り出した。
「それはそれは。じゃぁこのハンドクリーム使う?あんま匂いはしないやつだけど?」
「流石シオンやわぁ〜気が効くぅ〜ありがとぉ」
「どういたしまして。」
アイリスは「気の利く女って最高やわ〜」と言いながらハンドクリームを塗り込んでいた。
「今日のミーティングって今度の夏フェスの件やんな?」
今日はアイリスの言う通り8月の終わりに開催される沖縄でのフェスの説明と衣装合わせだった筈だ。
「うん。昨日相田マネージャーとケイ姐が打ち合わせしてたからほぼ聞くだけだと思うけど、衣装合わせあったはずだよ?」
「本間か!昨日握手会終わってからめっちゃ食べてもーた!どないしょ!!」
アイリスは焦った様子で筋トレをし始めた。そんな事しなくてもスラリとした体はもう少し太ってもいいんじゃないかと思うくらい細かった。
「おはよーございまーす」
「おっ!!マリカおはよぉー」
メインボーカルでユキネと同い年の21才のマリカだ。
マリカは兎に角整った顔立ちで歌声もさることながら今はドラマにもヒロインとして出たりしている。彼女のファンは大半が男性で熱狂的な方が沢山居る。
「マリカおはよ!昨日はお疲れ様」
「本当に疲れましたよ。いつものハゲがやっぱり来てて、あいつ10回も来たんですけど?そんな金あるんなら散らかったハゲ具合どうにかしろよって思いますよ。」
「まぁまぁ、マリカよ。彼も大切なファンやで?優しくしたりー」
「流石に本人の前では猫被ってますって。」
マリカは整った顔立ちに似合わず、かなり毒舌で少し口が悪いが、根は凄くいい子だ。
「マリカのファンなかなか独特な人多いもんなぁ」
「本当そうですよ。シオンさんが羨ましいです。シオンさんのファン女の子多いし皆いい子そうじゃないですか。出待ちのマナーだって良いし」
確か私のファンは私が知ってる限り皆いい子でファン同士も凄く仲が良かった。
「そんなんシオンの人柄と人徳のなせる技やで」
「まぁまぁ、マリカハンドクリーム使う?塗ってあげようか?」
プリプリし続けるマリカにアイリスにも渡したハンドクリームを渡した。
「やったー!シオンさん塗って下さい!」
「頑張ったマリカには特別マッサージしてあげる。」
マリカは何故か私が大好きで、いつも私に甘えて来るのでついつい私もマリカを甘やかしてしまう。
「えぇーマリカだけずるいわーウチにもしておくれ〜」
「はいはい。マリカの次にしてあげる。」
そうこうしている内に残りのメンバーのケイとリカコとユキネ、相田マネージャー、サブで付いてくれているサブマネージャー4人が資料を抱え会議室に集まった。
マネージャーの相田かおる30才は、元々アイドルに憧れてたが壊滅的リズム感が無く音痴でダンスも下手で早々にその憧れを捨て、ならばこの業界に携わる仕事がしたいと、この業界に入った人だ。
そんな相田マネージャーはEve結成時にケイとメンバーを選定し、Eveに人生捧げてると言っても過言ではない。
サブマネージャーの4人は相田のサポートで相田では手が回らない事など担っている。
「昨日は握手会お疲れ様でした。今日集まってもらったのは今度の夏フェスの件です。概要については基本この配布した資料に書いてある通りで、セットリストは資料に書いてあるけど、何か意見や質問ががあれば教えて。終わり次第衣装合わせするからね」
相田がそう言うと全員が資料に目を通す。
チラホラ質問は出るものの特に問題なくミーティングは終了し、次はフェスでの衣装合わせに移る。
Eveのステージ衣装はそれぞれ個々のキャラクターに合わせコンセプトあり、一人一人何種類かの衣装がある。
今回フェスなので一着だけ選び、全員で並んで全体のバランスをメンバーとマネージャー達全員で相談して決定する。
割と時間が掛かるがEveの印象を目で見て決定付けるものだから、衣装合わせには皆が意見をしっかり言う。
ただ最終的な決定は圧倒的なセンスを持つケイに任されている。
「じゃあ衣装合わせはこれで決定で。ユキネとリカコとアイリスはこの後撮影入ってるので着替えたら解散で。」
次の仕事があるのに帰ろうとしていたユキネを相田マネージャーが首根っこ掴んで連れて行き、リカコとアイリスはサブマネージャーと共に次の現場に向かった。
この後仕事の入っていないマリカとケイは帰り支度をしていた。
「じゃあ、私エステ行くんで帰りますね。ケイ姐とシオンさんはこの後どうするんですか?」
キャップとマスクを付けてお忍びモードのマリカはケイと私に聞いて来た。
「私は今から靖の家に行くわよ。」
靖とはケイの彼氏で、今日本でトップを走る男性5人組グループ〈MtoM〉のリーダーである。
特に恋愛禁止という訳ではないが、世間には公表してない。互いの事務所もメンバーも公認であり、業界内では有名だ。
「MtoMは今ツアー中でしたっけ?」
「そうなのよ。やっと東京に帰って来たから久々に会えるのよ。」
嬉しそうなケイに私もマリカも思わず笑みが溢れる。
「ここの所私達も忙しかったしね、ケイ姐楽しんでね!」
「そういうシオンはどうするのよ?帰るなら一緒にタクシー乗る?」
確かに家の方面は一緒だったはずだか、この後私は昨日出来なかったトレーニングをしようと思っていた。
「ううん。私今からトレーニングルーム行こうかなって思って。」
「本当シオンさんはストイックで尊敬します!」
「そんな事ないよ。昨日は動いてないし、すぐ鈍っちゃうから。」
「シオン、無理しない程度にね。」
ここで2人とは別れ、トレーニングルームに向かう。
Eveの楽曲には激しいダンスナンバーもあって体力勝負な所もあるし、元々太りやすい体質でメンバーと一緒に並ぶにはスタイル維持も私の仕事の一つだ。
トレーニングで汗を流した後はダンススタジオに行き、夏フェスのセットリストを見ながらダンスの確認をした。
集中力が切れふと時計を見ると18時で
「もうこんな時間か……帰ろ……」
ダンススタジオを出ると前から男性6人がやって来た。
彼らは〈Adam〉メインボーカルにタケル、ナオト、ヨシタカ、ラップはマナト、ダンスはコウジ、ショータで私達Eveと同じデビュー日の兄妹グループだ。
メインボーカルのタケルが私の姿を見てブンブン手を振って来た。
「おっ!シオンじゃん!1人?」
「今日はミーティングで皆は他のスケジュールがあるから自主練だよ。」
それを聞いた私と同じポジションでもあるコージが
「……あんまり詰め過ぎるなよ。」
「大丈夫!もう帰るから!皆は今から?」
「おう。新曲の練習……。」
「そうなのね!頑張ってね!じゃぁ皆お疲れ様!」
彼らと別れ、私は家路を急ぐ。
何も無い日は肌の為になるべく10時には寝るようにしているので逆算するとギリギリだ。
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「おい、コージ。久々にシオンに会えたんだからもっと話せば良かったじゃん」
「…………。」
「駄目だよタケル!コージは好きな子の前じゃ頭真っ白になっちゃうからw」
「そんなんじゃいつまで経っても発展しないぞ?」
「タケルの手が早いだけじゃん。」
「…………。」
「ナオトに言われたくねーよ!」
「お前らそろそろ音流すぞー」
リーダーのショータがそう言うとタケルとナオトは言い合いを止め、ずっと沈黙を守っていたコージは
「…………今日も可愛かったな…………俺もがんばろ。」
と小さく呟き、その言葉は誰の耳にも届かなかった。