第87話、マモリネコ信仰
アメリカ軍の司令官は、一言で言うと慇懃無礼だった。
日本軍がエルキャックを助けたことを、さも当然のことのように言う。
沖縄のアメリカ軍の領域近くで戦闘したことを非難してきた時は、(エルキャックを助けるためにだ)流石に”霧島神宮”の関係者から注意の声が上がった。
大体沖縄は日本の領土だ。
ナンバの頭に、大戦中の有名な大和型の艦長の名セリフがよぎる。
周りを敵に囲まれ孤立したときに、敵が打電で降伏勧告をして来た。
その時、
「”馬鹿め”と打電してやれ。 ”馬鹿め”だ」
と返しその後、劇的な逆転勝利をするのである。
これが、命を懸けて守ったものに対する態度かっ
思わず無線を切ってやろうかと思った瞬間、ナンバの膝にネコサマが乗った。
いつものように、無意識に頭を撫でる。
「……OH!?」
アメリカ運の司令官が固まった。
「???」
ゴロゴロ
ナンバがネコサマの喉を撫でる。
アメリカ軍の司令官の背後から
「マイガッ」
「オー、ガーディアンキャット??」
「ドンリュー イズ タカラブネ―??」
という小さな声が聞こえてきた。
司令官が、黒いサングラスを外す。
「ナンバサーン、マモリネコサマですか?」
「あっ」
ナンバはアメリカ軍の司令官に聞かれて初めて、猫がひざに乗っているのに気づいた。
「失礼しましたっ」
慌てて猫を下ろそうとしたとき、
「……久しぶりですね、アイゼンハウアー」
艦長席の斜め後ろに、子猫を抱えたミヤビが立っていた。
「エージェント・ミコ、……”ミヤビ”」
◆
”アメリカ軍と、マモリネコ信仰”
日本軍は大戦中に大半の艦船を失い、マモリネコも艦と命を共にした。
その為、日本では現在マモリネコ信仰は、忘れ去られつつある。
しかし、大戦中ほとんどの艦船を失わなかったアメリカ軍には、マモリネコ信仰は根強く残っていた。
マモリネコがいる船は、”タカラブネ”と呼ばれ、周りから大変うらやましがられるのである。
鎖国をしたため、マモリネコサマをお迎えする機会が減ったから尚更だった。
日本では、失伝しているが、ネコサマのお世話役として派遣されてくる、エージェント・シンショクとミコの存在も大きい。
アメリカ軍の戦略分析室の分析では、シンショクとミコがいる艦の稼働効率が10パーセント上がるとされている。
安全性に至っては、20パーセント上がるとされていた。
シンショクとミコは特殊な訓練を受けた”フナノリ”のプロなのである。
ミヤビは、沈みゆく”吞竜”からでも、ネコサマを無事に帰還させるだろう。
◆
”呑竜”にマモリネコが乗っていることを知ったアメリカ軍の態度は、一変した。
司令官である、”アイゼンハウアー”はネコサマを羨ましいという態度を隠さない。
ストレートに、”エルキャック”を助けてくれたことの礼を言われた。
更に、礼をするために”エンタープライズ”でパーティーを開くという。
”呑竜”と”霧島神宮”の乗組員全員が招待された。
アメリカ人たちは、一度警戒を解くと陽気で愉快な人たちだった。
ナンバとメグミは、軍服とドレスの正装でパーティーに参加する。
バイキング方式のパーティーだった。
「あっ、すごいっ、牛肉のステーキだっ」
「サラダもこんなに」
会場のいたるところで驚きの声が上がった。
「ナンバサーン、チョーといいですかー」
ナンバはアイゼンハウアーに肩を組まれて、艦長クラスに人が集まっている所に連れていかれた。
「どうやってネコサマをおむかえできたのですかー」
全員真剣な目で聞いてくる。
「えーと」
”お松大権現”に飛行艇でお参りに行って、”キャットストライク”が起きたと素直に言う。
チョクセツお越しいただくッ
ソノ手があったのかッ
額然とした表情でつぶやいていた。
その後、艦長クラスである、アメリカ軍の幹部がこぞって”お松大権現”に飛行艇でお参りする。
このことが、アメリカが日本に対して、鎖国を開放することの一要因になるのは先の話である。
”呑竜”は沖縄のアメリカ軍の支配領域を通過できるようになった。
”吞竜”は、沖縄の沖まで南下する。




