第85話、大祓詞
アナスタシアは、エルキャックに向かって海上を飛んだ。
「はい、邪魔っ」
バカンッ、バカンッ
脇のホルスターから、”トカレフ、454、ビューティー・アンド・ザ・ビースト”を取り出した。
近づいてくるメガシャークの目を狙って打つ。
「ちょっとお邪魔するよー」
チャカチャカチャカ
”ウエアウルフ”をエアバイクモードから、機動甲冑モードの切り替える。
アナスタシアは、ウエアウルフを纏った。
エルキャックの後部甲板に降り立つ。
右手には、対メガシャーク用、ロケットバズーカ。
左手には、M65、ガトリングガン。
「ふふふっ、イイッツ、パアレードオオッ」
目の前の海面を黒く盛り上げながら、近づいてくるメガシャークを見ながら、片頬だけで獰猛に笑う。
BGMは、クロネズミマーチだ。
バウウウウウウウウ
海上にオレンジ色のミシン目を描くように、M65、ガトリングガンが火を吹いた。
◆
「”満月”回収完了、二人とも無事です」
「よしっ、”吞竜”全速前進」
「メガシャークとエルキャックの間に入るぞ」
流石にメガシャークの歯でも、潜水空母の装甲を抜くことはない。
体当たりはまずいかもしれないが。
”呑竜”の甲板にネプチューンとコンゴウリキシ二機が出た。
三機は、自分の倍くらいの長さのある大砲を抱えている。
対メガシャーク用、狙撃砲”ピラルクー”を、ネプチューンで打てるように改造したのだ。
「ネプチューンは、リコイルを殺すことだけ考えてくれ」
「狙いは、砲身を支えてる、コンゴウリキシがつけるんだ」
整備長であるオリエが、ネプチューンとコンゴウリキシに指示を出した。
ネプチューンの身長の倍の長さがあるので、砲身を二機のコンゴウリキシが支えることになる。
「おうっ」
「まかせろっ」
コンゴウリキシのセキトリ、キバとウエダが気合を入れる。
『高天原に神留り坐す皇親神漏岐・神漏美の命似て、』
「大祓詞っ」
ササギがネプチューンのカメラを向ける。
甲板の一段上にある外部指揮所。
そこに、子猫を抱えた、白と赤の巫女装束の女性が立っている。
全周波無線で、”お松大権現”に『安全祈願』を奏上しているのだ。
「ミヤビさんっ」
ネプチューンのモニター越しに目が合った。
ミヤビが薄く笑った。
ササギが、うなづいた。
『八百万神等を神 バッカアアアアアン へ賜えひ、神議り賜ひて、』
ササギたちは、メガシャークに向けてピラルクーを撃った。
◆
「一番機、残弾、0」
「二番機、焼夷弾だけ~」
「三番機、これで終わりだ」
最後の魚雷を放つ。
残っているメガシャークは、5体。
5体とも一回り体が大きく、全身傷だらけである。
長年生き残ってきた猛者のようだ。
バッカアアアアアン
”呑竜”からの狙撃だ。
メガシャークは着弾の瞬間、体を斜めにして砲弾を弾いた。
「なっ、慣れてやがる」
一瞬のスキをついて一体が突進。
バシュウウウウ
エルキャックのバルーン部分にかじりついた。
「まずいっ」
「バルーンがヤラレタ、ワレ、コウコウ不能、ワレ、コウコウ不能」
エルキャックが移動不能になった。
「”呑竜”、かじりついてるメガシャークにラムアタックッ」
◆
”呑竜の艦首に装備されたラムエッジ”
”呑竜”の艦首下部には体当たり(ラムアタック)用の角が装備されている。
古くは、旧日本海軍旗艦、戦艦”三笠”。
戦艦”三笠”を参考に造られた、帆柱搭載型弩級戦艦、”文福茶釜”にも装備されている。
弾尽き、刃が折れたあとの最後の武器である。
◆
「命中する、全艦、対ショック姿勢っ」
メガシャークは、当たる瞬間エルキャックから口を離し、するりと逃げて行った。
「まずいな」
5体のメガシャークは、移動できないエルキャックを中心に、円を描くように周りを泳いでいる。
身動きが取れなくなった。
「こちら三番機、燃料(海水)が乏しい」
「一旦帰投する」
双発の”シーキャット弐”は燃費が悪く大食らいである。
”シーキャット弐”が”吞竜”に向かって高度を下げ始めた。
「……だめっ」
ミヤビが声を出す。
「うわっ」
”シーキャット弐”にメガシャークが飛び掛かってきた。
ギリギリかわす。
「シーキャット弐、残り飛行時間は」
「ギリギリ20分っ」
まずいことになった。
その時ミヤビは、上空に白と赤に塗り分けられた戦闘飛行艇が、飛んでいることに気づいた。
ミヤビは周りに気付かせるように、大きく指をさした。




