第81話、ファーム
”吞竜”は、九州沖に移動してきた。
「もう少し進むと”自由アメリカ同盟”の支配地域になるな」
ナンバが、上部甲板で双眼鏡を覗いている。
沖縄は、”自由アメリカ同盟、極東方面派遣艦隊、空母打撃群”が大戦前から駐屯し実効支配していた。
”自由アメリカ同盟”は現在、鎖国している。
近づくと攻撃してくるので、支配地域を大きく迂回する必要があった。
「今回はここまでかなー」
遠くの沖に、活火山である、”サクラジマ”が、空に噴煙を上げている。
周りには、海上に浮かべたプールのような構造物に、火山灰を溜め”農場”としている。
”サクラジマ・ジオパーク”である。
◆
”サクラジマ・ジオパーク”
現在、サクラジマは山頂部の一部を除いて水没している。
火山活動は続いており、火山灰は周りに降り注いでいた。
その火山灰を、プールのような海上構造物で受けとめ、農場を作っていた。
魚を肥料にして土壌改良を行っている。
魚の体内の”ソダーツX”が植物にどのような影響を与えるかはまだ分からない。
◆
「少し寄るか」
”サクラジマ・ジオパーク”は人工物であるため、上陸はしやすい。
「ブリッジ、”サクラジマ・ジオパーク”に上陸許可を申請してくれ」
「出たら、上陸しよう」
無線に言った。
「了解、聞いてみます」
……
「許可出ました」
「分かった、艦を”サクラジマ・ジオパーク”に向けてくれ」
ナンバが、ブリッジに帰った。
「全艦に告げる、”サクラジマ・ジオパーク”に上陸許可が得た」
「明日は一日滞在する予定である」
「明日一日を、”全休暇”とする」
長い航海である。
休暇は取れるときに取るのが基本だ。
◆
サクラジマを中心に、緑の人工大地が広がっている。
周りの人工海岸の一部に、マングローブ林が作られていた。
その奥に、砂地に生える、スイカ、ごぼう、菜っ葉類、大根などが植えられている。
特に、バランスボールくらいの大きさになる、”サクラジマ・大根”は有名である。
ソダーツXの影響はまぬがれないようだ。
午前中”吞竜”の乗組員たちは、野菜収穫体験や野菜バイキングなどを楽しんだ。
午後から人工ビーチに来ている。
「タイチロウ、塗ってくれる」
メグミは、仰向けに寝ている。
上のビキニのひもを外していた。
「分かった」
ナンバは、とても大事なものに触れるように、”サンイーター・パーフェクト”をメグミの背中に塗った。
少し離れた所で、ビーチバレーをしている者もいる。
「ミイ」
ミヤビが、水着姿のササギの横に座り、無言で彼の膝にコネコを置く。
オオネコは自分の膝の上だ。
赤と白の巫女仕様の水着を着ている。
「え~と、巫女さん?」
ササギが、周りを見回した。
周りに、そこそこ人はいる。
「…………」
ふるふるとミヤビが、首を横に振る。
「……ミヤビさん?」
「ん」
首を立てに振った。
子猫は、胡坐をかいた足の上で眠ってしまった。
自分は、ミヤビさんに口説かれて……いるのだろうか……?
片目の黒い眼帯をずらす。
ミヤビの表情を盗み見ても、さっぱりわからなかった。
「スイカ割り、一回、十万円は高くな~い!?」
どこか遠くの方から大声が聞こえてくる。
”サクラジマ・大根”と同じように、スイカもバランスボールくらいの大きさをしている。




