第77話、F装備
「F装備を試したい」
キバが、ナンバに言った。
筋肉が内側からあふれそうだ。
”呑竜”は、名古屋から出港している。
現在、名古屋沖を航行中だ。
「潜水空母のF装備の運用は初めてのはずだ」
「初めてのはずですわ」
175センチくらいの身長、日本人とフランス人のハーフ、金髪、たてがみロール。
フランソワーズ・オリガミ大尉である。
キバから送られた婚約指輪は、サイズを直されて左手の薬指にはめられている。
”呑竜”の副長だ。
「ふ~む、……分かった、艦の進路は変えられないぞ」
「了解だ」
「そうだな、オリガミ大尉、キバ軍曹をサポート」
「”吞竜”でのF装備の運用試験を許可する」
ナンバは、膝の上のネコサマを撫でた。
◆
”コンゴウリキシ、F装備”
コンゴウリキシの背中に、固定用のアームをつけ、太い釣り竿を装備したフィッシング装備である。
陸軍の、”漁業部”から借りている。
陸軍の装備であるため、空軍所属の”潜水空母、吞竜”では初めての運用となる。
◆
「全艦に告げる、こちら艦長」
「今日は、コンゴウリキシのF装備の運用試験を行う」
「休暇もしくは、準勤務のものは、F装備の使用を許可する」
「厨房は、魚の料理の準備をせよ」
一日、釣り大会に決まった。
キバは、コンゴウリキシを着て、艦の後部飛行甲板の端にいた。
飛行甲板のフックに背中のアームを固定。
椅子に座るような体勢で、トローリングをしている。
コンゴウリキシの胸部ハッチを開いて、サングラスをした顔が見えていた。
時々、フランソワーズが、タオルでキバの顔の汗を拭いた。
「きたっ」
竿がしなる。
ムーンチタニウム製の疑似餌が見えなくなる。
「ヒットですわ~、減速してくださいまし~」
フランソワーズが無線でブリッジに指示する。
タイトスカートの軍服姿に、瀟洒な白い日傘をさしていた。
「了解、両舷反転、減速」
「減速よ~し」
大型のウインチ状のリールが、単分子ワイヤーのテグスを巻き上げる。
「大きいっ」
「フランッ離れてっ」
「了解です。 ショウさま」
キバの名前は、ショウヘイである。
一時間くらいの格闘の後、釣り上げた。
二メートル近いカツヲだった。
最後は、テグスに高圧電流を流してしめる。
収納式のクレーンで飛行甲板に引き上げた。
その後隣で、同じ装備で釣っていたウエダ機は、一メートル近いオオアジを釣った。
準勤務だったヒビキが、サポートしていた。
二人とも頭を撫でることは忘れなかった。
相変わらずの陸軍組を横目で見ながら、ササギが
「羨ましくないからなっ」
ぼそりとつぶやく。
「ミイ」
「なぐさめてくれるのか?」
「ミイ」
ササギは、そっと子猫を抱きあげた。
「……」
巫女であるミヤビが後ろから、静かに見つめていた。
◆
「あ、あの装備欲しいっ」
アナスタシアが、F装備を見て言った。
近い将来、自分で作って装備することだろう。
夕食は、甲板で、”カツオのたたき”を作った。
釣った魚で、なし崩し的に宴会になる。
星空の下、夜遅くまで宴会は続いた。
翌日は、休暇日となる。
ちなみに、休暇だったメグミさんはボウズだった。
「釣れなかった~」
「よしよし」
ナンバが、メグミの頭を撫でて慰めていた。




