第74話、マモリネコ
「メグミ、行きたいところがあるんだ」
ナンバが、深刻な声を出した。
「どうしたの~」
心配そうな声だ。
「この前、航空母艦型神社、”お松大権現”のHpの映像を見ただろう」
「う、うん、ネコが可愛かったよね~」
「科捜研にある、”艦船運用研究室”で改めて見たんだ」
艦の効率の良い運用方法、人の動線や配置を研究する。
HPは、ネコミミと尻尾の、”神娘、お松大権現”がナビゲートしていた。
隠しコマンドで、”化け猫化”するぞっ。
「……阿鼻叫喚だったよ……」
曰く
「猫が横切るカタパルトで、スクランブルはあり得ないっ」
「レーダー塔の猫をラぺリングで回収っ」
「猫のために、戦略モニターを二つ用意したのかっ」
「どうやって、全体の運用を決めてるんだっ」
「あの巫女さん、可愛いっ」←大きい巫女さん
「いや、こっちの娘だろお」←中くらいの巫女さん
「いやいやいやっ」←小さい巫女さん
「で、最終的に、CGでも使ってるんじゃないかという疑問が出たんだ」
「それで確認して来いと……」
メグミさんに、”出張命令書”、行先”お松大権現”という内容の書類を見せた。
「休み中だけどすまない」
ナンバが頭を下げた。
「いいよ~、もともと、誘うつもりだったよ~」
「拝艦料とかは、軍から出るから」
「ふふふ、蓮月出すね~」
キットプレーン、”蓮月スーパー8”、二重反転プロペラ”の”水無月”という感じ。
バッテリーの充電や整備のために、出発は明日になった。
ナンバは、メグミのレントハウスに入り浸っている。
次の日、”蓮月スーパー8”で、徳島県沖の”お松大権現”に向かって出発した。
「見えたよ~」
眼下に、”お松大権現”の飛行甲板が見えた。
「甲板に着艦できる?」
「出来るよ~」
”蓮月スーパー8”は、飛行艇だ。
甲板に着艦する用の装置が、空母にはある。
左右から、車輪の着いた下駄の様なものが、飛行艇の船の部分を挟んで受け止めるようになる。
「すごいっ」
甲板上に沢山いた猫が波が引くように、神職や巫女によって回収されていく。
ナンバは、記録用のカメラで、記録した。
「着艦許可が出たよ~」
「ゆっくり~、ゆっくり~」
失速寸前まで減速、装置の動きに合わせる。
装置が、船を挟んだ。
「ふうう、無事、着艦~」
「”お松大権現”へようこそ」
猫の狛犬の間を通り、社務所へ向かう。
「拝艦料、一万円です」
二人は、拝艦料を払い、写真集を二冊受け取った。
軍に提出するように、もう一冊買う。
◆
ナンバは、軍の報告用に、写真を撮っていく。
「猫だ~~」
食堂で、ネコを膝の上に乗せながら、昼食をとるメグミさん。
「可愛いっ」
機関室で、コネコダルマを指差して喜ぶメグミさん。
「すごいっ」
スクランブル訓練で、ラぺリングで猫を回収するのを見て、感心するメグミさん。
「飛んだ~~」
甲板から飛行機用のエレベーターへ、飛び降りる猫を見るメグミさん。
「タイチロウ、見て見てっ」
カタパルトを横切ってきた、二匹の猫を抱いて喜ぶメグミさん。
んん?
…………写真を、軍に資料として出した。
猫にまみれたスクランブル発進が本当だとわかると同時に、軍内部に二人がバカップルだということも広まる。
「そろそろ帰ろっか~」
”猫カフェ”ならぬ”猫神社”を堪能し尽くした二人である。
「ニャア、ニャア」
「ミイ、ミイ」
蓮月が離艦した直ぐに、後部座席の後ろの荷物入れから、コネコとオオネコがゴソゴソと出てきた。
「……キャットストライクだあっっ」
大慌てで引き返した。
◆
「あなたは、船乗りですね」
老練な巫女が言う。
隣の、同じような神職がうなづいた。
どことなく軍の尋問室を思わせる狭い部屋だ。
再度着艦して、猫を渡した後、有無を言わせず連れ込まれたのだ。
二人並んで座らされている。
「っつ」
ナンバが息を飲んだ。
「答えて……」
巫女が笑いかけてくるが、目は笑っていない。
「そうだ」
「何という船に乗っているの?」
「酔鯨級潜水空母、”呑竜”、空軍所属だっ」
軍関係者に、手を出すつもりかっ
「よろしいっ」
巫女と神職がにこやかに笑う。
「ネコサマの目に狂いはなかったようですな」
「???」
「ミヤビ、ネコサマを」
扉が開いて、糸目で175センチくらいの身長の巫女が、オオネコとコネコを抱いて入ってくる。
そっと、ネコ達を離した。
オオネコがナンバの膝の上に、コネコがメグミの腕の中に入った。
「やはり」
「”マモリネコ”というのはご存じですか?」
「!!」
ナンバだ。
「知ってるの~」
◆
”マモリネコ”
昔、船の守り神として、船に猫を乗せる風習があった。
その猫のことを、”船乗り猫”もしくは”マモリネコ”と呼んだ。
ネズミを捕るというのもあるが、嵐を予見したり不思議な力を発揮したという。
最近は、この風習は廃れているはずである。
◆
「昔は、沢山の船に沢山の”マモリネコ”様が乗っていました」
「しかし、大戦中に沢山のネコサマが、船や軍艦と命を共にしました」
「それでは忍びないということで、”マモリネコ”様を当神社の集めたのです」
「この神社のネコサマは、全て”マモリネコ”様の血を引いておられます」
「では?」
ナンバだ。
「あなたとあなたの船は、ネコサマが”マモリネコ”としてお迎えするために選ばれたのです」
二匹の猫は、マモリネコの血を引く”種族的記憶”の元の行動らしい。
これは、とても縁起の良いことである。
神社のHPに、縁起の良い船として載るくらいだ。
「え~と」
「一年間です。 一年間、ネコサマとお世話する巫女を派遣します」
う~~、勝手に、二匹の猫と、巫女を拾うわけにはいかない、よな~
「軍本部と相談してみます……?」
ナンバが首を傾げた。
「是非っ」
老練な巫女が言った。
”呑竜”のクルーに、二匹(二柱?)の”マモリネコ”と”フクムスメ”が加わった。
「どうやって、特殊任務中の軍艦に、ネコとっ巫女をっ、ねじ込んだああ」
今度は、人事部を、”阿鼻叫喚”に陥れたらしい。
カミの力だよ、きっとな。




