第71話、ツーリング
「ツーリングに行こう」
ユタカが言った。
二人の休日を邪魔したことに対する、補償だという。
「良いところがあるんだよ~」
「え~と」
ナンバは、エアバイクに乗れない。
「ふふ、メグミの後ろに乗ればいいんだよ~」
俗にいう、”タンデム”というやつだ。
基本、体は密着する。
「……ナンバ君が良ければ……」
想像したのだろう、少し顔が赤い。
「うん、メグミさんが良ければ……」
ナンバも顔を赤めた。
甘っっ
ユタカが二人を、ニヤニヤしながら見ている。
「……ユタカさんも、エアバイクに乗られるんですね?」
「乗るよ~」
「私は、エアバイクを姉さんに教わったのよ~」
ガレージに移動する。
銀色の、エアモトグッチ1100sの横に赤いエアバイクが停まっている。
「エアドゥカティMHRミッレだよ~」
◆
”エアドゥカティMHRミッレ”
大戦前に生産された、クラッシックエアバイク。
横起き90度、Lツイン酸素水素分離型エンジン。
エンジンの燃焼室のバルブ(蓋)を、ばねを使わず機械式で開閉する、デスモドローミック機構。
シリンダーヘッドには、開閉させるためのベベルギヤ(傘上の歯車)が独特の造形美を見せる。
”ベベル、Lツイン”と呼ばれるものである。
丸いライトにロケットカウル、赤い(イタリアンレッド)車体に緑の模様が美しい。
◆
「スターターのモーターが、スズキのGSX1100Fのを、プラスマイナス逆にすると乗るんだよ~」
ユタカが指を指した。
「姉さん、ブレーキのキャリパー変えたの~」
「ブレンボのツーポッドエアブレーキに変えたよ~」
モディファイは、足回りから固めるのがユタカさんの流儀。
二人のエアバイク談義はしばらく続いた。
「ふふ」
ナンバは、楽しそうに話している姉妹を幸せそうに見ている。
「あ、ごめんね~、二人で盛り上がって~」
「ナンバ君」
「いえ、楽しいですよ」
「ユタカさんに、メグミ……さん」
「……メグミさん」
ナンバが少し視線を逸らす。
「な~に~」
「メグミと呼び捨てにしてもいいだろうか?」
顔が赤い。
「!?、はい」
メグミが、ボッと赤くなる。
「タイチロウと呼んでもいい?」
消え入るような声だ。
「うん」
あ、甘あああ
ユタカは、気を利かして背中を向けている。
流石にこの三人では気まずいと思ったのか、ツーリングには、アナスタシアとオリエを誘うことにした。
ヒビキは、ウエタと旅行中である。
全員、エアバイク乗りだ。
「邪魔にならない?」
オリエが電話で聞いて来た。
「姉さんと一緒で、逆に気まずいかも~」
「ふふ、分かったわ」
「いいよっ、暇してるからね」
アナスタシアは、二つ返事で了承した。
二人とも参加することになった。
出発は、二日後早朝。
一旦、ナンバは、寮に帰った。
待ち合わせ場所は、イズモ参りの時と同じ、桟橋である。




