第71話、朝チュン
朝だ。
メグミのレントハウスである。
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”ジャイアント・スズメ”
昔のカラスと同じくらいの大きさまで巨大化した、スズメ。
陸上動物は、自重を支えられなかったり、住む土地の減少で巨大化は無理である。
しかし、鳥類、特に魚を食べることが出来る種類は、体を巨大化させ逞しく生き延びている。
本来スズメは、雑食性だが強引に魚を取って食べているようだ。
魚の体内に残るソダーツXの影響で、体が巨大化しているのがその証拠である。
◆
チュン、チュン、チチチチチチ
窓の外から聞こえる、スズメの鳴き声で目が覚めた。
カーテンの隙間から、半分くらい水没した電信柱の上に、二、三羽、巨大なスズメがとまっている。
鶏の鳴き声くらいの大きさはあるのだが。
「う~ん」
腕の中で、メグミさんが身じろぎした。
「ふふ」
起こさないようにそっとベットから出た。
顔を洗い、歯を磨いた。
二つ、歯ブラシが並んだのを見て、昨夜のことを実感した。
「夢が叶ったか」
メグミさんと家飲みをしたのだ。
頬が緩む。
さて、朝食の準備でもしようかな
湯を沸かして、合成コーヒーの用意をする。
「あ、おはよう~」
メグミさんが起きてきた。
「シャワー浴びてくるよ~」
少し顔が赤かった。
「後で自分も入るよ」
朝食の準備を始めた。
風呂場から、シャワーの音が聞こえてきた。
そ、想像以上に恥ずかしいなこれは
ガチャ、ガチャリ
「?」
「メグミ~、あんたいるんでしょ~」
ドタドタと誰かが玄関から、上がってくる音がする。
「えっ」
「えっ」
バンッ
次の瞬間、腕を後ろにねじり上げられた後、足を払われ床にうつぶせに倒されていた。
「誰だっ」
首筋に、サバイバルナイフを当てられる。
「?、!?、?」
「ナ、ナンバだ」
背中に柔らかいものを二つ感じる。
「ナンバ~~~~」
不審そうな声。
「ナンバ~~」
考えているようだ。
「ナンバっ」
ひらめいたようだ。
ばっと飛ぶように離れた。
「メグミの彼氏のナンバ君ねっ」
ひねられた腕が痛い。
起き上がると、メグミさんを少し大人にしたような女性が、ナイフをしまうところだった。
「ど、どうしたの~」
「あっ、ユタカ姉さんっ」
メグミさんが、バスタオルを巻いて大慌てで出てきた。
「あははは、ごめんねっ」
ユタカと呼ばれた女性は、あやまりながら頭を下げた。
◆
メグミさんがシャワーから上がって来た。
とりあえず、三人分の朝食を作って食卓に並べる。
「あ~、はじめまして、メグミの姉のユタカです~」
頭をさげる。
口調が少し似ているな
「メグミさんと、お付き合いさせていただいている、ナンバです」
「いや~さっきはごめんね~、不審者だと思っちゃった~」
メグミさんとよく似たまなざしで見られる。
「ユタカ姉さん~~~~」
少し怒った声だ。
「ごめんごめん、あ、そうそう、これで機嫌直して~」
玄関に置いてあった、クーラーボックスを持ってくる。
「こ、これは」
中には、トリニクが入っていた。
「ユタカ姉さんは、”日本野鳥の会”の隊員なのよ~」
ナンバは、バッとユタカの方を振り向いた。
◆
”日本野鳥の会”
外務省の、特殊部隊。
本来は、田んぼや畑を荒らす、鳥類を、観察、調査するために作られた。
国境に関係なく移動する大型化した渡り鳥などは、沢山の肉が取れる貴重な資源である。
そのため、獲る量などについて、他国と外務省が話し合い、決められる。
陸地が極端に減った現在、動物の肉は基本、鳥からしか獲れないのだ。
最近は鳥類の巨大化が深刻で、田や畑を荒らす野鳥(人も襲う)に対抗するため、装備の重武装化が進んでいる。
その結果、最も装備の充実した、実戦経験の多い、ウルトラエリート部隊になっていた。
◆
ナンバは、トリニクの希少さも去ることながら、ユタカが自衛隊で言うところの、豊富な実戦経験のある”レンジャー”部隊の隊員であることに驚いた。
訓練でウミヘビを生で食べる系の部隊である。
「二人の休日を邪魔しちゃったわね~」
「ふふふ、そうね~、この償いは必ずさせてもらうわ~」
その日の夕飯は”ヤキトリ”だった。
ナンバとメグミは、久しく食べてないお肉に、涙を流して食べたという。




