第70話、シネマ
三カ月の休暇に入った。
メグミとナンバは、二人で映画を見に来ている。
昔、東京湾を防衛するために、巨大な防御壁が作られた。
しかし、”大異変”の海水面上昇のために、半分くらいが海上に出ているだけである。
その出ている部分を、スクリーンにして映画が上映されている。
メグミとナンバは、”イワオ”をレンタルして、船の上から映画を見るのだ。
「アナスタシアさんがチケットをくれたんだよね」
「そう、海軍と一緒に制作に協力したんだって~」
二人は、ドライブスルーのフィッシュバーガーや飲み物を車内に持ち込んでいる。
「あ、はじまるよ」
◇
パン屋の朝は早い。
『ワトソン君、やはり焼き立てのパンの香りが一番、僕の頭脳を鋭敏にしてくれるよ』
『そうかい、ホムズ。 そろそろ、学校に給食用のパンを納入しに行く時間だよ』
『そうだな』
チャカ、チャカ、チャカ、チャカ
「あっ、あれだよ~」
メグミが指をさした。
小さめの石焼窯を備えたパン工房が、”人型潜水球ネプチューン”に状態変化~する。
◆
”パン工房変形型、人型潜水球、ネプチューン”
日本海軍と、アナスタシア博士が協力して開発した映画用の機体。
CG、及び特撮は一切使われておらず、機能も本物である。
支援用人工知能の、パーソナルネームは”ワトソン”
映画内で、”ホムズ”の愛機であり良き相棒である。
◆
『さあ、乗ってくれ、ホムズ』
ネプチューンに変形した”ワトソン”がコックピットを開ける。
映画のタイトルは、『ベーカリー街のホムズ』
このホムズは、ロッキングチェア探偵ならぬ、『パン石焼窯探偵』なのである。
重要な推理の時は、変形した”ワトソン”でパンを焼くぞっっ。
普段の職業は、腕のいいパン職人である。
当然、パイプも吸わなければ、アへ〇なんてもってのほかだ。
たまに、怪しげなパンを焼いて、ワトソンを爆発させるくらいだ。
ネプチューンH(ホバーユニット装備)型の背中のコンテナにパンを乗せ、学校に移動した。
『あ、おはようございます。帆無図さん」
金髪、碧眼、白衣の下はナイスバディな美人である。
ライバル登場。
『おはよう、ミス、森』
『お父さんの、ぎっくり腰は大丈夫かな?』
英国紳士な挨拶だ。
養護教員、森・亜丁。
別名、モリアティー養護教諭(教授×)。
ホムズのライバルであり、ジアゲ団の首領代行でもある。
現在、父であり首領である、”源三”がぎっくり腰のため、首領を代行している。
いつもは、学校保健医の知識を生かして、ジアゲ怪人の改良を行っている。
たまに、保健室に怪人用の培養槽を並べるが、
『美人には謎が付きものよ』
と強引に誤魔化している。
『ふふふ、おかげさまで』
モリアティーは、少し頬を赤く染めてホムズを見る。
『そうですか』
ホムズは、照れたように顔を背けた。
正体を知らないまま、お互い気になっているようだ。
『早く付き合えばいいのに~』
二人の女生徒が、保健室に入ってくる。
白金と黒川だ。
「”クジラに乗った魔法少女”の、”シロたん”と”マコたん”だよ~」
メグミが、ナンバに説明する。
”クジラに乗った魔法少女”のシリーズなのだ。
『大人をからかうんじゃありませんっ』
顔がさらに赤くなった。
その後、ホムズは、『踊る人形』の謎をパンを焼きながら解いたり、悪徳不動産の背後にジアゲ団がいることを突き止めた。
シリーズ恒例でもある、ホムズが操るホバーユニット装備の”ワトソン”と、今回はジアゲ用の”ブルドーザー高機動型”との、ハイスピードアクションが繰り広げられる。
ホムズにつかまって刑務所に入れられたジアゲ怪人は、巨大なクジラに深海に引きずり込まれるように、行方不明になるのだ。
ちなみに、モリアティー養護教諭は、近い将来”ジアゲ団”を寿退社するらしい。
◇
「面白かったね~」
「うん、しかし」
隣に泊めてある、緑の迷彩塗装された軍用艇を見ながら
「あれって、軍事関係者だよね」
ネプチューンの変形シーンで、「すげえ」とか「本物かっ」とか聞こえてきた。
「……ふふふ、イベントの時は、軍事関係者が半分くらい来るらしいよ」
メグミが笑う。
エレクトリカルパレードにも参考出品されたこともある。
今夜ナンバは、メグミのレントハウスに泊まる予定である。




