第57話、セントウ
メグミは今日は”準勤務”なので、訓練日にしている。
ヒイラギも一緒に、訓練に付き合っていた。
”呑竜”の艦内の左右を、艦首から艦尾まで通っている廊下を、ジョギングしている。
並んで4人くらいが走れる幅があった。
「そういえば……ヒイラギ准尉のお父さんは……海軍所属だったよね」
ハッ、ハッ
「はいっ……零戦乗りです……」
ハッ、ハッ
二人は、走りながら話をしている。
「あっ、艶男に選ばれた人?……」
(海軍の、ウルトラエースだ)
「そう……です……」
「……何故、陸軍に……」
「……父が有名過ぎて……居心地が悪いんです……」
「そっか……」
(聞きにくいこと聞いちゃったかな)
「オヤッ、メグミ、訓練かい」
180センチ近い長身。
燃えるような赤い髪。
アナスタシアだ。
「訓練日です」
「そうかい」
”吞竜”の中を、くるりと一周してくると、トレーニングウエアに着替えた、アナスタシアがいた。
「私も一緒に走るよ」
「日の出とと~もに起きだして~♪」
「「日の出とと~もに起きだして~♪」」
「走れと言われてひた走る~♪」
「「走れと言われてひた走る~♪」」
「俺によしっ」
おっとこれ以上は、嫁入り前のお嬢様方には良くないぜ。
2時間連続で走った。
◆
軍に決められている通り、銃の訓練をする。
”呑竜”の射撃場に来ていた。
メグミとヒイラギは、軍に支給されている、”73式ニューナンブ回転式拳銃”である。
ズルリ
アナスタシアは、巨大な自動拳銃を引っ張り出した。
”トカレフ、454、ビューティー・アンド・ザ・ビースト”
13mm徹甲弾使用。
黒一色に塗られている。
「これくらいじゃないと、”メガシャーク”には効かないよ」
ドゴオオ、ドゴオオ
音からして違う。
メグミやヒイラギでは、肩の関節が抜けかねないだろう。
「いいだろう」
「完璧さ」
◆
三人は訓練を終えて、汗を流すためにセントウに来ている。
どの軍艦や生活施設には、”セントウ”を設置することが、法律で義務付けられていた。
◆
”セントウ設置義務法”
日本国憲法第25条、第2項
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び”公衆衛生の向上及び増進につとめなければならない。
を基に作られた法律。
海水浄化技術(海水から水を作る)が未熟だった時代に、入浴文化を守るために作られた。
今や海水浄化技術は十分に発達し、各家にお風呂があるので形骸化しつつある。
◆
「お風呂はいいねえ」
アナスタシアだ。
胸も含めて全てが大きいが、バランスが取れ、スタイルは良い。
軽く20人は、入れる大浴場である。
壁には、頂上に雪が掛かっている富士山の絵が描かれていた。
窓の外は、海面ギリギリの高さらしく、青空と波打ち際が見える。
「ふ~、そうですね~」
メグミが浴槽で長くなった。
胸は小ぶりだが、スタイルは良い。
「そういえば、メグミ、昨日、ナンバ艦長と何してたんだい?」
「メグミ先輩?」
ヒイラギは、体を流している。
160センチ半ばの身長だが、意外と胸があった。
「……えっ……」
メグミの動きが止まる。
「いや、”石鹸投げるよ~”とか、”タオル行くよ~”とか」
男湯と女湯は、上で繋がっている。
「先輩、それって、”セントウデート”ですかっ?!」
ヒイラギが、メグミを振り返る。
「あっ、いやっ、そのっ」
メグミが全身、真っ赤になった。
「……ふ~んデートなのか……」
(日本の文化……なのかな)
「先輩っ、新婚さんみたいですねっ!!」
ヒイラギが、元気一杯だ。
更に赤くなる。
「ぐはっ」
メグミが撃沈した。




