第56話、マグナムカジキ
場所は、徳島県沖。
”航空母艦型神社、お松大権現”である。
「氏子の漁師から緊急入電」
「”マグナムカジキ”の群れが、紀伊水道沖から、住宅密集地に進入中」
◆
”マグナムカジキ”
成長促進薬”ソダーツX”によって、10メートル近くまで巨大化したカジキマグロ。
水面近くを泳いでいると漁船に大穴を開けたりするが、あまり水面近くは泳がない。
住宅密集地を泳がれると、海底から住宅を固定している鎖がズタズタにされ、大変危険。
(家がどこに漂っていくかわからない)
◆
「モニターに出せ」
艦長帽を被り、艦長席に座った50代前の男性が言った。
☆「ニャゴニャゴ」
艦長の膝には、太った老猫が眠っている。
ブリッジの中央にある卓上の戦略モニターが、付近の地図を写している。
元瀬戸内海の和歌山県と徳島県の間にある海の入口が、映し出されていた。
モニター上には、”マグナムカジキ”と漁船と住宅密集地の位置が、表示されている。
周りには副長も含めて参謀たちが、モニターを囲んでいた。
☆「にゃっ」
ノシッ
一匹の虎猫が、見せるかっと言わんばかりに戦略モニターの上に大の字になった。
「あっ」
新人の巫女なのだろう。
びくびくしながら、ネコサマを抱こうとするが、艦長が片手で制する。
☆最終的には、参匹になっていた。
いつものことなのだろう。
何事も無かったように、天井から斜めに吊るされた、別のモニターに視線をうつす。
「まずいな……」
「第一種戦闘態勢」
「スクランブル機を上げろ」
艦長が、膝のネコを落とさないように手で支える。
「トラネコ小隊及びキジネコ小隊、音響爆雷、ミケネコ小隊、誘導魚雷でよろしいか?」
フライトチーフだ。
「了承する」
「艦を、”マグナムカジキ”の群れに向けろ」
「了解」
操舵士が小さめの転輪を回す。
☆操舵士の前の窓際には、気持ちよさそうに寝ている猫が三匹いた。
一匹が大あくびの後、大きく伸びをする。
「両舷全速前進」
「了解」
機関室で巨大なエンジンが、重低音のうねりを発している。
フライホイールなど危険な場所からは、神職や巫女がネコサマを回収している。
☆「ミィミィ」
エンジンの熱で温かい床に、子猫の塊があった。
”コネコダルマ”である。
☆レーダー塔をキャットタワー代わりにしている猫は、神職や巫女が、懸垂下降で回収された。
飛行機用エレベーターに乗せられて、白と赤に塗られた神社仕様の、”シーキャット弐”が甲板に運ばれていく。
☆「にゃーーん」
甲板から一匹の雉猫が、上がってくる、”シーキャット弐”の翼に飛び降りた。
翼の上にネコの足跡を付けながら、翼の横で両手を広げて待っている、巫女の胸に飛び込んだ。
「第一小隊、トラネコ1、トラネコ2、カタパルト接続完了」
2機の”シーキャット弐”が並んでいる。
☆発進直前に、黒猫が前をよぎった。
オフィサーが、黒猫を肩に担ぐ。
「トラ1、発艦」
猫を肩に抱いたまま、体を前に倒し、腕を前におろした。
ドオオオン
可変翼を広げた、トラネコ1が飛びたって言った。
トラネコ、キジネコ、ミケネコ小隊、計9機の”シーキャット弐”が編隊を組んでいる。
☆「ニャア、ニャア」
キジネコ小隊二番機のパイロットの膝に三毛猫が登って来た。
「こちら、キジ2、”キャットストライク”を起こした」
「任務続行不能、帰還を希望する」
「こちら、オヤネコ、速やかに帰還せよ」
「了解」
”マグナムカジキ”は、音響爆雷に混乱させられた後、誘導魚雷を追いかけて、別の場所に行った。
数ある”氏子防衛用打撃神社”の中でも、”お松大権現”の神職や巫女ほど、予測不能な事態に強い集団はいないと言われている。
ここ5年ほど、老衰以外で、ネコサマを死なせていない。
◆
「ナンバ君、ナンバ君、今度の休暇に、”お松大権現”ネコガミさんにお参りに行かない?」
二人で一緒に大浴場に入りに来た。
風呂上がりである。
メグミの、上気した頬が色っぽい。
メインモニターに、”お松大権現”のホームページを開いている。
☆のマークのついた場面の写真が、掲載されていた。
”ネコサマの春の季節の後に、コネコたちに埋まってみよう”
神職及び巫女、急募。
とある。
風呂上がりのメグミに見とれていたナンバが、ホームページの写真を見る。
「えっ」
(戦略モニターにネコ?)
(コネコダルマ?)
(エレベーターから飛び降りるの?)
(ラぺリング?)
(キャットストライク?)
艦載機は、少ないとはいえ、”吞竜”も空母である。
空母の運用の難しさは、想像できる。
メグミは、驚愕してて固まってしまったナンバの顔を、心配そうに覗き込んだ。




