第54話、くらぶマン
アナスタシアは、ナンバがメグミに渡した本のタイトル、”大ナマコのコノワタと再生医療について”を見た。
「お、その本はなかなか興味深いねえ」
「知ってるんですか?」
ナンバだ。
「内容もいいけど、書いた人と、一杯飲みたくなる」
アナスタシアが腕を組んだ。
「ですよねっ」
「著者の、メグミさんです」
ナンバが、食い気味にいった。
どこか誇らしげだ。
「えっ、は、はい」
メグミが動揺して。ナンバを見た。
「ちょっ、ナンバ君」
「へええ、いいねえ」
アナスタシアが、二人を見てニヤニヤ笑う。
「今度、三人で飲もうや」
「そういや、ナンバ艦長だね」
「はい」
「この艦は、”気象兵器”の調査に来てるんだよね」
日本軍の公報に、協力を依頼する記事が乗っていた。
「雇われたげよっか?」
アナスタシアは、トーキョーディスティニーランド、極東方面軍所属の傭兵である。
日本軍とも、親密な関係にあった。
因みに、ディスティニーランドUSAは、トーキョーと同じような理由で、”皇帝大王イカ”の群生地になっている。
”アイオワ級戦艦の主砲塔”八門に、守られている違いはあるが。
「それはすごいと思いますが……」
アナスタシアは、装甲材研究の世界的権威でもある。
ステルス装甲であると思われるレインメーカーの発見に、役に立つかもしれない。
「本部に問い合わせてみます」
ナンバは、通信室にむかった。
「え~と、こほん」
メグミは、少し顔が赤い。
「アナスタシアさん、これって”くらぶマン”に乗りましたよね?」
ウエアウルフを指さして言った。
◆
”くらぶマン”
陸地が沢山あった時代から続く、エアバイクサイトである。
人型になる、まさに着るエアバイク”ウエアウルフ”として紹介された。
インプレッションでは、オーナーである、アナスタシアしか乗りこなせない、オンリーワンエアバイクと紹介されていた。
エアバイクを楽しむ人を、エンスージアスト、もしくはエンスーという言葉を作った。
◆
「おや、メグミちゃんも乗るのかい?」
アクセルを握るふりをする。
「はいっ、エアモトグッチに乗ってます」
「縦置きVツイン? またマニアックだねえ」
「トルクリアクションは? シャフトドライブだろう?」
「言うほど強くないです」
ウルフは、水冷4気筒(インライン4)ハヤブサエンジンである。
「対応時速300キロ、すごいんでしょう?」
ウルフを指差しながら言う。
「今度、後ろに乗せたげよっか」
アナスタシアは、嬉しそうに言う。
「是非、お願いします」
「アナスタシアさん……」
「ナスチャでいい」
ナスチャはアナスタシアの愛称。
「……ナスチャさん」
メグミに、エアバイク乗りの友人が出来た。




