第43話、ピラルクー
「認めないぞっ」
メグミの目の前には、10代半ばの若い少年が立っている。
5式戦のパイロットのようだ。
スクランブル訓練のブリーフィングで、メグミと”水無月”の参加が告げられた。
限定解除していることを告げた後に、言われたのである。
幼さを残した顔立ちに、負けん気の強そうな目をしている。
「あ~、イナバはこの前、限定解除の試験落ちたんだよね」
イナバの小隊の隊長のサクラギが、二人の間に割って入る。
「と言われても~」
メグミが困った顔をする。
「こんなふやけた女が~」
イナバが地団太を踏んだ。
「八つ当たりだよ~」
流石にむっとしている
「まあ、余分な装備のついた”水無月”じゃあね~」
サクラギが、やれやれと言う感じで肩をすくめる。
「隊長も言っているぞ」
イナバがさらに調子づいた。
「ちょっと」
止めようとしたオリガを、キャプテンのカイラギが止める。
「ふふ。いいぜ。メグミ中尉、あらゆる手段を使うことを許可する」
「サクラギ小隊が、イカさんチーム、インターセプト」
「残りの小隊と、A60”ライトニングボルトが、タコさんチーム、アタッカー」
「メグミ中尉は、タコさんチームでエスコート」
「以上だ」
「日時は、明日、0830開始。存分にやれっ」
「2回以上、落としてやるっ」
イナバが、メグミに言った。
「ふっ、すまんな。腕はあるんだが思い上がっちまって」
サクラギが、ニヤリと鼻で笑いながら言った。
「……ふふふふふ。やっちゃっていいんですよね、いいんですよねっ」
目がいっちゃってるぞ、メグミさん。
「オリガさんっ、この装備あります?」
整備長のオリガを呼んだ。
「うわっ、そりゃあるけど……。いいのかい」
(また、尖った装備を……)
「はいっ」
”水無月”にあって、5式戦にないもの。
それは、メインモニターと高度な気象観測用のレーダーである。
エイプリルフールの影響で、数字は当てにならないが位置の把握は簡単だ。
「くふふふふふふふ」
結果的に、スクランブル訓練は訓練にならなかった。
メグミが選んだ装備は……
◆
対メガシャーク用大口径狙撃砲”ピラルクー”
安全な距離から確実にメガシャークを倒すために作られた、スナイパーカノンである。
射程距離と火力に全振りした性能で、装弾数はたったの5発。
撃った後の強烈な反動で、生半可な腕では墜落の危険もある代物である。
◆
”水無月”は”ピラルクー”を左肩に背負っている。
長さが、機体の長さと同じくらいあるのだ。
「発艦できるのか?」
オリガが心配そうに見た。
軽々と発艦させたメグミは、作戦開始地点へ飛んだ。
最初にキルコールされたのは、サクラギだった。
「えっ」
近接信管つきの散弾が近くで破裂したのだ。
「くふふふふふふ」
メインモニターに繋いだ、双眼鏡で狙撃したのである。
目視では、豆粒のような大きさだった。
「貴方は最後よ~」
一瞬イナバ機を、レティクルに収めた後、隣の機体を狙撃する。
バコオオオオオオオオン
リコイルを必死に抑え込む。
「ヒットオオ」
イナバ機だけが残った。
「えっ、えっ」
「くふふふ」
メグミは迷うことなく、”ピラルク―”をパージ。
太陽の中から、イナバ機を強襲。
「ご、ごめんなさい~」
メグミはイナバがヘロヘロになって、泣いて謝るまでキルコールを連発し続けた。
唖然とした”ブラックオパール”の艦橋で、カイラギだけが腹を抑え、涙を貯めて笑い転げていた。




