第42話、限定解除
「整備したげよっか」
ブラックオパールの格納庫で、メグミは声をかけられた。
”水無月”を点検している時である。
振り返ると、180センチ近い整備服を着た女性が立っている。
短い髪にバンダナを巻いている。
同い年くらいか。
「えっと」
「オリガだ」
メグミの横に移動しながら、
「気象部仕様の”水無月”。いいね!十徳ナイフみたいな感じが好きさ」
……確かに、テントはったり、ヨットになったり、潜水したり……
「ありがとうございます」
ただでカニ鍋を貰ったりと、心苦しいメグミである。
「メインモニター見せて」
”水無月”の整備歴をみるためだ。
「ふんふん、操縦者……ってあんた、今月の艶女じゃないか」
「陸軍に弟がいるんだ、関係ないかもしれないけど、ありがとね」
「いえいえいえ、偶々です。はい」
両手を前で振った。
「ふふふ。あんた気に入ったよ」
「野郎どもっ」
「へーい」
「なんですか、整備長」
「あねご、あねごっ」
周りの整備士が集まってくる。
「ここにいるのは、今月の艶女様だよっ」
「お~」
「で、これが、艶女様の機体だ」
「おお~」
「フル整備だっ。空母付の整備士の腕、見せつけてやるよっ」
「おおお~」
「いやっ、あのっ、待って」
メグミは、心苦しさにもはや半泣きだ。
「んんっ」
「あんた、空戦免許”限定解除”してるじゃないか」
「ほんとだ」
周りの整備士も集まって来た。
◆
”空戦免許の限定解除”
日本軍の飛行機の操縦資格は、免許制を採用している。
その中でも、”限定解除”は、機体の種類、大きさを問わず操縦することが可能で、小隊長クラスが所有するものである。
また、小隊員に発砲を許可することも可能。
◆
「……若気のいたりです……」
乗れない飛行機があるのが気に入らなかったのだ。
「ふ~ん、そうだ。明後日のスクランブル訓練に参加してみないかい?」
「キャプテンに言っといてあげるよ」
”カッコウ”とか、”托卵”と呼ばれる行為である。
「私なんかでよければ喜んで……」
少し卑屈になっているメグミである。
「野郎どもっ、明後日までに、完璧に(”水無月”を)仕上げるよっ」
「アイアイッ」
◆
スクランブル訓練、参加機体
五式戦闘艇、”三日月”六機。
米国製対地攻撃艇、A60”ライトニングボルト三機。
と言うことが知らされた。




