第35話、レインメーカー
日本海軍に気象部が出来た当初から、ある噂があった。
スーパーハリケーンなどの異常気象は、”幽霊船”もしくは”レインメーカー”が起こしているというものだ。
実際、スーパーハリケーンの中で、未確認の船を見たと言う報告書が何件かあげられていた。
「うわ、急に天気が変わったよ」
さっきまで晴れていた空が、今では真っ暗だ。
翼の上のテントを大慌てで畳み、コックピットに入ってキャノピーを閉めた。
突然の大雨で、雨粒がキャノピーにバシバシ音を立てて当たってくる。
視界はゼロで、雷が鳴り始めた。
「……レインメーカーが来てる……」
「なんてね」
少し不安になったメグミは、全方位パッシブレーダーと、パッシブソナーの動作を確認した。
近づくものがあれば警告音で知らせてくれるはずだ。
識別コードも出してあるし、機首と垂直尾翼の先の識別灯も点滅している。
メグミは、シートを倒してフルフラットにして、横になりメインモニターで、”新着の学術論文”に目を通し始めた。
しばらくした後、そのまま寝入ってしまった。
◆
”完全AI型気象操作兵器搭載ステルス艦、レインメーカー”
大戦中、”大国連合”が極秘裏に開発した、ナノマシンを使って気象を操作する兵器。
平面を組み合わせた、護衛艦クラスのステルス艦でレーダーに映らない。
艦内にナノマシン製造工場を持ち、海水酸素水素分離型ジェネレーターで、故障するまでほぼ無限に活動が可能。
”レインメーカー”のAIは、大戦末期、”エイプリルフール”が世界中に拡散したとき、正しいデータを表示しているにもかかわらず、全く違う数字を言う人間の反応が理解できず、”自律隠蔽モード”に入った。
AIの構造上、モニターの情報だけが変わっていることに気付けなかったのだ。
◆
”レインメーカー”は”水無月”の近くに無音で近づいた。
気象を操作して、艦の周りだけは雨も風もなく静かである。
長年メンテナンスも受けずに海上をさまよっているため、船体はところどころ傷んでいる。
:識別コード……日本海軍
:友好国と確認
:サーモセンサーでパイロットを調査
:睡眠中
:良い夢を
”レインメーカー”は静かに立ち去った。
彼は、海の底に沈んだ、かっての敵性国家の跡を、気象を荒らしながらさまよい続けている。
海の底に沈んだ”母港”から、来ることがないであろう”帰還命令”を待ちながら。
「これは……」
次の日、天気は晴れている。
メグミは海に浮いて、”水無月”の機体にコツンと当たってくる、部品を見つけた。
”レインメーカー”から剥がれ落ちた”ステルス装甲”の一部だ。
この発見が、異常気象の解明の第一歩になるのである。




