第32話、シロたん
メグミは、タコパの後ガンテツで泊めてもらうことになった。
この辺は、持つ持たれつなので遠慮はしない。
ガンテツの浴場でお風呂に入った後、休憩室で合成のコーヒー牛乳を片手に、テレビを見ている。
消灯時間が過ぎているので、最低限の明かりしかついておらず、テレビの青白い光が休憩室を照らしていた。
「あ、”シロたん”だ。 懐かしいな~」
「シロたんっ♪、マコたんっ♪、クジラに乗った魔法少女~♪」
「この主題歌歌えるな~」
まだ水没していない時代の東京が舞台で、富士山と東京タワーがアニメ調に描かれていた。
「そうそう、シロたんとマコたんは、二人組の売れないアイドルユニットなんだよね」
ボーとした目でテレビ画面を追っている。
「二人のマネージャーの瀬見神さんだ」
30歳手前の地味なスーツで、ひっつめ髪に黒縁眼鏡のスタイルのいい女性である。
シロたんとマコたんが遊園地の野外ステージで歌っている。
「「ジッアーーーーーゲッ」」
「この土地は、悪の組織、ジアゲ団がジアゲしたっ」
「この土地は我々のものだジアゲ」
二人の怪人が乱入してきた。
海上生活を余儀なくされる現代人(大人)が、最も憤る場面である。
「くっ、なんて酷いことをっ」
メグミも、思わずグッと手に力が入った。
「変身よ~」
シロたんは白、マコたんは黒、巫女の衣装をモチーフにした魔女服に変身する。
最初は、(何故か)肉弾戦を仕掛ける二人だが通用しない。
「マコたんっシキガミを呼ぼうっ」
「シロさん、シキガミを呼びましょう」
「「シ・キ・ガ・ミ召喚」」
上から見下ろした東京の街全体に、召喚陣が広がる。
次の瞬間、やけにリアルに描かれた、水没して東京タワーは半ばで折れた現在の東京が現れる。
「ああっ、そんなっ」
思わずメグミが声を上げた。
年配の方は、涙する者もいると言う。
「来て、シロちゃん」
巨大な、”シロナガスクジラ”が怪人の一人を、真っ暗な深海に引きずり込む。
「来なさい、マッコウ」
今度は”マッコウクジラ”がもう一人の怪人を、深海に引きずり込んだ。
「う~、深海の怖さに初めて見たとき大泣きしたな~」
「油断してるジアゲ」
怪人は三人いるのだ。
「させないわっ」
瀬見神さんは、二人の師匠なのである。
「……変身……」
恥ずかしそうに変身する。
やたら胸元や腰が強調された巫女の衣装をもとにした、魔女服である。
「三十路前でこの格好はつらいのよーーーー」
流石師匠だ、無詠唱でシキガミを召喚。
巨大な”セミクジラ”が三人目の怪人を深海に葬り去った。
「……思わず見入ってしまった。 流石50年近く続いてるだけあるな~」
◆
”情報収集電波受信箱”
日本軍が採用している普通のテレビである。
エイプリルフールの影響を受けない、ブラウン管式。
カチカチとチャンネルが回せるぞ。
◆
テレビの上に、”情報収集電波受信箱”と書かれた、三角にされた画用紙が置かれている。
メグミはテレビを消し、”情報収集電波受信箱”の画用紙の横にある”情報収集中”と書かれた画用紙を静かに倒した。




