第31話、タコパ
”コンゴウリキシ”3機は、沈んだ漁船を目指し、潜航中である。
時々、”ガンテツ”のソナーの反応を聞きながら、両肩の横と太ももの横に着いた、可動式の水中ジェットを吹かしながら、真っ暗な海に沈んで行く。
しばらくすると、海底に横たわっている、漁船を見つけた。
船体の横に、ひっかかれたような大きな穴が開いている。
「隊長、見つけました」
スズキが穴に近づく。
「待て、スズキッ」
次の瞬間、穴から巨大な蛸が出てきて、スズキの”コンゴウリキシ”にまとわりついた。
「”グレートオクトパス”だ、ウミガメから隠れてたんだ」
「うわああああ」
スズキの視界一杯に、インコの嘴のような、蛸の”カラストンビ”が迫っている。
カチ、ゴリと胸部装甲をかじられている音がした。
「サ、サエコさんっ」
「今、助けるっ」
ウエタ機が背中のツルハシを手に装備、蛸の急所である、目と目の間を叩く。
自動で水中ジェットが叩いた反動から、姿勢を保った。
刺さりはしなかったが、少し体が離れた所に取りつき、
「超振動短剣、右手っ」
火器管制を音声操作、右手の二の腕から、超振動ナイフが飛び出し、右手が掴んだ。
ナイフで、絡んでいる足を、根元から1本切り落とす。
”グレートオクトパス”が真っ黒な墨を吐きながら、”スズキ機”から離れた。
墨で視界ゼロだ。
「視界を温度探知に変更、タナカ、スズキ機を強制浮上、後共に浮上しろ」
「了解」
スズキ機の背中に回り、黒と黄色の縞に塗られた、四角いレバーを引いた。
機体各所に着けられた浮袋が膨らみ、浮上する。
ウエタ機とタナカ機も、周りを警戒しながら一緒に浮上した。
◆
上空でメグミは、スズキ機が”グレートオクトパス”に襲われたことを無線で聞いた。
”スズキ機”の浮上場所を探すため、周りを”水無月”で飛ぶ。
「見つけた。まずい、蛸の足がまだ動いてる」
スズキ機にまとわりついている蛸の足が、うねうねと動いている。
”スズキ機”の近くに緊急着水。
エマージェンシーボックスから、”リボルバー拳銃”を出し、空の薬室に”電磁麻酔弾”を装填した。
◆
”73式ニューナンブ回転式拳銃”
日本軍が採用している、5連装のリボルバー銃である。
銃身がシリンダー下部にあり、銃身の交換を容易にしている。
整備が簡単で頑丈、薬莢が飛び散らない(再利用するため)ことから、回転式が採用されている。
◆
パンパンパンパンパン
弾が当たった所で、パリッパリッと青白いスパークが起こる。
スタンガンのように電気で麻痺させるのだ。
5発打ち切り、シリンダーを横に出して、コックピット内に薬莢を落とした。
クイックローダーで装填、さらに5発撃ち込んだところで足の動きが止まる。
「ふう、ここだよ~」
無線で、”ガンテツ”に位置を知らせた。
◆
”コンゴウリキシ”の、MBTの120ミリ主砲弾すら跳ね返す、可動式装甲である胸部ハッチに、蛸にかじられた傷がある。
その前に、”コンゴウリキシ”を脱いだ、スズキが頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
慌てて走って来た、キバ軍曹と、ヒナコ少尉は、
「大丈夫か?」
「視界一杯に、サエコさん、ヨメさんの顔が・・・」
スズキが震えながら言う。
「それはヨメじゃない、死神だ・・・」
しばらくした後、
胸部ハッチを開けた、ウエタとタナカの所にスズキが歩いてきた。
「「スズキ、大丈夫か?」」
「もう大丈夫でありますっ」
スズキが胸を張る。
「本当にか?」
ウエタが心配そうな声を出した。
「ヒナコ少尉に、頭を撫でてもらいましたっ」(きりっっ)
「よしっ、大丈夫だなっ」
ウエタが力強くうなずいた。
「ふふ、大丈夫のようだね」
タナカがほっとしたように微笑む。
「スズキ二等兵、任務に復帰するでありますっ」
「「「吶喊っ」」」
”コンゴウリキシ”をまとった、日本陸軍の”益荒男”たちが、勇ましく、危険溢れる海に飛び込んで行った。
◆
その夜、”ガンテツ”の上部甲板で”グレートオクトパス”の足を使った”タコパ”が行われ、メグミも呼ばれて参加した。
蛸の足を”電磁麻酔弾”で素早くシメたことが感謝され、ヒナコ少尉に頭を撫でられる。
まわりの隊員の称賛と嫉妬の声に、何とも言えない微妙な表情を浮かべてしまうメグミである。




