第30話、コンゴウリキシ
少し前、”ガンテツ”のブリーフィングルーム。
「土木部、第2小隊、整列っ」
小柄だが、茶色い軍服からあふれんばかりの筋肉をした男が、野太い声を出した。
ザッ。
茶色い軍服を着た、男3人が整列する。
「今回の任務の内容を伝えるっ」
「ヒナコ少尉、お願いします」
「はい、キバ軍曹」
隣にいた、ひっつめ髪に小柄で少しふくよかな女性が、白いチョークを手に取った。
色白で笑顔が優しそうな、おっとり美人である。
目の前の黒板に、きれいな字で任務内容をカリカリと書いていく。
「今回は、漁船の引き上げだっ」
細かい所を黒板を使いながら説明した。
「説明は以上だっ、気をつけっ」
「ウエタ一等兵、飯はしっかり食ったかっ」
「しっかり食べたであります」
「よしっ」
キバ軍曹が大きくうなずく。
「タナカ二等兵、ふんどしは新しいかっ」
「白い雲のように、真っ白であります」
「よしっ」
「スズキ二等兵、貴様は新婚だったな」
「そうであります」
「カアちゃんの胸はあたたかいかっ」
「暖かくて、柔らかいでありますっ」
「よしっ」
「ヒナコ少尉に、ナデナデしてもらいたいかっ」
「「「してもらいたいです」」」
「まあっ」
ヒナコ少尉が、少しうつむいて頬を赤らめた。
「皆、無事に帰ってこいっ、擦り傷1つ許さんっ」
「装備は、潜水土木作業仕様の”コンゴウリキシ”にBタイプフローターだ」
「装備を装着後、格納庫で待機」
ヒナコ少尉が、魔除けの火打石をカチカチと鳴らしていた。
ヒナコ少尉は、”月間、最も撫で撫でされたい女性士官ランキング”5位の優秀な士官である。
◆
”陸軍70式機動甲冑、コンゴウリキシ”
陸軍が正式採用している、”パワードスーツ”である。
陸軍らしく角ばったデザインだが、”リキシ”の名に反して、スマートでスラッとしている。
特にマニュピレーターや、バランサーは繊細で緻密な動きが可能で、”稲刈り”や”森林での芝刈り”に役に立つ。
隊長機は、顔に4つの丸いレンズを四角く装備し、一般機は2つのレンズを左右に装備している。
さらに、隊長機は扱いの難しい”ツルハシ”を、一般機は”スコップ”を背中に装備するのが普通である。
◆
パシュン
ウエタ隊長が、”コンゴウリキシ”の胸部ハッチを、甲冑の手で閉めてくれる。
モニター越しに、4つ目の隊長機の顔が見えた。
「スズキ、潜水時間が少し短かったな」
「そうであります」
少し前まで、富士山でお米を作っていた。(”コンゴウリキシ”で)
「何かあったらすぐ呼べ、分かったな」
「了解であります」
スズキは、隊長機の背中の”ツルハシ”がとても頼もしく見えた。




