第3話、呑竜
メグミは、飛行艇”水無月”をヨット状態にして走らせている。
ソナーに感があった。
巨大なものが、海中から浮上してくる。
識別(IFF)信号を受信した。
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日本空軍所属、酔鯨級潜水空母、”呑竜”
超伝導電磁推進装置、装備。
飛行艇を最大5機まで収納可能。
空軍が誇る大型の潜水空母である。
◆
「こちら、”呑竜”。近くに浮上する。メグミ中尉久しいな」
「ナンバ艦長。久しぶりだね」
無線で答える。
完全に浮上した、”呑竜”に”水無月”を横づけにした。
もやいで”水無月”と”呑竜”を繋ぐ。
ウエットスーツの機能を備えた、ぴったりとした飛行服は、スタイルのいいメグミの体を浮き立たせる。
ショートカットの黒髪を、ソバージュにしていた。
男所帯の”呑竜”の乗組員には、いささか目に毒だ。
「メグミちゃ~ん。いつもかわいいねえ」
”呑竜”の甲板に引き上げてもらいながら
「ありがと~」
手の空いた乗組員が、外の空気を吸いに甲板に出て来ている。
軍服に艦長帽を被った、20代半ばの男が近づいてきて
「元気にしてたか?メグミ中尉」
「おかげさまで。ナンバ艦長」
「何か足りないものはないか?」
「う~ん。そうだ。煙草ない?切れちゃって」
「分かった。ちょっと待ってろ」
艦内に入っていった。
「これでいいか?」
ナンバは、煙草とスキットルに入ったウイスキーを、メグミに渡す。
「ちょっ。いいのこれ」
植物が原料の酒は大変貴重だ。
海洋生物の巨大化で食料は十分にあるが。
「……今度食事でも一緒にどうだ?」
「……いいよ。次の休みを教えて」
「艦長~ナンパですか~」
「ちょっと基地まで乗ってかな~い」
乗組員の一人が、後ろの飛行艇用のハッチを親指で指しながら言う。
「電磁カタパルトもつけるよ~」
別の乗組員が、甲板中央を走る電磁カタパルトのレールを叩いた。
「ありがと。でももう少しで空へ上れそうなんだ」
「そうか。この周辺にメガシャークも見ていない」
「緊急信号は、なるべく早く出すんだぞ」
「分かった」
しばらく話をして”呑竜”と別れた。
その日の夜、飛行艇の翼の上、満天の星の下である。
煙草を吹かしながら、
「ナンバ艦長か……」
スキットルから飲んだウイスキーは、ほんの少し甘い味がした。