第27話、リュウグウウミガメ
漁船と別れて、3日経った。
貰った大アワビも、残りあとわずかである。
「グレートカロリーフレンドだけじゃあ、味気ないからな~」
魚でも釣ろうかと考えながら、双眼鏡を使って観測していると、漁船がいた方向に、救難用の赤い信号弾が見えた。
「漁船に何かあった?」
メグミは、コックピットに飛び込み、”水無月”を緊急発進させる。
メインモニターの海図に、”日本海軍所属、海洋資源採取用特殊装備搭載船”と出ている1つをタップした。
(個人で”漁船”なんて持てない。漁師さんたちは、日本海軍に所属している)
1瞬、モニターにノイズが走る。
”乗組員1人”
「エイプリルフールめええ、中型の”漁船”が1人で動くかああ」
「急いでるのにっ」
モニターの距離も当てにならない。
減速して目視で距離を確認しながら近づく。
漁船2隻が横転、1隻が中破していた。
「メーデー、メーデー漁船、2隻横転。1隻中破。怪我人あり、救助をお願いっ」
緊急回線に叫んだ後、大型の緊急用照明弾を打ち上げた。
辺りの空が赤く染まる。
その下を、巨大なウミガメの黒いシルエットが2体、ゆっくりと動いていた。
◆
”リュウグウウミガメ”
甲羅の長さが30メートルに達する大型のウミガメ。
穏やかな性格で人は襲わない。(人が小さすぎて気づかない)
本来、深海にいて滅多に海上まで浮かんでこない。
通常のウミガメと同じように、クラゲが好物で、”グレートエチゼンクラゲ”を食べるために浮上してきた模様。
◆
30メートル近い巨大なウミガメ2匹が、クラゲをゆっくりと食べている上に、漁船から投げ出された猟師たちが浮いている。
襲って来ないとはいえ、巨大なウミガメのいる海に降りるのは怖い。
「女は、度胸っ」
胸元の、”こんぴら神社”のお守りを握った。
「”水無月”の翼に乗ってっ」
大声で言いながら、頭から血を流している男性の近くに着水させる。
意識がないようだ。
コックピットから海に飛びだして、男性のライフジャケットの襟元を掴んで、翼に引き上げる。
上がってきている人に、
「全員で何人?」
「15人」
翼のハッチを開けてAEDを出し、近くの人に渡す。
「お願いっ」
すぐに渡された人が、意識のない男性に救急処置を行う。
メグミは、別の怪我をした人を助けにもう一度、海に飛び込んだ。
腕が折れた人と、足が折れた人がいた。
「15人全員いる?」
大急ぎで人数を数える。
漁船内に残された人は、いないようだ。
「こちら、病院飛行船”ナイチンゲール”、救急機を飛ばした。5分以内に着く」
無線から声が聞こえた。




