第26話、クラゲ柱
受け持ちの地域まで、”水無月”を飛ばしていると、海面に魚が沢山、飛び跳ねているのが見えた。
「おや?」
キャノピーを開けて、高度を下げる。
魚が跳ねている先には、透明のジェリー状のものが漂っていた。
「”クラゲ柱”が立ってたんだ」
◆
”グレートエチゼンクラゲ”
体長ゆうに20メートルはある巨大クラゲである。
その触手にある毒針は、小さな槍と同じくらいの長さがあり、猛毒を持っている。
しかし、自分からの動きはほとんどなく、対処は簡単である。
大切な所は、メガシャークなどの大型肉食生物の天敵であることだ。
たとえ獰猛なメガシャークでも、触手と毒針の前には捕食されてしまう。
大型肉食生物から安全な、グレートエチゼンクラゲの周りに中型の魚が集まることを”クラゲ柱が立つ”と言い、魚がたくさん取れる。
◆
少し離れた所に、漁船を3隻見つけた。
無線で話しかける。
「こちら、日本海軍気象部、”水無月”」
「近くに、クラゲ柱が立ってるよ」
位置を教える。
「おーうありがとう」
「これから仕事かい?」
「そう」
「ちょっと寄ってきなよ、大アワビがあるんだ」
「教えてくれたお礼にあげるよ」
マニュアルには、人と遭遇した場合、なるべく直接、顔を見て確認するようにとされている。
漁船の近くに”水無月”を着水させる。
「はいこれ」
大きさは、大き目のお盆くらい。
渡された大アワビは、すこし、貝殻が欠けている。
「どうせ、売りもんにならないから」
「ありがと~」
「何かあったら早めに緊急信号を出してね」
「近くで観測してるから」
「うん、お疲れさん」
漁船のおじさんたちと手を振って別れた。
◆
受け持ち地区に着いて、”水無月”を着水させ、翼の上のテントを広げた。
夕飯は、大アワビの身を半分使って、刺身と簡易コンロで焼きアワビを作った。
残りの半分は、簡易燻製機で燻製にするつもりである。
大アワビを肴に、少し日本酒もどきを飲んだ。
「月明かりの下もいいよね」
月と星と、オイルランプの心細い光しか、明かりがない海の上。
天の川に十字に交わるように、”エイプリルフール”の白い帯が漂っている。
「ん~、少し寂しいかな?」
メインモニターで、クラッシック曲を掛けた。
「Fly to the moon……」
メグミは、曲に合わせて小さく歌っている。




