第25話、カガミモチ
日本海軍気象部のブリーフィングルームに、休み明けの隊員が10名ほど、まばらに座っている。
隊長が来て、
「ブリーフィングを始める」
「まずは、スパイラルを観測した、メグミ中尉に拍手っ」
パチパチと気のない拍手が起きた
「やあやあ、どうもどうも」
メグミが周りに頭を下げている。
日本の周りの状況の大まかな説明の後、
「各自、手元の書類とメインモニターから持ち場を確認すること」
「起立っ」
ザッ
「掛け声っ」
「いのちをだいじにっ」
「「「いのちをだいじにっ」」」
「出動っ」
日本海軍、気象部の隊員が、勇ましく出動していく。
◆
メグミは、基地の2階にある飛行艇格納庫で”水無月”の発進の用意をしている。
「・・・チェック」
「・・・チェック」
”水無月”は避難潜水の後、フル整備されているとはいえ、故障があれば困るのは自分である。
最終チェックは入念に行う。
ふと、開いた格納庫のハッチから下を見ると、白くて丸い飛行艇が着水してくるのが見えた。
丸い機体に、さらに丸いレドームを背負っている。
回転の止まっているレドームには、”07”と書いてある。
◆
”レドーム搭載型、中型水空両用飛行艇、満月”
真ん丸いリフティングボディ中央に、バブルキャノピーを上下に装備した複座式。
牽引式双発レシプロエンジンに、フロートを左右に二つ。
ある程度、”潜水艇”として、水中を移動可能。
キャビンがあり、ある程度の生活スペースを備える。
丸い機体に、丸いレドームを備え”サトリシステム”を運用する。
”サトリシステム”は、百目鬼ネットの通信環境の、補完および強化を行うシステムである。
交代で地域をカバーする。
乗組員の”オリエ”は丸い機体と、丸いレドームから、”カガミモチ”と愛称している。
◆
「あっ」
メインフレームの”個別通信”を開く。
「お帰り。オリエ、ヒビキ」
友人である、長身の”オリエ”と、黒縁眼鏡をかけた小柄な”ヒビキ”を思い浮かべる。
同じ同期で、二人とも中尉である。
「ただいま。メグミ」
「ん、ただいま」
「ていうか、聞いたわよ~」
「ナンバ艦長とデートしたんだって~」
”オリエ”が声を上げた。
「えへへ、付き合うことになりました~」
「なっ、こんな変な娘で大丈夫?」
「ん、ナンバ艦長は、最初からメグミに気があった」
”ヒビキ”が眼鏡を上げる。
「どうしたのよ。あんな優良物件」
しかし、ナンバの愛読書は、”ナマコの学術論文”である。
「えへへ」
「いや~、デートで、”イズモ”に”こんぴら参り”してきたよ~」
「46センチ砲の発砲を見たよ~、”文福茶釜”の30センチ砲とは迫力が違うねっ」
「”神雷”のスクランブル発進も見えたよ~」
「・・・あんた、マニアックなことばっか言ってないで、おしゃれとかにも気をつけなさいよ」
「ナンバ艦長に呆れられても知らないわよ」
「ん。それは大丈夫と思われ」
その後、色々話した後、
「じゃ、そろそろ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「次の休みで、飲みながら詳しく聞くわよ」
「ん。」
「分かった~」
メグミは、2階の格納庫から、電磁カタパルトで”水無月”を射出、出動した。




